タクシードライバーの仕事は、募集の年齢制限がないことが多く、何歳からでも挑戦することができます。何歳からといっても限度はありますが、一般的な定年後である65歳過ぎてタクシードライバーになる方も珍しくありません。ここでは、一般のサラリーマン生活をやめてタクシードライバーになった2人のケースをもとに、タクシーで成功する方法を考えてみたいと思います。
私は希望退職募集制度の募集を契機に退職することにしました。一定の蓄えがあったことに加えて、退職金を受け取ることができるので老後については、何とかやっていけそうな見通しではあったものの、貯蓄が減り続けていくことに不安を感じていました。なので、60歳からでもできる新しい仕事はないかと考えました。飲食店の起業を目指す元同僚もいた中、私も起業を考えましたが、気力と体力がどこまで続くか不安になり別の仕事探すことにしました。そんな中で見つけたのがタクシードライバーの求人でした。
60歳からでも正社員として勤務することができる業態は珍しいと思ったのが最初の感想でしたが、高齢者であっても歓迎してくれる空気を感じて問い合わせてみました。職業としてドライバーをしていたことはなかったものの運転自体に苦手意識はなく、まずは面白そうだなという気持ちがありました。
面談の約束をして営業所を訪れ、担当者さんと1時間ほど話しました。60歳の人間が行くと煙たがられるのではないかと思っていましたが、満面の笑みで迎えていただきました。
聞けば60歳過ぎの求職者が来ることは珍しくなく、タクシー業界は乗務員不足が問題になっているため大歓迎なのだそうです。不安としてあった体力的にできるかどうかについては、70歳を過ぎても乗務している方もいらっしゃるということで、人にもよるようですが年齢によって決まるわけではないとのことでした。
勤務時間については、昼間だけの昼日勤、夜間だけの夜日勤、昼夜通しで働き、翌日は明番として休みになる隔日勤から選べるとのことでした。体力的に一番楽そうな昼日勤が良いのかなと思ったのですが、これも人にはよるものの、隔日勤務のほうが楽だというドライバーが多いとのこと。また朝8時にタクシーに乗って営業をはじめた場合、翌朝の4時までの勤務となるそうです。そんなに長い時間勤務ができるのかと思ったのですが、慣れれば大丈夫なのだとか。
運転技術についても質問しましたが、やはり一般のドライバーよりは高いスキルが求められるとのことでした。しかし、レーサーになるわけではないので、法律をしっかり守って安全に運転することが大切とのことです。
地理についても自信はなかったのですが、地理試験を受けていけば身につくのと、実際に路上に出て営業していく中で覚えていけるのことでした。また細かい路地まですべて把握することは不可能なので、お客さまに道を聞きながら運転していくことが必要で、つまりタクシードライバーで重要なのはお客さまからご要望を聞き出す接客技術なのだと聞きました。多くのタクシー会社は接客に力をいれていて、この時面談した会社は2ヶ月間の研修期間を設けているとのことでした。
担当者さんの説明が明確だったことと、この年齢でも快く受け入れてくれることから、1社目で決めてしまいました。家から近かったことも決めてです。60歳から新しい人生がはじまるのだと思って、随分と高揚したのを覚えています。
まずは研修期間として二種免許の取得のために教習所に通うことになりました。期間は2週間ほどで、実技と学科と両方です。講義を集中させて短期で受講できるように、教習所と契約している会社が多いのだそうです。久々の学校通いは大変でしたが、学科、実技ともに特に問題なくパスすることができました。実技については、特別難しい運転をするというよりも、しっかりと安全確認をしているかどうかが重視されているようです。
人を乗せることになる二種免許においては、たとえお客さまに話しかけられて気を引かれたとしても安全に運転する必要があります。お客さまには、運転の状況を考えてくださる方もいますが、たとえば右折レーンに入ったあとに「やっぱり左折してください!!」と言われる方もいます。そういったときに焦ってしまうと事故につながるため、冷静に、安全に運転することが大切だと教わりました。
一種免許との違いは、「鋭角」という急角度のカーブを曲がるものがあります。最初は不可能だと思ったくらいですが、車両感覚を身につけるとスムーズに曲がれるようになります。学科試験については、免許センターで受けることになりますが、合格率は1種免許の約70%に対して、約35%とのことです。つまり10人のうち3、4人しか受からない計算なので、ややハードルは高めです。といっても一日に二回受けることもできますので、時間がかかる人でも数日あれば合格できると思います。私は3回目でようやく合格することができました。
それからは会社が所属しているグループの研修と、タクシーセンターでの研修です。思ったよりも丁寧に教育することに意外さを感じました。こういう教育システムがあるからこそ、60歳であっても雇用してくれるのかなと思いました。タクシーセンターの研修では、接客、接遇についての基礎知識や法令などを教わりました。
最後の日には地理試験があります。いろいろな職業から転職してきた人がおり、コミュニケーションをとる機会がありましたが、みなさん地理試験対策が頭痛の種だったようです。地理試験については、かなり苦労しましたが、1発で合格することができました。最後に会社での研修を受けて、タクシードライバーとして営業を開始しました。
正直言って、最初は苦労の連続でした。楽しいことよりも辛いことのほうが多かったかもしれません。でも、次第に仕事を覚えて、少しずつ楽しさを感じるようになりました。タクシーの仕事は歩合制であることが多いのですが、私の入った会社では最初の半年間は最低限の給与が保証されていたので、その間に焦らずしっかりと仕事を覚えることができました。
タクシードライバーの仕事を始めて本当に良かったと思うことは、同年代の仲間ができたことです。営業しているといろいろなことが起こるので、それが共通の話題になります。まさか60歳から友人ができるとは思いませんでした。平日に休みがとりやすいので、一緒に釣りに行くこともできますし、その間の話題にも事欠きません。収入面がある程度安定したこともありますが、私にとっての一番の成功は、ともに働く仲間ができたことです。みんな70歳を過ぎても働くと言っており、賑やかな老後を送ることができそうです。
とある研究所で働いていたのですが、実力主義の厳しい世界でした。なかなか成果が出ないでいると、周囲からのプレッシャーも強くなり、人間関係もギスギスするようになってきました。若いころなら一念発起して、徹夜で頑張って取り戻そうなどと思えたのかもしれませんが、情けないことにもうそんな気力が残っていませんでした。気持ちもうつうつとして来て、とにかく職場から離れたくて一度仕事をやめることにしました。初はノビノビとした気持ちになったのですが、何も考えずにやめてしまったので次第に不安になり、求人を探すようになりました。
40代の転職はなかなか厳しいようで、そもそも求人があまり多くありません。専門的な仕事であればツテを辿っていけば見つけられたかもしれませんが、どうしても同じ世界に戻りたいとは思えませんでした。何か新しいことがはじめてみたいのですが、まったく新しいスキルを身につけるとなると学ぶ機会を作るのも大変です。さらにそこから仕事にするとなると非常に難しいのが現実でした。YouTuberになろうと思い、機材をそろえてみましたが、やっとのことで放送をしても視聴者がまったく増えないのですぐにやめてしまいました。
そもそも企業のほうも40代の採用には積極的ではないことが多いようです。確かに年齢が高いと指示などがしづらいでしょうし、これからまだ伸びしろもある20代、30代のほうが評価されると言われれば納得せざるを得ないところもありますし、確かに自分のようなタイプは使いづらいだろうなと思います。
どんな仕事でもということなら求職もあるようなのですが、体力面で難しそうな仕事であったり、わがままは言えないものの給与面で問題があったりと、なかなか先に進めません。いずれ蓄えはつきますし、どうにかしないといけないと焦り始めたころに見つけたのはタクシードライバーの求人でした。
正確に言うと初期の段階で見つけていたのですが、自分がタクシーに乗る姿が想像できなかったこともあり選択肢に入っていませんでした。どうしてタクシーが気になり始めたのかというと、高収入をうたっている会社が多かったからです。なかなか良い求人が見つからない中、40歳以上でも高収入が狙えると聞いて、もしかしたら人生逆転できるかも知れないと考えました。
収入を具体的にみると、東京では平均年収が500万円を超えているのだそうです。とある大手企業のサイトによると、新人であっても年収450万円を狙えるし、最高額で800万円を超えることもあるのだそうです。未経験の40代が就職できる仕事としては、もしかしたら最高の収入が狙えるのではないかという気がしてきました。もちろん、探せば他にもあるだろうと思いますが、大々的に募集している仕事としては他にないと思います。
ただ、いい話には裏があるのがつきものです。調べてみると、タクシーの仕事は歩合制になっているとのことです。就職したあと、さぼっていては極論すると収入がゼロになるかもしれません。もちろん、最低限の保証はあるかもしれませんが、稼いだ分の何割かをもらうという筋の話なので、当たり前のことですが、さぼっている状態が許されるとは思えません。いろいろと悩むことがありましたが、考えている間にも貯蓄が減っていくので、まずは門を叩いてみることにしました。
採用はすぐに決めていただき、免許取得、研修などを経て、タクシードライバーとしての日々がはじまりました。やってみて気づいたのが、対人ストレスの小ささです。お客さまを乗せることになるので、ストレスが大きい仕事なのかと思いきや、ほとんどのお客さまは親切にしてくれますし、じっくり話し込むことはほとんどありません。
お叱りを受けることはありますが、それは自分が道を間違えてしまったときなどなので、理由がはっきりしているためすぐに立ち直れます。やっているうちに、稼ぎ方のコツがわかってきて、時間帯によって営業エリアを変えていくと売り上げも伸びていくことがわかってきました。
深夜割増料金になる22時から翌朝5時の間は、やればやるほど売り上げが伸びるので楽しくて仕方がありません。こんなに楽しいことが仕事であっていいのかと思うくらいでした。もともと運転が好きだったのもありますが、ゲームをやっているのと感覚としては変わりません。とくに1万円を超える売り上げである「万収」や、2万円を超える「2万収」がでたときは、お客さまを降ろしたあとガッツポーズをして喜びます。
1万円の売り上げがあると、単純計算ですが自分の収入が6000円くらい増える計算になります。2万円だと1万2000円です。タクシードライバーになるまで仕事をしていて、こういった手応えを感じることはいままであまりなかったので、すごく新鮮な気分になりました。
深夜まで起きているのは人によってはつらいと思いますし、私も最初は眠くなってしまって大変でしたが、今では楽々とこなせるようになりました。一晩中走り回って、しっかり稼いで、その後に飲むビールの美味しいこと美味しいこと。この仕事は天職かなと思っています。ストレスだらけの前職に比べると、本当に楽しいです。人生プランとしては、このままタクシードライバーを続けて個人タクシーの営業を始めようとかと思っていますが、タクシーに乗りながら何らかのスキルをつけて別の仕事をするかもしれません。
40代と60代のタクシードライバーの成功談を紹介してきました。40代の男性については、人間関係のストレスが解消されたことと、収入が得られることがメリットとなっていました。一方で、60代の男性の場合は、高年齢でも仕事をはじめられたことと、同僚ができたことをメリットとして話してくれました。タクシーの営業スタイルは人によって違っていて、みなさんそれぞれ工夫をして楽しんでいます。自由度の高さもタクシーの仕事の魅力の一つです。