平成から令和にかけてタクシー女性ドライバーが増えている?

公開日:2024/09/19 00:29


はじめて女性ドライバーのタクシーに乗ったのは10年くらい前だったように思いますが、そのとき随分とびっくりしたのを覚えています。お茶の水から東京駅あたりまで向かうタクシーであったと記憶していたのですが、最初の一声を聞いて少し混乱した記憶があります。タクシーの仕事といえば、中高年の男性がやるもの、そう思っていました。どうしてそのように感じたかというと、単にそれまで若いドライバーや、女性のドライバーに出会ったことがなかったからです。


若いドライバーに出会ったことがなかったのは、一つには都心でタクシーに乗っていなかったからというのもあると思います。というのも、若くて体力があり、しっかり稼ぎたいタクシードライバーは、中央区、港区、千代田区へと向かいます。車庫を出たらとりあえず港区へ行き、ひたすら港区を流すようにしているというドライバーは多いです。港区は平均所得が高く、ビジネス街もあるのに加えて、電車での移動がしづらいという特徴があります。


なので、港区の居住者は、移動をタクシーで済ませることが多く、タクシードライバーには非常に営業しやすいエリアです。逆に駅付けのタクシーには若い人はほとんどいません。東京駅、恵比寿駅、夜の銀座など都心では見かけることはありますが、周縁部ではほとんどみられません。というわけで、男性の若手ドライバーに出会わない理由はわかったのですが、女性タクシードライバーについてはまた別の話です。


一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会の統計によると、令和4年3月末時点での女性乗務員の数は、9470人とのことです。平成5年は4601人なので、倍増しています。都道府県別でみると東京都1449人が最多で、年齢層別では50歳から55歳1491人と一番多いようです。


このように女性ドライバーは近年非常に増えていますここでは、男性ドライバーの目線にはなってしまいますが、女性がタクシードライバーをする際に気になりそうなポイントについてご紹介していきます。


 女性ドライバーの人数と適性について


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男性と女性という二元論で話をすると、性差別のような議論にずれこんでしまうことはあります。そのような解釈だけは何とかご容赦いただきたいと願いつつ、話を進めたいと思います。まず、男女では適性に違いがあるというのは、ある程度一般性のある事柄のように思いますが、その中で「女性は運転が下手」というものがあります。断っておきたいのですが著者はそんなことは思っていません。ではどうしてこんな話をするのかというと、お客さまが「女性の運転でも大丈夫か」と思っているケースが存在すると思われるからです。場合によっては女性の運転では嫌だといって下車してしまうケースもあるかもしれません。


これは現実の話で、著者と教習所で一緒になった女性がそういった心配をしていたのです。このときはじめて女性の運転だからと断られたらどうしようと気にする方もいることを知りました。一方で、女性の運転手だと安心できると思っていただけるケースもあると思います。タクシードライバーは運転ができれば誰でもできる仕事なので、色々なドライバーがいて、色々な選択肢があることが理想ではないかと思います


さて、女性は男性よりも運転が下手なのかについて調べてみたのですが、どうやらそういう事実はないようですただ、男性のほうが長時間の運転経験を重ねているケースが多く、女性は近距離を短時間運転することが多いのだそうです。言うまでもなく多数の例外を含みます。あくまでも傾向として、です。従って、運転が得意な男性が多く、運転が得意な女性が少ないという状況は確かにあります。しかしながら、同じくらい運転経験を積めば、男女差は大きくないと考えていいでしょう。


実際に、とんでもない売り上げをあげるベテラン女性ドライバーを何人も知っています。長距離トラックの女性ドライバーもいますし、プロレーサーの女性もいます。その中で、タクシードライバーの場合、一般のドライバーとして過ごした経験も重要ですが、それ以上に仕事としてお客さまを乗せて運転した経験を積んでいくことが必要不可欠です。つまり、男女の差は関係なく、タクシードライバーとしての経験値が重要だと言えます。


タクシードライバーに必要な技能に地理の把握があります。要するに道を覚えることです。この点についてはどうでしょうか。『話を聞かない男、地図が読めない女』という本がベストセラーになったことがあります。この本のタイトルの通り、女性は空間認知能力が不足していて、地図を読むのが苦手なのだそうです。ただ、これについても否定的な見解が出ています。地図を読む能力において、男女の差はないとする研究もあるようです。


確かに地図を読むのが苦手、道を覚えるのが苦手という女性はいますが、男性にもいます。そして、それは「才能がない」というよりも、道を覚えることをこれまでしてこなかったケースが多いようです。実際に、女性が働くことが少ないイスラム圏では、地図の読めない女性がとても多いのだそうです。結論としては、女性だからタクシードライバーが向いていないわけはまったくなく、自信をもって取り組めば運転も地理もできるのではないかと思います。


ただ、お客さまの中に偏見をもった方がいる可能性は大いにあります。そんなときにどう対処するかについてです。お客さまには色々な方がいます。悪気がなく「女の子?大丈夫?」と聞いてくる方がいることも想定できます。かくいう著者も「若いのに大丈夫?」と聞かれたことがあります。当時は37歳なので若いつもりはなかったのですが、もう少し年配の方が多いイメージがあったのだと思います。そのように言われた場合でも、冷静に自信をもって受け答えをすればお客さまにも安心していただけます。しっかり挨拶をして、接客をしましょう。


どうしてもご乗車されたくないという場合には、お客さまは降ります。乗っていただけたからには、丁寧に目的地を聞いて、快適に安心していただけるように務めましょう。地理に自信がないうちは、ナビゲーションシステムで、このルートでも良いかどうかを確認しましょう。丁寧に接客した結果、時間がかかりすぎだとイライラされる方がいないわけではないですが、目的地とルートをしっかり確認せずに発車して、途中で間違えてしまうよりはずっといいです。


「新人なのでまだ至らないこともあると思いますが、それでもよろしいでしょうか」とお客さまに確認して、それでも良いと言っていただけたら、繰り返しになりますが、しっかり挨拶をして、笑顔で丁寧に接客すれば良いと個人的には思います。もちろん、酔客などは、なかなかそうもいかないこともありますが、大抵の場合は誠実かつ丁寧に接客をすれば満足していただけます。


 女性ドライバーの強み


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タクシーの仕事は、運転しながら接客をすることが求められます。最終的に評価されるのは運転のうまさではなく接客の良さです。というのも、どれだけ運転がうまくて道を知っていても、横柄な態度で接客するドライバーは、クレームの嵐にあってしまうからです。運転についてはもちろんプロとして十分な腕がある必要があります。なお、プロレーサーになるわけではありませんので、速く運転する必要はありません。しかしながら、あんまりモタモタしていると急いでいるお客さまにお叱りをうけることがあるので、迅速に発進して、信号などに引っかからないように適切な車間を取る必要があります。


何よりも大切なのが、安全に配慮することです。お客さまの安全のためというのは当然ですが、どんなに軽くても事故を起こしてしまうと気持ちも落ち込みますし、免許が傷ついたり、会社で始末書を書かないといけなかったりととても大変です。


適切なルートを、適切な速度で運転していく必要があり、事故や違反は絶対に許されません。たとえば、いわゆるイエローカットという違反をしてしまうケースです。車線変更禁止区間の黄色ラインを横切ってしまうと違反点数を切られてしまい、罰金を自腹で支払う必要があります。こういった違反が続くと免許停止処分になってしまい、停止期間中は仕事ができなくなります。


違反するかどうかはもちろん男女の差は関係ない話なのですが、お客さまが「ここ右の車線入って!」とか「ここ曲がって!!」と不意に言われたときに、右左折禁止とか、イエローラインがないかなどをしっかり把握していて、もしも違反になるときは即座に毅然と断る必要があります。「お客さまは神様」という言葉を聞くことはありませんが「法律が神様」です。道路交通法は常に最優先されます。ただ、お客さまが道路交通法を正確に理解していることは稀です。


お客さまの指示には忠実に従う必要があるのですが、ただ聞いていると通学時間は通れない道であったり、進入禁止の道であったりに入ってしまうことがあります。当然ながら、それは交通違反になってしまうので近くに警察官がいるとお縄になってしまいます。仮に交通違反を取られなかったとしても、周囲の車には予測できない危険な運転になるため、事故のリスクが高いです。これは男女問わずですが、交通ルールや道についてはしっかりと把握しておくことが大事です。


一方で女性ドライバーの強みとして接客面があげられます。女性のお客さまを中心に、丁寧に接客してくる女性ドライバーのほうがいいという声が多いようです。タクシーの仕事は、運転を伴う接客業であるため、声が聞き取りやすく、応対が丁寧な女性ドライバーを指名するというケースも増えてくるのではないかと思います。特に、乱雑な言葉遣いをする年配のドライバーに当たった経験がある方は、接客面を重要視するのではないでしょうか?


 女性ドライバーが困るポイント


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最後に女性ドライバーが気にすることをご紹介します。たとえばアウトドアのときに男性とまったく同じ条件で問題ないという方には関係のない話なのですが……。実は問題になるのはトイレです。タクシードライバーの職場はタクシーの中なのですが、当然ながら車内にはトイレはありません。なので、公衆トイレなどを利用することになります。実はこのトイレこそがタクシードライバーをしていく上でネックになってきます。男性のドライバーであっても、どこのトイレがいいとか悪いとか議論することがあるのですが、女性の場合には、清潔感などにこだわるケースが多いのではないかと思います。


また夏場は、車内で熱中症になるリスクがあるので水分補給を推奨されます。冷房が効いているから大丈夫だと思うかもしれませんが、お客さまの中には冷房を切ることを要望される方もいます。その場合、暑い車内で汗だくになって運転することになります。そういう状況もあるので、水分を多めに取るのですが、今度は逆に冷房をきつくして欲しいと言われることもあり……。


こういった状況は冬場でもあり、当然タクシーに乗っているとトイレに行きたくなってきます。もちろん人によっては全然平気なこともあるかもしれませんが、ぼくのまわりのタクシードライバーはトイレ難民になっている人が多いです。タクシードライバーが行くようなトイレは、意外な場所にあることも多く、ある程度経験を積んでいないとなかなか見つけられません。公園ならばあるだろうと思って、車を止めたところ、かなり大きな公園の反対側にしかトイレがなくて、苦悶の表情を浮かべながら100メートル以上歩いたこともありました。結果として辿り着いたトイレは、あまり綺麗とは言いがたいことも多いです。


慣れてくると駐車場とトイレがあるコンビニの場所を覚えてきます。著者のお気に入りのトイレスポットは、渋谷の代々木公園前、新宿の中央公園、日比谷公園です。これは、トイレが綺麗かどうかというよりは、緑のある場所を少し散歩してリフレッシュできるのがポイントです。書いていて思ったのですが、タクシー乗務をしているときは、どこのトイレに寄るかを考えている時間がかなり長いように思います。他のドライバーと、トイレについての情報交換をすることも多いので、やはりみんな苦労しているようです。


タクシー内という密室で男性と2人になる、これについて危険はないのかということに関しては、ないとは言い切れません。しかし、タクシーにはドライブレコーダーがついているのと、その他の防犯システムもあります。また日本では「女性のドライバーだと犯罪にあいやすい」という話は聞いたことがありません。ただ、酔客の相手はときに非常にハードなものになります。そこではある種の精神的なタフさが求められます。このあたりの適性は人によります。男性であっても苦手な人は、夜の繁華街を避けるなどして酔客を回避しています。


最後になりますが、職場環境についてです。今ではほとんどの会社が、女性専用の更衣室を用意しています。育児や産休についても話を聞いてくれるところが多いと聞いていますし、ホームページにも明記されていることがしばしばあります。詳細は各会社に問い合わせてみるとよいでしょう。


 まとめ


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  • 女性だから運転ができないし地図が読めないというのは間違い
  • 女性ドライバーだけの強みはあるし、そこを評価してくれるお客さまもいる
  • お気に入りのトイレを見つけることは快適なタクシーライフには必要不可欠!


女性にとってタクシードライバーという仕事はどうなのかを見てきました。著者自身、女性は傾向として運転や地理が苦手なのかなと思っていたのですが、少し調べてみるとそうではないことに気づき、恥ずかしく思っています。よく考えると、実際に運転がうまい女性を知っていますし、それ以上に運転が下手すぎて免許をとりあげたくなるような男性もたくさん知っています。


適性があるかどうかは性別とは違うところで決まっているようです。タクシードライバーは自由な仕事で、この楽しさがわかると一生やめたくなくなる人がたくさんいます。もしもご興味があるようなら一度やってみることをお勧めしたいと思います。



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