タクシー運転手、アルバイトできるの?

公開日:2024/09/20 00:52


タクシードライバーになろうと思い立って調べてみたものの、副業ができるのかどうか、アルバイトができるのかどうかについて明言されている記事はまだ多くないと思います。というのも、タクシードライバーの副業はセンシティブな問題をはらんでいるからです。この記事では、タクシードライバーは副業ができるのかどうかと、その際に問題となる特殊な事情についてご説明いたします。


 副業は自由にしていいのだが……


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前提として、タクシードライバーに限らず、公務員などを除いて副業を行うことは自由にできます。昨今では政府主導で副業を推奨する動きもあり、IT系企業や大手企業から次第に副業が解禁されてきています。副業として何をするのかは人それぞれなのですが、飲食店や小売店などで働く人、Youtuberやアフィリエイターなどインターネットを通じた個人事業をする人、隙間時間でできるUberEatsのような仕事をする人など様々です。ただし、副業が社内規定で禁止されている会社もまだまだ多いのが現状です。


では、タクシー業界はどうなのかというと、IT業界のように新しい価値観が浸透しているとは言いがたい業界なので、多くの会社では副業禁止となっているのではないかと思います。ただ、著者が務めていた会社では、「断りなく二次就職をしてはならない」という文言になっていましたので、ちゃんと相談すればアルバイトが許されるという会社もあることでしょう。


社内規定で「絶対に禁止」とされていた場合はどうなのでしょう。そのような規定があったとしても、原則としては禁止されていません。というのも、休日に副業をする分には、会社から文句を言われる筋合いはないからです。休日をどう過ごすかは会社が強制することができません。また、職業選択の自由があるので、そこでどんな仕事をするのも自由です。


しかしながら、副業が認められない状況もあります。例えば、本業の後に長時間アルバイトをすることで、本業に支障がでるケースです。タクシードライバーの勤務時間はややこしいので、分かりやすく一般の会社員のことを考えてみますが、9時に出勤して定時が18時だとします。定時で退社したあと、早朝まで営業している飲食店で働いて、朝6時から2〜3時間だけ眠って出社する、という生活をしているとします。それによって本業に支障がでていると判断された場合には、仮に解雇されたとしても無効になったり、賠償請求ができたりするケースもあるようです。


ただ、早朝まで仕事をしていて、2〜3時間しか眠れないというのは、社会常識で考えると、十分な休息をとって業務に備えたとは言えないため、解雇は妥当であるという判断がなされる可能性もあります。これは本当にケースバイケースです。2時間しか眠らなくても十分なパフォーマンスが発揮できる人もいるでしょうし、5時間眠っても寝不足の人もいることでしょう。本業に支障があったかどうかを会社側と会社員側が主張し合い、裁判所が判断することになります。


タクシードライバーの場合には、運転手としてお客さまの命を預かって行動を走るという公共性があるため、常に体調を整えておく努力が求められます。従って、寝不足になるような副業は言語道断と言えるでしょう。ただ、その程度はなかなか難しいところです。例えば週に2回、3時間のアルバイトをしていることが、本業のタクシーにどこまで影響したといえるかどうか。もはや会社にも、運転手本人にも判断ができないので、裁判所に聞いてみるしかなくなります。


最終的に副業を認めるという判決が下されたとしても、その間は会社と揉めることになりますし、その後も円滑に働けるかというと難しいところがあるかも知れません。社内規定では、法に反することでも記載してある場合があります。例えば「出勤時間の30分前に来て清掃をすること」という社内規定がある会社は、30分のサービス残業を強いているので労働関係法には違反していることになります。しかしながら、社内規定として記載することはできるのです。


会社側としては、なるべくしっかり自分の会社で働いて欲しいですし、会社員側としては、自分の幸福を考えて、ときにはさぼりながら、副業なども交えながら総合的にベストな選択肢を探ることになります。


というわけで、副業は自由にできるといえばできるのですが、上司に相談するか、社内で副業をしている人の様子を見ながら判断することをお勧めします。



 タクシードライバーにお勧めの副業


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いくつか具体的な事例を元に考えてみましょう。会社に禁止されているかどうかはわかりませんが、実際にタクシードライバーをしていると副業の話はよく聞こえてきます。副業禁止の会社に、UberEatsの鞄を持って現れた強者がいるという話も聞いたこともあるくらいです。


タクシードライバーが最初に考えるのは、二種免許を生かして高単価の仕事をするというものでしょう。とはいえ、別のタクシー会社で働くことはNGです。タクシードライバーの乗務時間は法律で規定されているので、その制限を超えて乗務するのは安全上大きな問題があります。法令違反で罰せられますし、会社にもペナルティがあるのではないかと思います。


そこで、よく聞くのが運転代行サービスのアルバイトです。運転代行というのは、外食中に飲酒したお客さまの元に2名が乗った車で向かい、一人がお客さまの車を運転し、もう一人が自社の車を運転するというものです。お客さまを乗せるほうの運転手は、二種免許をもっている必要があります。不所持であれば法令違反です。東京などの都市圏にもこのサービスはありますが、地方都市では車がないと飲みに行けないことが多いので、代行が使われる割合が高いようです。


地方都市でどれくらいのタクシードライバーが運転代行を副業にしているかはよくわからないのですが、東京ではほとんどいません。それはグレーゾーンだからとか、あるいはブラックだからという理由ではなく、単純に効率が悪いからです。


東京のタクシードライバーは、与えられたタクシーの乗務日数をすべてこなすほうが、稼ぎが大きくなるのです。隔日勤務の場合には月13日の乗務(26日相当)、日勤の場合には最大で26回まで乗務することができます。残りの4〜5日については「公休」という休日になります。もしかしたら、その時間を利用して代行サービスをしている人も存在するかもしれませんが、常人では体力的に不可能です。ほとんど寝ないでラリーカーでユーラシア大陸を横断するとかいうような尋常ではないタフネスがあれば別ですが、どれだけタフなドライバーでも隔日勤務を13回、あるいは日勤を26回もやるとヘトヘトになります。かくいう著者は、13回だともう本当に厳しいので12回か、月によっては11回にしてもらっていました。身の回りには毎月13回やっている超人もいましたが、本当に頭が下がる思いです。


言うまでもないですが、歩合制なので乗務回数が多ければ多いほど高収入を狙うことができます。


というわけで、運転代行については、何らかの法律に触れる可能性もありますし、体力的にも非常に厳しいのでまったくお勧めしません。特にこれからタクシーをやろうと思っている方は、仕事に慣れるまで半年から1年かかりますから、まずは本業に集中するべきです。


ところで、運転代行とタクシーとの違いを、ついでに少し説明しておきます。タクシードライバーは公道に出て自分でお客さんを探しにいきます。タクシーの営業というのは、街に出ることと言い換えても良いくらいです。自分で探す以外に、無線やアプリによって配車が決まることもあります。


それに対して運転代行の場合は、基本的には会社に電話がかかってくるのを待つことになります。お客さまから場所を指定され、そこに向かうという形になります。これがどういう違いになるのかというと、タクシーは攻めであり自発的ですが、運転代行は受けであり待機時間が長い仕事だと言えます。


では、お勧めのアルバイトは何でしょうか。タクシードライバーの本業で体力的に消耗していることを考えると、自宅でコツコツできるものが親和性が高いのではないかと思います。自宅でやる副業であれば、体力も温存され、事故や違反をして本業に影響が出る危険性もありません。そのため、会社にも相談しやすい職種だと言えます。


在宅でできる仕事として、最近よく聞くのはYoutuberです。すっかり市民権を得たYoutubeに動画を投稿し、一定以上のチャンネル登録者がいると、動画の再生数に応じて広告費が支払われます。何十万人も登録者がいる人気チャンネルを作ることができれば、本業を超える収入を得ることも不可能ではありません。ただし、チャンネル登録者が最低でも1000人必要となる上、コンスタントに動画を投稿していく必要があるため、想像以上にハードルは高いです。タクシーでの乗務経験をYoutubeで話したところで、ライバルも多いですし、視聴者も少ないため、なかなか稼ぐことはできないでしょう。


例えば音楽とか、手品とか、国際情勢に非常に詳しいとか、何らかの芸がある場合以外は少し難しいかもしれません。副業といっても、いくらやっても収入がゼロという危険性がある分野です。まずは趣味ではじめてみて、うまくいってきたら副業に切り替えるというアプローチが良いように思います。


どんな副業をするのかと考えてみても、ずばりこれだというものはなかなか言えません。本業と違って、副業は適性や興味に大きく左右されるからです。休みを削ってまでやりたいことであり、休みを削ってやったとしても体力的に消耗しないものである必要があります。


著者の場合は、この文章を書いていることからもわかるようにライターが副業でした。なのでライターについてはある程度わかるのですが、最初のうちは自分でライティングスキルを高めて、案件を取ってこないといけないのでとても大変です。ライターの案件には単価が決まっていて、高単価な仕事が取れれば時間の効率は良くなるのですが、なかなか見つけられないというジレンマがあります。


また、案件で文章を書くことと、自分の好きなことを書くのはまったく異なるため、機械のように淡々と書き続ける根気も必要になります。ただ、タクシーを運転する技術と、文章を書く技術はまったく違うものであるため、うまく気分転換しながら取り組める仕事だと言えます。


ただし、乗務前にパソコンとにらめっこをすると、目が疲れて本業に差し支えがでるので、そこは注意が必要です。最近は副業関係の書籍が増えてきているので、どんな副業があるのか探してみるのも面白いかもしれません。


 ヒントは街の中にある


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タクシードライバーは街に出て、色々な人と話をする機会がある仕事です。お客さまの話が耳に入ってくることもあります。職業倫理として、お客さまが話していた内容についてはすぐに忘れて誰にも話すべきではありません。しかしながら、どんな仕事が儲かっているとか、どんな仕事が駄目だとかいう話が耳に入ってきたら、どうにも気になってしまうことがあります。


そういった刺激から副業を考えることができるのも、タクシードライバーの面白いところです。もちろん、お客さまのアイデアを悪用するようなことは絶対にしてはいけません。しかし、「副業を探しているのですが、タクシーをしながらでもできるものをご存じありませんか?」と、お客さまと雑談することは問題がないはずです。もちろん、お客さまが不愉快に感じてしまってはいけないので、あくまでも自然な会話の中で聞くことができれば、ではあります。


お客さまとの会話は一番難しいところで、このように会話から探るのはリスクもあります。基本的に無言でいて、お客さまから話しかけられたときだけ会話をするのが無難ではありますが、こちらからお声がけしたほうが喜んで頂けるケースもあります。このあたりは臨機応変にする必要があります。その中で、ビジネスや副業の話が好きな方もいれば、嫌いな方もいることでしょう。お客さまの様子を見て、何に興味あるのかを考え、お互いにとって有意義な情報交換ができれば、双方にとって素晴らしい時間となります。


少し話が逸れました。お客さまだけではなく、街からもヒントを得ることができます。例えば朝の繁華街では掃除をしている人がいたり、その横で朝に出勤してくるホストやキャバクラ嬢がいたりと、普通に暮らしていてもなかなか見られない光景を見ることができます。街に暮らす人々の需要を見極めて、自分なりのビジネスチャンスを探すことは、タクシードライバーの仕事と両立します。そういった背景からか、タクシードライバーから起業した人の話も時折聞くことがあります。


タクシーと会社経営の両立が可能かどうかは、法的には問題ないと思いますが、他の副業と同じように上司に一度相談してみることを強くお勧めします。会社によっては組合の相談窓口がある場合もあります。会社側としてはあまり公に口にはできない、暗黙のルールを教えてくれることもあるので、相談してみて損はないでしょう。


 まとめ


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  • 本業がタクシードライバーの場合、体力を消耗しないアルバイトがお勧め
  • 法的に禁止されていないが、何をやるかは会社や上司と相談して決めたほうが良い
  • 何をやるか迷ったら、運転手として街に出ながら探してみる


タクシードライバーの副業事情について書いてみましたが、正直言って副業はせずに本業だけでしっかり稼ぐというスタイルが一番手堅いと思います。特に、他のところで運転手をするのは非常にリスクが高いと思います。


一方で、コロナ禍で収入が激減したときは副業でもあれば良かったなと言っているドライバーが多かったのも事実です。また、タクシードライバーは、何らかの理由で続けられなくなる可能性がある仕事でもあります。免許を失ってしまったり、事故で怪我をしてしまったりすることがあるからです。そういう時に備えて、手に職をつけていく意味で何か挑戦をしていくのは、令和の時代には必要なことなのかもしれません。

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