タクシー運転手はきついって本当?現役ドライバーの感想は……

公開日:2024/09/20 00:52


タクシー運転手の仕事はきついのかどうかを考える前に、そもそも楽な仕事はないという前提が必要です。どの仕事にもある一定のきつさを考えると、タクシー運転手は比較的めぐまれている仕事ではないかと思います。とある企画で「底辺職ランキング」が公開されていたことがあります。この企画は、社会を維持していく上で必要なエッセンシャルワーカーを軽視し、職業差別を助長するといった意見が多数寄せられ、強く批判されてしまいました。その企画の是非についてはここでは触れませんが、われわれタクシードライバーは、そこに自分の職業が含まれていないことに少し驚きましました。


ランキングに並べられてしまった職業が「底辺職」と言われてしまった理由としては、

誰にでもできる

肉体的にきつい

収入が低い

などが並べられています。


タクシードライバーは、学歴・職歴不問かつ、年齢も60歳くらいまでなら問題ない仕事なので、一見「誰にでもできる仕事」という印象を与えます。さらに、運転を一日中し続けるというイメージから「肉体的にきつい」と思われがちで、こういったランキングに顔を出すのではないかと感じてしまったわけなのですが、思わぬ高評価でした。


タクシードライバーがそこに含まれていなかった理由は明記されていませんが、二種免許や地理の知識などが必要、という点では誰にでもできるわけではないこと、肉体労働の一種ではあっても、車内に長時間座るというものなので比較的耐えやすいこと、高収入を狙うことが可能であること、などが考えられます。


一方で、この仕事特有のキツさについては、タクシー運転手の多くが感じていることですが、一般の人にはなかなか想像がしづらいのかもしれません。ここで、やってみないとわからないタクシー特有のキツさについて紹介したいと思います。


 極めるには体力が必要な仕事


名称未設定


タクシーの営業は、楽な仕事といえば楽な仕事です。お客さんを乗せて、運転するだけだからです。人を乗せていようが、重い荷物を載せていようが、一生懸命働くのは車のエンジンです。江戸時代にあった駕籠屋などは人力で持ち上げていましたが、現代のドライバーはアクセルを踏むだけでいいのです。実際のところ、3,4時間営業するだけなら非常に楽な仕事です。もちろん、お客さまの命を預かって、安全に運転しなければならないので責任は重いですが、よほど込みいったルートではない限りは、いつも走っている道を、いつものように運転するだけです。


ただ、タクシーの仕事は長時間に及びます。しっかりと稼ぎたいと思う場合にはなおさら、ある程度長い時間働く必要があります。特に、月収50万円を超えてくるドライバーは残業時間をうまく使って稼いでいます。


勤務形態にもよりますが、いちばんオーソドックスな隔日勤務をする場合には、最大で21時間勤務となります。勤務形態については、『タクシー寮ってどんなところ?』という記事にもまとめていますので、こちらも参考にしてください。


21時間以上働くことは法律で禁止されていますが、ここまでは働けます。なので、稼ぎたい人はこのギリギリのラインを攻めていくのです。具体的に考えてみましょうか。


15時に車庫を出る「遅番」の場合は、14時頃に出社して、車両の整備や点呼を行います。会社にもよりますが、出庫前の30分くらいは勤務時間とみなされます。しかしながら、その勤務時間は売上がないため、ドライバーからするとあまり関係のない時間です。お客さんを乗せないと給料がまったくないのがタクシードライバーの仕事だからです。


さて、いよいよ15時に出庫したら、21時頃まで連続で営業します。特に17時ころから19時の帰宅ラッシュのときはお客さんが多く町が活気づいています。多くはありませんが、ロングで移動するお客さまがいる時間帯でもあります。21時頃までに、調子がいいと15回ほどの営業ができます。平均単価が1000円であれば、売上は6時間で1.5万円です。無線がよく鳴ったときは単価が高くなるので、もっといくこともあるでしょう。


帰宅ラッシュの過ぎた19時から22時の間は、お客さんの動きが少ないため休憩時間にしているドライバーが多いです。青山墓地の隣など、都心で停車できるところにはタクシーが大量に停まっています。22時になった時点で出社してから8時間近く経過しているので、普通の仕事であればそろそろ帰宅の準備をしはじめる頃でしょう。朝9時出社の会社であれば、17時くらいの感覚ですね。


ただ、タクシーの仕事はここからが本番です。22時からは深夜割増料金として運賃が1.2倍となる業界用語でいう「青タン」の時間です。「青タン」は朝5時まで続きます。つまり、7時間続くのです。この間、フルに動くことがとても大事です。


具体的にどこへいくのかというと、終電後の1時から2時くらいまでは繁華街にいきます。この時間帯は、飲食店が多い町で終電を逃したお客さまを見つけることができます。特に2次会、3次会で訪れるスナックやキャバクラなどが多い町は、景気のいいお客さまも多いので、チャンスが多いです。もちろん、そういう町にはライバルのタクシーも多いですが。自分がいる位置からなるべく近い位置で、ロングが出やすい繁華街はどこなのかと考えて営業することが大切な時間帯です。ここが腕の見せ所だと思って、気合いを入れましょう。


深夜2時を過ぎると、眠ってしまう繁華街も多くなってきます。こちらは遅番なのでまだまだ営業中ですが、早番のタクシーが次々と帰庫していく時間帯です。つまり、ライバルが減る時間帯なので、ここからが遅番や、夜から出勤してくる「ナイト」と呼ばれる夜日勤の稼ぎ時です。


とはいえ、遅番はこの時点で出庫してから11時間が経過しています。休憩時間がどのくらいあったのかというと、これは人によります。法律によって最低でも1時間の休憩をとらなければいけないことになっているので、おのおののタイミングでタイヤを止めて休憩を取ります。1時間と書きましたが、大抵の会社では3時間休憩が推奨されています。場合によってはペナルティがあることもあります。


遅番で、しかも隔日勤務のドライバーは、深夜2時になるとかなり疲労してきます。一方で、夜から出庫してくるナイトのドライバーはまだまだ元気です。ここは戦うのをやめて、あえて休憩を取って朝の通勤ラッシュに備える作戦もありますし、このまま「青タン」の時間帯まで突っ走る作戦もあります。この時間帯は、眠気対策がとても大切です。対策は人それぞれですが、代表的なものは、コーヒー、エナジードリンク、ガム、体操、短期仮眠などです。運転中のガムは会社によっては禁止されていることが多いですが、車を止めて休憩を取りながらならば問題はありません。今回は、車を止めてラジオ体操をして目を覚ましたものとしましょう。


深夜2時以降は、朝まで営業している飲食店、クラブ、スナックなどを探していきます。一番の激戦区である乗車禁止地区が解禁された銀座へと向かうドライバーもいます。いわゆる乗禁あけの銀座ですが、そこへ颯爽と向かうドライバーもいますし、他にも六本木、渋谷、新宿などにもチャンスがあります。いわゆる業界人や芸能人が飲んでいることが多い西麻布も狙い目です。お店のお姉さんやママさんなどが帰り始めると、ようやく眠らない町も店じまいです。


朝の時間帯は泥酔しているお客さまも多く、トラブル発生率も高いです。暴れることこそ稀ですが、嘔吐してしまったり、途中で眠ってしまい起きなくなったり、信じられない勢いで泣き出したり、家の場所がわからなくなったり、いきなり警察を呼ばれたりと色々あります。このあたりも人によってはタクシードライバーのきつさだと考えるようです。


ただ、これも慣れで何とかなるところがあって、泥酔者や暴れている人などは乗車を断ることができますし、寝ていて起きないお客さまは警察を呼んで対応してもらいます。警察にたたき起こされて不機嫌なお客さまもいますが、そこからはもう警察のお仕事です。タクシードライバーも警察も、乱痴気騒ぎをしていた夜の町を、正常な姿に戻していく仕事をしています。そういう意味で、警察官はタクシーの心強い仲間です。ただし、取り締まりをしている交通機動隊の皆さんはただただ怖いです。


深夜の時間帯の売上は日によって全然違いますが、すごく良い日は5万円を超えることもあります。つまり朝方までに6.5万円の売上です。このくらい売り上げてホクホク笑顔のドライバーもいれば、このくらいは毎日の平均値で、良い日は一日で10万円まで行くドライバーもいます。


さて、朝5時を迎えると電車が動き始めます。ロングのお客さまは減り、朝帰りのお客さまを都心で探すか、少し郊外のほうまで出て、出勤するお客さまを探す時間帯になります。新宿二丁目、歌舞伎町、六本木は朝方でも混沌としていることがあるので、そこまでお客さまを探しに行くドライバーもいます。


とはいえ、朝5時の時点で出社してから15時間が経過しています。このあたりで帰庫することを意識しはじめるドライバーもいますが、稼ごうと思ったらまだまだここからが本番です。朝7時から9時半くらいまでは通勤ラッシュなので、お客さんが多い時間帯です。朝10時になってようやく回送板を出し、LPガスを補充してから車庫へと戻ります。15時に出庫した場合には、翌日の午前11時までに戻る必要があります。11時ギリギリに帰庫したとして、眠い頭を何とか起動させて精算処理をします。そして洗車を終えたときには、12時近くになっていることもあります。出社したのが前日の14時ですから、22時間出勤しているということになります。


念のため書いておくと、出社後や帰庫後、仕事開始前後に会社でフラフラしている時間帯も含まれているので、実際の勤務時間は21時間です。東京から広島まで車で行くと10時間くらいなので、この距離を往復したくらいの運転時間、というと実感がもちやすいでしょうか。


このように随分と長く、具体的に綴ってきましたが、タクシードライバーは長時間稼働するため、人によってはそれがきつさにつながっている、ということがわかっていただけたでしょうか。一方で、この仕事にやりがいを感じていれば夢のように楽しい21時間ですし、過去にトラックドライバーやお抱え運転手などのハンドルを握る仕事を経験してきた人は、このくらい走ったところでピンピンしていることもあります。翌日は「明番」といって丸1日休みとなるので、実質的に2日分の仕事を1度の出勤でこなしていることになります。このような乗務が月に11から13回あります。


最後に、収入について補足しておきます。一日の売上が平均6万円(消費税抜き)のドライバーであった場合、歩率が60%の場合には一回あたりの収入が3.6万円となります。これを11乗務すると、3.6万×11で月収の目安は39.6万円です。13乗務すれば、3.6万×11で46.8万円となります。


平均の売上が8万円(消費税抜き)のスーパードライバーの場合には、13乗務で62.4万円となります。このくらいが隔日勤務の最高水準ではないかと思います。もちろん、もっと稼ぐ人もいるかもしれませんが、普通のやり方では難しいところです。これ以上売上を増やそうと思ったら、歩率が高い契約を模索するか、先ほどの例に出てきた「ナイト」に勤務形態を変える必要があります。



 長期的な体調管理の難しさ


名称未設定


このように一回の乗務について書きましたが、これに耐えられるか耐えられないかについていうと、何だかんだで身体も心も慣れていくものなので、ある程度の体力と適性があれば、何とかなるのではないかと思います。


一方で、長期的なことを考えると、腰や肩などに少しずつダメージが溜まっていくのも事実です。どんな仕事にも言えることですが、無理して売上を伸ばすことばかりを考えずに、日々の体調管理をしっかりしていくことが必要です。勤務中にしっかり休憩をとるだけではなく、明番や公休の日もしっかり体調を整えていくことが大切です。長時間運転したあとそのまま飲みに行って、次の乗務にもピンピンとした状態で出てくるドライバーもいますし、体力的にしんどそうに見えるドライバーもいます。このあたりは適性もあるのだろうと思いますが、日々の工夫で何とかなる部分もあります。


 まとめ


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  • きついかどうかは個人差、慣れれば何とかなる部分も大きい
  • 長時間勤務に耐えうるかどうかが一つの目安
  • 腰や肩などに負担が蓄積しやすく、長期的に体調管理をする必要がある


タクシードライバーの仕事はとてもハードです。しかしながら、稼ぎのいい肉体労働としては楽な部類ではないかとも思います。長時間運転しづけることに肉体的に耐えられない、精神的に耐えられないという方もいるかもしれません。逆に、何時間でも運転していられるという人もいると思います。ただ、よく聞くのが腰痛で、こればっかりは一度なってしまうとなかなか治りません。なぜかというと、タクシードライバーを続けていると、ずっと腰に負担がかかるからです。そういった慢性の症状が出ないように、しっかりと日々の体調を管理をしていくのもタクシードライバーとして生きていくためには大切なことです。

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