タクシー業界への転職者は不況のたびに増えると言われています。会社が倒産する、リストラにあう、新しい人生を考えるなど理由は人それぞれです。新卒でタクシードライバーになる人も、もちろんいますが少数派といえます。たいていの人は、何らかの仕事を経験してから転職してきます。著者の場合は30代後半で転職しましたが、研修時はだいぶ若いほうでした。
20代で転職してくる人もいますが、離職率が高めと聞いたことがあります。新卒について、少数派とは言いましたが、確かに割合としては小さいものの大手や中堅などの経営体が大きなタクシー会社では、新卒も積極的に採用しているようです。その理由として、新卒から育てることで内勤や幹部へと育てるルートも想定しているためと聞いたことがあります。新人であっても10年間無事故無違反で乗務を続ければ、タクシードライバーの資格をとることができます。そうすると、30歳前後で個人タクシーの資格を取得することができれば、その後40年ほどは個人事業主としてやっていくことができます。
一方で、個人タクシーになったからといって売上が上がるのかというと、むしろ下がる人の話もよく聞きます。会社のサポートがなくなり、確定申告などの税務を自分でやる必要が生じます。何より、会社員の時代よりも高い自己管理力が求められるため、向き不向きがある仕事だと言えます。
タクシードライバーの平均年齢は58歳前後と言われています。ここまで平均年齢が高い水準の職業も珍しいのではないかと思いますが、考えられる理由があります。定年を迎えて辞めていったとしても代わりに若い人が入ってくるわけではなく、中高年が入ってくる仕組みになっています。なので、ある程度年齢がいっていても自然と入れる業界なのです。
会社や、まわりのドライバーも慣れたもので、前職について詳しく聞かれることなどもあまりありません。そもそも単独で行動する仕事なので、同僚とコミュニケーションを取る機会も少ないのです。食事に行くのも、それぞれが路上に出て仕事をしている途中なので「一緒に行こう」という話すら出ません。もちろん、仲のいい同僚と積極的に仲良くすることはありますが、馬の合わない同僚と付き合う必要はまったくありません。これが、タクシードライバーをする上でのメリットだと感じている人は多いようです。
タクシードライバーの年齢制限についてですが、定年は65歳となっています。しかし、「定時」とよばれる嘱託契約で75歳まで乗務するドライバーも多いです。この定時のドライバー、が平均年齢をあげているのは間違いありません。その嘱託契約も、一般的には75歳が定年なのですが、常にドライバー不足を訴えている業界であることもあり無事故無違反の優良ドライバーなどの条件を満たすと、80歳を超えても乗務できることもあるようです。もちろん、これは経験のあるベテランの話で、80歳で未経験の人がドライバーになろうといっても受け入れてくれる会社は存在しません。
試しに何社か見てみると、募集要項に年齢制限が明記されていない例が多いです。書いてあったとしても年齢不問、あるいは19歳以上などと書かれています。他に、学歴や職歴不問などとも書いてあります。こうみると誰でもできる仕事のように思えますが、年齢、学歴、職歴などでは職業適性がわからない、というのが正解です。適性については後述するのと他にも『タクシー転職に失敗しないための豆知識!』という記事にまとめていますのでごらんください。
では、実際のところ何歳までなら歓迎されるのかについてですが、60歳くらいまでであれば問題がないと思います。あなたが、運転が得意であったり、職業ドライバーの経験があったりする場合は優遇されると思います。定年の年である65歳の場合はどうなのかというと、経験者の場合には定時(嘱託)として採用される可能性もあります。一方で、運転経験があまりなかったり、普通免許すら持っていなかったりする場合には、少し難しいかもしれません。
それでも60歳くらいであれば、二種免許を取得し研修すればすぐに戦力になるので、体力がある人であれば就職の口はあるのではないかと思います。もちろん、その会社の方針や、在籍しているドライバーの数によっても変わってくるので、問い合わせてみると良いと思います。
どういう人がタクシードライバーに向いているのかについてご紹介します。とにもかくにも、一番大切なのが運転への適性です。出庫するたびに交通違反や事故を起こしてくるようでは仕事になりません。月に1回くらいのペースで事故を起こしてくるドライバーがいた、という話を聞いたことがありますが当然長続きはしませんし会社からも歓迎されません。タクシードライバーの仕事はお客さまを安全かつ迅速に目的地へとお連れすることです。安全に運転できることは、とても大切です。
プライベートで運転していて、何度も違反をして免許停止や免許取り消しを経験したことがある人の場合は、本当に自分がタクシードライバーをやりたいのかよく考えてみることをお勧めします。事故を起こすと人を傷つけてしまいますし、場合によっては命を奪ってしまうことすらあります。安全に運転することはすべての基本であり、絶対条件です。というのも、勤務中であっても事故や違反によって点数を加点されるのは、自分の免許証です。違反金の支払いも自腹です。なので、やってもやっても儲からなくなってしまいます。
タクシードライバーの日常が肉体的に合うかどうかも重要です。肉体的にはハードな仕事なのですが、とはいっても建築作業員のように重い物を持つわけではありませんし、警備員のようにずっと立っている必要もありません。ただ、タクシーの運転席は広いとはいえず、そこに一日中座っている必要があるため腰痛を抱えている人は苦労すると思います。ドライビングポジションを変えたり、サポーターをつけたりすることで、ある程度緩和することはできますが、座り続ける生活が合うか合わないかは重要です。
最後に、一人でいることが好きかどうかも、大切なポイントです。タクシードライバーは一度車庫を出ると、長い場合には20時間も戻ってきません。その間、お客さまとのやりとりを除くと、誰とも喋らないこともあります。誰からも何も言われないし、どこへ行くのも自由です。朝方の新宿で朝帰りのお客さまを探すも良し、あるいは麻布十番や白金などの高級住宅地から出勤するお客さまを探すも良し、どちらにいくかはその時の気まぐれで決められます。誰からも命令されることはありませんし、誰にも気をつかう必要がありません。著者はこういった暮らしがとても快適でした。
ただし、歩合制であるため、売上があがらなかった場合は自己責任です。売上が最高値を記録するように緻密に営業を組み立てるドライバーもいますし、逆に、不愉快な思いをしないように、快適に仕事ができる場所を探すドライバーもいます。自由に働くことが快適だと思えるならば、タクシードライバーは適職です。勤務時間中も自由に働けますし、仕事が終わったあと平日の朝からお酒を飲んだり、ゴルフや釣りに行ったりすることもできます。
タクシードライバーは、中高年になってから始められる仕事だということを書いてきました。そして結局のところ、この仕事をお勧めできるのかどうか。経験者として本音を語ると、「すごくお勧め」です。
なぜかというと、中高年が転職で入れる仕事としては異例なほど高収入が期待できるからです。もちろん楽な仕事ではありませんし歩合制なので、誰もが稼げるとは断言できません。しかし、学歴や職歴を問わず、60歳からでも目指せる仕事にもかかわらず、月収50万円以上、人によっては60万円以上を目指すこともできる仕事は、なかなかありません。おいしいことを書きはしましたが、タクシードライバーで月収50万円以上稼ごうと思うと、肉体的にも精神的にもハードです。勤務時間もある程度長くなっていきますし、みんなが眠る時間帯に働かなければなりません。
しかし、よく言われるのですが、慣れてしまえば何とかなります。慣れるまで1ヶ月かかる人もいれば、半年以上かかる人もいると言われていますが、一度身体が慣れてしまうと他の仕事に戻れないくらい快適です。確かに全身が疲労するし、眠気を何とかかき消して働かなければならないこともあります。しかし、逆に言うと全力を出し切ったあと、最高に気持ちよい睡眠を迎えられる仕事であるとも言えます。せっかく稼いだお金を使う暇がないということもなくて、シフトにもよりますが二日分まとめて働くことができるため、まとまった休みを取ることも可能です。勤務のしかたや生活リズムについては、『タクシー寮ってどんなところ?』という記事にまとめていますので、参考にしてみてください。
平均年齢が58歳ということからもわかるように、多くのタクシー会社は中高年のドライバーを多数抱えています。彼らは、老後をどう過ごしていくかを自然と考える必要があるため自然とタクシー会社のほうも、そのあたりに配慮をする傾向があります。こういった対応については会社によるのですが相談されるケースはどこも多いはずです。そういう意味では心強い業界と言えるかもしれません。ただし、前述したように違反や事故などで免許を失ってしまうと仕事を続けられません。あくまでも安全運転ができるという前提となります。
収入面について、もう少し補足します。中高年でも月収50万円以上を狙えるかと聞かれたら、間違いなく「狙える」と言えるでしょう。最低条件としては、やはり長時間タイヤを動かし続けることができることです。少し営業してはすぐに休憩というスタイルでは、どうしても売上はあがりません。
タクシードライバーで稼ぎたいのなら町の情勢を読み、高単価のお客さまがいるところを常に探し続ける必要があります。駅のタクシー乗り場に並び続けているだけでは月収は20万から、よくて30万円程度になるのではないかと思います。もっとも、それで十分という方もいると思います。売上を最大化せずに自分のペースでのんびり営業することができるのもこの仕事の面白いところです。この話については『タクシードライバーは儲かる?儲からない?現役ドライバーがズバッと解説!』という記事を参考にしてください。
ちなみに、定年以降の収入がどうなるかについてですが定時(嘱託)になると、勤務日数が3分の2程度に減りますので収入もそのくらい落ちてしまいます。場合によっては歩率が落ちることもあるかもしれません。とはいっても、月に回8乗務で40万円を稼ぐこともできるのが、タクシーの面白いところです。8回というのは、2日分をまとめて1回で働く隔日勤務という働き方を8回したことを意味しています。一般的な勤務日数でいうと16日です。8回で収入が40万円というのは誰にでもできることではありませんが、元々お抱え運転手などをしていた生粋のドライバーである先輩は、70歳近くになっても毎晩すごい額の売上をたたき出していました。
未経験だとそうはいかないかもしれませんが、ドライビング技術も、地理についてもあるいは売上があがりやすいポイントについても、努力次第では習得することができます。これも『タクシー転職に失敗しないための豆知識!』という記事に詳しくまとめていますので、あわせて参考にしてください。
タクシードライバーの仕事ついて考えてきましたが、いかがでしたでしょうか。定年は65歳までの仕事ですが、経験があれば75歳まで働くことができる仕事です。また、一般的な仕事における稼ぎ方とは、随分と違ったところがあると思います。特に、運転技術が高い方にとっては最高の仕事の一つではないかと思います。運転技術といってもレースをするわけではありません。横Gをなるだけ減らし、ブレーキングを的確にして、乗り心地をよくしていくことや、お客さまとやりとりをしながらもルート選択を絶対に間違えないことが大切です。