個人タクシーはどうしたらなれる?個人タクシーの平均年収は?

公開日:2024/12/27 21:08


タクシーには二種類あることが一般にも知られています。会社に所属している法人タクシーと、個人事業主がやっている個人タクシーです。今回は、後者について解説します。年収がどのくらい増えるのか、あるいは減ってしまうのか、そうした具体的な情報は、なかなか表には出てこないものです。かくいう著者は法人タクシーのドライバーなのですが、伝聞などで情報を得る機会は一般の方々よりもはるかに多く、自分自身が職業選択をした経験も踏まえて、その実際をお伝えできることと思います。



 事業者は小さな社長


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まず最初に、年収についてお話したいと思います。タクシードライバーの収入は、お客さまからいただいた運賃から出ます。極端な話をすると、一ヶ月まったくお客さまを見つけられなかったドライバーの収入はゼロになります。逆に、たくさんのお客さまを見つけた場合には収入はどんどん増えていきます。これは、法人でも個人でも同じことです。ただし、このシステムが、法人と個人では大きく異なります。


まず、法人タクシーの場合には、歩率が決められています。歩率は売上や勤務数によっても変化することがあるので、あくまでも目安ですが、50〜60%が標準です。月の売上が80万円であった場合には、歩率50%のときは40万円、60%のときは48万円となります。ここでひとつ注意すべきことは、消費税です。法人タクシーの場合には、消費税を抜いた金額で計算する必要があります。つまり、お客さまが1100円の運賃を支払ったとき、そのうち100円は消費税として、会社を経由して国に納めるのです。タクシードライバー同士の会話では消費税が「抜き」なのか「込み」なのかを必ず言います。「抜きで7コロいった」とか「込みでようやく5コロ、抜きで6までは行きたい」というような言い方をします。コロ」というのは専門用語で、1万円を1コロ、2万円を2コロと言います。暗号通信みたいですが、本当にこんな会話をしています。


つまり、法人タクシーの場合、月の売上が税込みで80万円であった場合には、税抜きであればおおよそ73万円になります。ここに歩率をかけて、60%の場合には43.8万円になります。この数字をひとつの目安としましょう。では、個人が税込みで80万円を売り上げたときにどうなるのでしょうか。基本的には、80万円全額が売上金として個人事業に入ります。つまり、歩率は100%ということです。法人タクシーで述べた消費税については、売上が1000万円以下の個人事業主は支払いが免除されることになっています。実際に何人くらいの事業者がどの程度消費税を免除されているのかは流石に把握していませんが、1000万円以上の売上を出している事業者はかなり少数派だと思いますので、大多数が支払い免除になっているだろうと推定しています。


もしも売上1000万円以上を目指すのであれば、あるいは細かい税務などが気になる場合には、税理士か税務署に問い合わせてみてください。「消費税を免除されて、歩率が100%ならば、法人タクシーのほうが儲かるじゃないか」と思われる方もいるかもしれませんが、そう単純にはいきません。法人タクシーの場合には、タクシー会社が、タクシーの整備費や車両税などの各種税金を支払い、税務などの処理もしてくれます。燃料代も会社が負担してくれますし、事故などが起こった際にも、基本的には会社が保険を使って修理することになります。


 個人の場合には、個人事業主であるため、これらをすべて自分で負担する必要があります。フリーランスの漫画家やライター、Youtuberなどと同じように、自分で売上と経費を計算して確定申告することになります。人によっては、これがあまりにも苦痛で法人ドライバーに戻ったという話を聞いたことがあります。80万円全額が入るというと、すごく美味しい商売のような気がしますが、諸経費が引かれていくのです。燃料費がどのくらいなのかにもよりますが、結局の収入は60万円前後になるのではないかと思われます。着け待ち中心で燃料をあまり使わない場合には、70万円近くになるかもしれません。「流し」や「着け待ち」といった営業スタイルについては、別記事で詳しく解説しています。


個人事業主になるということは、小さな会社の社長になるのとほぼ同じことです。なので、すべて自分の売上で賄わなければなりません。特に、燃料費については深刻な問題になるでしょう。個人では長時間の着け待ちをしてお客さまを待つスタイルの営業方法をとることが多いのですが、これは燃料費を節約するためでもある、と聞いたことがあります。着け待ちをしていれば事故のリスクを減らせるからだという話も聞いたことがあります。万が一、事故を起こしてしまった際の代償が、法人タクシーよりも大きいのです。法人タクシーならば、仮にタクシーが走行不能になったとしても代車に乗れば営業することができます。個人の場合は、修理に出して戻ってくるまでの間は営業することができません。それが長引く場合には、他のアルバイトをするなどしてしのぐしかない、なんてこともあるかもしれません。


さらに、ほとんどの事業主が各種の個人タクシー関係の協会に入っていると聞いています。入るためにいくらかかるのかは、諸説ありますが毎月2〜4万円ほどと言われています。入らない人もたまにはいるようですが、入っている人がほとんどで、加入すると確定申告などの税務を手伝ってもらえたり、無線配車サービスに加入できたりするなどの特典があるようです。ちなみに、協会に加入しているタクシーは、上部についている行灯でわかります。東京の場合、たとえば提灯型の行灯は都営協、でんでん虫の行灯は東個協といった具合に違いがあるので、見てみると面白いかもしれません。


個人タクシーの最大のメリットは、営業する時間を自分で選べることでしょう。朝の出勤ラッシュと夕方の帰宅ラッシュだけ毎日仕事をしている、というドライバーに出会ったことがあります。そこに、一番需要の高い金曜日の夜を組み合わせれば、そこそこの売上になると話してくれました。お客さまが少ないコロナ禍は、法人にとっても個人にとっても大変な時期でしたが、営業時間を自由に変えることで何とか乗り切ったとも、そのドライバーは言っていました。


法人タクシーの場合、タクシー会社によっては金曜日の夜の激戦区などでは、ベテランや営業成績の期待できるドライバーが優先的に配車されることもあります。そのような決まりがなくてもシフト制なので、一番の売上が期待できる金曜日に乗務できるのは、月に2回が平均というところでしょう。個人の場合は、自分の都合ですべての金曜日や祝前日に営業することができます。また、台風や大雨などの特別な需要が見込めるときにも、営業することができます。逆に、土日などの需要が小さいときには休むことも自分で決められます。こういった自由さが、個人の最大の魅力と言えるでしょう。


 平均収入は?


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タクシードライバーは歩合制で、収入がどれくらいなのかは人によって大きく異なります。あくまでも参考にしかならないのですが、平均額を調べてみることにしましょう。法人ドライバーの場合を例にとると、東京では404万円、大阪では385万円、北海道では308万円、と地域によって大きく異なっています。


では個人の場合はどうかというと、全国ハイヤータクシー連合会によれば、平均年収は342万円とされています。こちらも地域差はあるはずですが、おおむね300万円から600万円の範囲には入ると思われます。ただこれも、老後のタクシーライフをのんびり楽しんでいるドライバーと、法人タクシー時代よりも年収を増やそうとしているドライバーでは、随分と違ってきます。


前者の場合は、体力的に無理がないことが大切なのに対し、後者の場合は、とにかく売上重視です。売上重視の場合にいくらになるのかについてはデータをもっていないのですが、法人タクシーの売上げを参考にするならば、法人で稼げていた人であれば年商1000〜1200万円くらいは問題なく狙えると思います。高額の固定客が多い場合には、月の売上が150万円ということも不可能ではないと考えれば、このくらいの数字が見えてくるのです。そうなると、年商は1800万円で、ここから経費を引いたものが年収となります。決して簡単なことではありませんが、個人の営業を極めていけば、可能性は見えてくるかもしれません。


 個人タクシー運転手になるには


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営業資格を取るためには、いくつか条件があります。まず、65歳未満で、二種免許をもっていることです。そして、自己所有のタクシーを使って営業していく都合上、運転資金や設備資金があるかどうかも確認されます。


一番重要なのが運転経歴です。これがやや複雑なので、しっかり解説したいと思います。運転経歴については3つの年齢区分に分かれるので、それぞれ見ていきましょう。


(1)年齢が35歳未満の場合

10年以上タクシーまたはハイヤー事業者に運転手として雇用された経験があることが、個人タクシー事業者になれる条件です。また、同一営業区域であることが必要なので、東京で10年間タクシーをしたあと、大阪でということはできません。さらに、10年間無事故無違反であることも必要です。これはとてもシビアな条件です。つまり、新卒か、それに相当する年齢でタクシー会社に就職し、基本的にはその期間中ずっと無事故無違反で続けないと、全ての条件を満たしません。10年間、ずっと路上で営業をしていて無事故無違反というのは、決して簡単なことではありません。どのくらいのタクシードライバーが35才未満で個人と相成るのかわかりませんが、それほど多くはないことでしょう。


(2)年齢が35歳以上40歳未満の場合

同一の営業区間で、自動車の運転を職業としていた期間が10年以上あることが条件です。35歳未満では、タクシーまたはハイヤー事業者限定ですが、この区分では、たとえばバスドライバーなどの他の業種でも良いことになります。ただし、一般旅客事業以外、つまりバスやタクシーなどお客さまを乗せる仕事以外での運転をしていた場合には、その期間は50%に換算されます。つまり、タクシー8年、他の運転業4年(2年に換算)で、資格を満たしたことになりますが、タクシーまたはハイヤーの運転をしていた期間が最低でも5年は必要です。また、3年以上継続してけていたことも条件に入ります。たとえば、2年やっては辞めて、別の仕事を少しやってまた戻り、2年やっては辞めて……、という場合では条件を満たさないことになります。ただし、10年間無事故無違反の場合には、(3)の条件に該当することになります。


(3)年齢が40歳以上65歳未満の場合

タクシー業界は、30歳以降に転職してくる人が多いので、この条件に当てはまる人が多いと思います。まず、申請日以前の25年のうち自動車の運転を職業としていた期間が10年以上あることです。(2)の場合と同じく、バスやタクシーなどの旅客運送事業以外のドライバーであった期間は50%として換算されます。また、同一の営業区域において、申請日から3年以内に2年以上タクシー・ハイヤーの運転を職業としていることが必要です。


ここまで(1)(2)と比べると、(3)はだいぶ条件がゆるくなっています。ただし、10年間とはいわずとも、5年以内に免許取り消しなどの重い処分を受けていないこと、刑法犯などになっていないこと、3年以内に違反点数を加点されていないこと、なども条件となっています。特に最後の一年は完全なる無違反が求められます。この条件を満たした上で、地理試験および法令試験を受験します。試験の難易度はそこそこで、合格率は70から90%とされています。ただし、地理試験が行われるのが年に1度、11月だけなので、落ちてしまうと一年待たなければならなくなります。この試験が免除される条件もあります。15年以上ハイヤーまたはタクシー事業者に雇用されていること、あるいは10年以上雇用されていて、5年間無事故無違反である場合が該当します。試験は最低合格点が高く難しいのですが、個人タクシー協会での勉強会も行われているようなので、各種協会に問い合わせてみると実態がわかると思います。試験についての詳しい説明も、他の記事でまとめていますので、参考にしていただけたらと思います。


 まとめ


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  • 個人の最大の魅力は自由裁量であること
  • 全ての費用は自分持ち、事故の場合もリスクが大きいので注意が必要
  • 営業資格を取るために満たすべき条件は年齢によって異なる


個人で営業する魅力とリスク、それに多くのドライバーが口にする面倒くささがわかっていただけたかなと思います。ノーリスクでかつすぐに免許が取れるなら、著者も個人ドライバーをやってみたいという気持ちはありますが、やはりこれだけ条件が厳しいと考えてしまいますね。個人でやるにせよ、法人でやるにせよ、一番大切なのは無事故無違反で過ごすことです。個人になるためにも重要ですが、個人になったあとは、保険も修理費も自己負担です。また法人でしっかり稼ぐためにも、事故や違反は不要です。法令を遵守して安全運転を続けた先に、個人の資格条件を満たしたのであれば、そのとき考えるというくらいでもいいかもしれません。

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