タクシードライバー求人のお祝い金とは?

公開日:2024/09/20 00:52


タクシーの仕事をはじめようと、求人サイトを見てみると「お祝い金20万円」などと、書かれているのを見かけることがあります。金額にはいろいろありますが、40万円、60万円という高額のものもあります。お祝い金とは、入社を決めた会社から贈呈されるお金のことです。ただ、会社に入社しただけでお金が入る夢のようなシステムだといえるでしょう。


実はこの記事の筆者は、お祝い金のシステムを知らずにタクシー会社に入ってしまったので、もらい損ねてしまいました。それについては、今でも悔しく思っているので気になる方はよく調べてから、就職したほうがいいと思います。ただ、お祝い金だけで会社を選ぶのは少し危険です。


先輩ドライバーから聞いたことがある話ではバブルの頃、お祝い金が100万円という会社があって、飛びついたドライバーがいたそうです。しかし、入社してみたとこ勤務内容があまりにもブラックで、すぐにやめたくなってしまったとのこと。さらに悪いことに、もらったお祝い金は、3年間勤め上げないと返還しないといけないという条件がついていました。半額はすぐに支給されたのですが借金を返したり、遊んでしまったりして、すぐになくなってしまい……。泣く泣くブラックな労働条件で、3年間働いたとのことです。


もちろんこれは昔の話です。現在ではタクシー業界の労働条件は良くなっていて、どちらかというとホワイトな業界になっています。不法な労働を強いる会社があった場合には、すぐに免許を取り消されて廃業になってしまうためブラックな会社はほとんどないはずです。とはいえ、そうそううまい話はないもの。お祝い金についても注意深く考える必要があります。


 お祝い金がもらえる理由はタクシードライバーが売り手市場だから


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そもそも、どうしてお祝い金というシステムがあるのかというと、タクシードライバーが売り手市場であることがあげられます。つまり、どの会社もドライバーが足りず、経験者はもちろん、未経験者であっても常に探している状態だからです。


一般の会社では、従業員が不足していて、競業他社がある場合には給与額などの待遇を良くすることで人材を確保しようとします。しかしタクシードライバーの給料は、売り上げに依存した歩合性となっているため給与額はドライバーの努力次第となります。


結果、稼げるドライバーどの会社に行っても稼げるし稼げないドライバーどの会社であっても稼げませんこれが原則です。


もちろん、歩率を上げることによって、ある程度給与を確保することはできますが、実はこれも「稼ぐドライバー専用の措置」となっています。どういうことかというと、タクシーの車両には維持費がかかります。車両税などの各種税金メンテナンス費用燃料代保険代などです。このタクシーの維持費とドライバーの給料を払うと、タクシー会社にはほとんどもうけがなくなってしまいます。というのも、売上額の半分以上がドライバーへの給料になってしまうからです。


したがって、1回の乗務で8万円稼いでくるドライバーは会社に4万円残すことになります。3万円を稼いでくるドライバーは1万5千円です。この会社に残ったお金で車両の維持費や、内勤の給料家賃光熱費を賄う必要があります。3万円のドライバーの場合は、もろもろの経費を考えると赤字か、よくてトントンくらいになるといわれています。4万円なら少し黒字で5万円、6万円と売り上げがあがるごとに、会社に残るお金が増えていきます。


そうなった場合に、ドライバーにも還元するのが歩率の基本的なシステムです。つまり、しっかり稼ぐ人歩率がよく稼がない人歩率が低くなります。会社によって上がり方は異なるはずですが、稼がない人のほうが歩率がいいということはまずありません。こういった事情なので、給与面での差をつけるのが難しくなっています。


稼ぎやすい会社はありますし、稼ぎづらい会社もあります。しかし、稼ぎづらい会社のトップは、稼げる会社の乗務員と比べても遜色ない給与額になっているはずです。タクシードライバーは自分の実力で稼ぐ仕事なのです。


こういった事情から給与面で差をつけることが難しく、その代わりにタクシー会社がPRするのは「働きやすさ」と「お祝い金」です。タクシーの仕事は決して楽とはいえません。いや、むしろ過酷な仕事というほうがいいでしょう。だからこそ働きやすい環境を作ること非常に重要なのです。働きづらさを感じるとドライバーが退職してしまうからです。こういった背景から働きやすさをPRするタクシー会社が、とても増えています。


ただ、転職をする際には収入面について心配する人がほとんどです。そのため、収入面でのPRをしたいのですが、タクシードライバーの給与形態は複雑で、未経験者には暗号のようにしか見えません。例えば「隔日11〜13回、歩率50~55%から」などと書いてあります。


未経験者には何のことやらですが、経験者であっても同じです。詳細な条件は電話するなり面談に行くなりして、確かめる必要があります。世の中おいしいだけの話はないもので、どんな魅力的な求人であっても、その中に大変なことは含まれています。会社目線でいうと、どこに魅力を作って、どこにネガティブな条件を入れるかを考えて、他社との差を出します。そんな魅力の一つであり、最大級の破壊力があるのがお祝い金という名の現金支給です。



 お祝い金をもらう際の注意点


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お祝い金の相場は10〜30万円ですが、場合によってはもっと高額なこともあります。筆者が知る限りの最高額は100万円です。となると、100万円が俄然いい条件だと思う方がほとんどだと思います。しかし額面が多ければ多いほど、支給される際の条件厳しいことも予想されるので、そこをしっかり確認する必要があります。


タクシー会社としてはドライバーに長期間働いてもらって、しっかり稼いでもらう必要があります。そして、お祝い金に払った分も、長期的には回収する必要があります。これは経営者ならば当たり前の考え方です。なので就職を考えるほうも、そのタクシー会社が何を求めているのかを推測して適宜問い合わせる必要があります。


一番良くないのは会社に入ってからこんなはずではなかったとなることです。これは、ドライバーにとっても会社にとっても不幸です。タクシードライバーにとって一番幸せなのは自分にあった会社で自分の望むレベルの強度の仕事をしていくことです。よくあるのが、友人がタクシードライバーをしていて、その人の意見を参考にして就職先を決めたのはいいものの、友人とは体力運転技術が違いすぎてあとで非常に苦労するというケースです。自分にとってどういう条件がいいのかをしっかり考える上で、お祝い金の多寡も検討材料にいれると良いでしょう。


では具体的にどういう条件が多いのかについてです。よくあるのが、勤務期間とのひもづけです。「お祝い金20万円を支給する、ただし、1年間は在勤すること」というような条件です。これは1年間であったり、長いところでは3年間というところもあったりするかもしれません。もちろん、すぐにやめるつもりで就職する人はいないと思いますが、思わぬ事情で仕事を続けられなくなることはあります。タクシーの仕事がどうしてもあっていないと感じることもあるでしょう。なので、在勤期間という縛りは短いに越したことはありません


注意しなければいけないのが在勤期間が足りず、退職する際にお祝い金を返還するという条件があるかどうかです。これは会社によっても異なると思いますが、よく確認したほうがいいと思います。もしも返還する可能性がある場合には、使わずにそのまま取っておくのが賢明でしょう。在勤期間はシンプルです。やめなければいいだけだからです。


一方で、売り上げや走行距離などに条件がついている場合は注意が必要です。例えば、’’最初の3ヶ月間、隔日勤務1乗務あたり平均3万円を超えなければ支給されません’’という条件があったとします。3万円は普通に営業していれば、まず達成できる売上額なので、この場合はほとんど問題ありません。ただ、この条件が5万円だったらどうでしょうか。


消費税を計算に入れない税抜5万円というのは、しっかりやれば達成できるけど未経験者だと難しい場合もあるというラインです。平均で5万円の売り上げを作れるドライバーならば、月収でいうとおおむね35万円くらい、年収だと420万円くらいの稼ぎになるはずです。令和3年のタクシードライバーの平均年収は、コロナ禍で落ち込んでいたこともあり東京でも約340万円、全国では296万円です。そう考えると、未経験者がいきなり420万円を稼ぐのは、かなりハードルが高いといえます。


コロナ禍の影響がまだなかった令和元年の統計をみると、東京のドライバーの平均年収は約470万円なので、その時代であればしっかりと営業すれば十分に狙える数字でした。コロナ禍にあわせて制度を変更している会社もあると思いますが、そうではない会社もあるかもしれません。よく確認する必要があります。こういったコロナ禍の例外事項以外にも、超人級の活躍をしなければ達成できないという水準のものも聞いたことがあります。


具体的にいうと1乗務あたりの走行距離が、350km以上になるというものです。東京でもっとも稼げる23区を中心とした地区では、走行距離の上限は365kmです。それ以上走ると始末書を書くことになります。ほとんど休まずに営業して、長距離のお客さんをどんどん乗せられるエース級のドライバーは「距離が足りない」などとぼやくことはありますが、普通のドライバーは上限に達することは滅多にありません。だから、未経験者がいきなり350km走るというのは、ほとんど不可能といっていい水準です。


一応、首都高などにのって、環状線をずっとぐるぐる回っていれば距離は稼げますが、そうすると売り上げがあがらなくなるし、おそらくサボり行為とみなされて注意されることになるでしょう。仮にお祝い金が100万円に設定されていたとしても、このように条件が達成不能なほど厳しいということがあるかもしれません。一方で、100万円の設定であっても3〜5年間勤務することが条件などであれば、会社としても十分に元は取れることでしょう。


なので、最低でもその設定期間はしっかり務め上げることと、そのあともずっと在籍したいと思える会社だと思えることが大切です。


 お祝い金制度の正しい使い方


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お祝い金は、どうしても金額に目がくらんでしまいます。求職者に魅力的だと思わせるのが、目的のお金なので、そうなるようにできています。お祝い金が10万円の会社と30万円の会社があった場合、どうしても高額なほうがよく見えてきます。一般社会の常識でいうと、良い条件をつけて求人をしている会社には、裏があるのではないかと勘繰ってしまうところですが、タクシー業界に関してはどの会社も、人材不足なのであまり不自然なことではありません。なので、その点については怪しく思う必要はありません。


一人を採用するのに100万円ちかくかかるというのが、採用市場といわれています。だから、10〜30万円のお祝い金であれば、無理のない額面なのだろうと思います。50万円以上であっても広告費と考えれば、それほど高額ではないといえるかもしれません。ともかく、お祝い金は怪しいものではないのですがお祝い金だけで会社を決めるのはやめましょうというのも、タクシードライバーにとって重要なのは、入社時にもらえる額面ではなく働きやすい会社でしっかりと収入が得られることだからです。10万円くらいの差は気持ちよく働くことができれば、すぐに取り返すことができます。


細かい話ですが、タクシー会社ではあまり交通費が発生しないことが多いです。そのため、往復の交通費が0円なのか、500円なのかで年単位では随分と支出が変わってきます。出勤日数が年間で144回あるとしたら72000円になります。10年勤めれば72万円です。車で通勤できる会社もあるし、原付きバイクや自転車のみということもあります。こういった諸条件によって長期的な収入は変わってくるので、お祝い金に目がくらみながらも中長期的に考えて、もっとも稼げそうな会社を検討する必要があります


 まとめ


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  • タクシードライバーは売り手市場なので、入社へのインセンティブとしてお祝い金が設定されていることがある
  • お祝い金を全額支給されるためには条件があることも多いためしっかり確認しましょう
  • お祝い金の金額だけではなく、自分がずっと務めたい会社かどうかをしっかり検討しましょう


タクシードライバーにとっては当たり前のお祝い金制度ですが、他の業種ではどうなっているのだろうと思って調べてみました。しかし、少し調べた限りではタクシーほどお祝い金が出る業界はありませんでしたタクシーの仕事は、ドライバーがあってこそ成立します。自動運転システムが実用化されつつありますが、まだまだ課題も多い状態です。


また、東京などの交通量が多く、複雑な道をお客様のご要望にあわせて自動で走れるか、というと非常に難しくタクシーが自動化するにはまだまだ時間がかかるのではないかと思います。なので、売り手市場はしばらく続くものと考えられます。タクシー業界に転職をお考えの方はお祝い金制度をうまく利用してみてください。

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