ドライバーにとって素晴らしくて恐ろしい!タクシーエコーカードって?

公開日:2024/09/11 10:39

タクシー稼業は一期一会です。お客様に選んでいただき、ご乗車いただくのを1日に何度も何度も繰り返すことになるのですが、同じお客様に巡り合うことは滅多にありませんもちろん、同じ駅に着け待ちをしていると、いつも使っていただくお客様に会うことはありますが、そういった営業スタイルを取らない限りは、基本的には一期一会の関係になります。


例外として、個人タクシーのドライバーに多いのですが、自分の顧客をもって直接電話をもらって営業に行くというスタイルがあります。顧客をもつスタイルは単価の高いロングのお客様から優先的に電話してもらえるというメリットがある反面どんなに遠い場所にいても駆けつけなければいけないことや、もし自分が休みなどで行けない場合には仲間のドライバーに連絡して行ってもらう必要があるという面倒な点もあります。また、回送での移動や待ち時間も長くなるため、効率的な営業ができなくなることもあります。このあたりは、顧客を見つけられるだけの営業力があるかどうか、それが苦にならないかどうかが重要で人によって状況が変わってきます。


営業力というのは、定期的にロングの距離を移動するお客さまを見つけたら仲良くなって、連絡先を交換する力のことです。それだけではなく毎回ご乗車いただくたびに満足してもらえるだけのホスピタリティも求められます。要するに、会話が面白くないと駄目だということです。あるいは黙っているだけでもいいのかもしれませんがそれでは差別化できません。値引きをするなどの行為をすることも昔はあったようですが、道路運送法違反になるため絶対にやってはいけません。実際に2008年には「居酒屋タクシー」といわれる、缶ビールなどを提供していたタクシーが摘発されて、新聞などに取り上げられました。


このように、一部の顧客営業をするドライバーを除いては、タクシードライバーとお客様は一期一会の関係です。その間をつなぐ目的でできたのがエコーカードです。エコーカードとはタクシーに常備されている「お客様の声」を書くことができる葉書サイズのものです。この記事では、エコーカードの素晴らしさと恐ろしさについてタクシードライバー目線から語っていこうと思います。


 エコーカードの目的とは


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エコーカードは、タクシーの後部座席などに常備されている葉書サイズの紙です。車両番号が印字されているためどのタクシーに乗ったのかわかるようになっています。また日付と時間を書けばどのドライバーが運転していたかもわかります。そのため、エコーカードを書けばタクシー会社を通じて、ドライバーにも気持ちが伝わることになります。エコーとは「こだま」を意味している言葉ですが転じて「反響」という意味に使われます。つまり、お客様からの反響をタクシー会社やドライバーがキャッチするためのものです。お客さまから思わぬ嬉しい言葉をいただくこともありますし、それによって会社から表彰されることもあります。


私の場合は、社長から1000円のクオカードをもらいました。いただいたお言葉も嬉しかったですが現物をもらえるのもとても嬉しいです。ただ、エコーカードはいいいことばかりではなくネガティブな反響をいただくこともあります。とはいっても、私はクレームをいただいたことは一度もありません。しかし、タクシードライバーの仕事は簡単ではないので、スレスレのことはよくありました。警察沙汰になることすらあるのがこの仕事の大変なところであり面白いところでもあります。



 エコーカードには何が書いてあるの?


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もしかしたらいくつかバリエーションがあるかもしれませんが、筆者の知っているものとしては選択式自由記述欄がありました。選択式のものは5択で


1つめは「行き先についての返事」をちゃんとしたかどうかについてです。

2つめは、「道順確認」をしたかどうかについて。

3つめは「降車時の挨拶とお礼」をしたかどうかについて。

4つめは、「安全運転」をしたかどうかについて。

5つめは少しトーンが違っていて他のタクシーも含めて繁華街などで空車滞留」をしていないか


についての選択肢があります。どうしてこういった項目があるのかを1つずつ説明します。


行き先についての返事」はクレームになりやすいポイントです。行き先を告げても無言で出て行かれてしまうと、本当にわかっているのかとお客さまは不安になります。また、運転手は前を向いていて、背中を向けて接客することもあります。最近は特に、感染予防対策で運転席と後部座席が仕切られていることがあり、声が小さくて聞こえないケースもあるそうです。そういった事態を避けるためにドライバーは、体ごとお客さまを向いてしっかりと行き先を確認しないといけません。「恵比寿駅ですね。かしこまりました。永代通り沿いにいたします。」逆に、前を向いたまま何も言わないと非常に印象が悪いです。


道順確認」については、普段地元の駅でのみタクシーを使っている方には、わかりづらいところです。というのも、地元の駅の場合、目的地までの最適なルートが、決まっていることがほとんどだからです。なので、駅から役所までと告げれば、どのルートを通るのか、いちいち説明されないことが多いです。一方で、街中で流しのタクシーを拾った場合は、状況が異なります。お客さまが行きたい場所がわかっていても目的地までのルートは無数にあるからです。


例えば明治通りの大久保あたりを、北上しているときのお客さまが、高田馬場駅までと言った場合を考えてみます。まっすぐ行って、早稲田通りとの交差点である馬場口を、左折すれば駅に着きます。なので、「はい、かしこまりました」とだけ告げて発信すると、思わぬトラブルになることがあります。というのも、お客さまは手前で曲がって諏訪通りを通ることを、想定しているかもしれないからです。いやいや、高田馬場駅に着けば一緒じゃないかと、思われるかもしれませんが、この接客はとても危険で、いつクレームを受けても仕方がないと言えます。


というのも、お客さまが高田馬場駅と言ったとしても「駅の近くならどこでも」とは言っていないからです。もしかしたら駅から少し手前にある、諏訪通り沿いのお店にご用があるかもしれません。その場合、早稲田通りを通っていくと遠回りをすることになりますし時間もかかります。笑って許していただけることもありますがドライバーがしっかりルートを確認すれば避けられた事態です。お客さまの時間お金を無駄にしてしまうことになるのでクレームになる可能性はあります。ただ、直接運転手には文句を言いづらいという方も多いと思います。そのためのエコーカードです。接客態度があまりよくないタクシードライバーはクレームが書かれたエコーカードが来るたびに会社で怒られることになります。


3つめの「降車時の挨拶とお礼」については、無愛想にドアを開くだけのドライバーもいるということでしょう。少し語気が弱いのがこのケースのクレームを、あまり聞いたことがないからです。他の接客ができていて、降車時だけ無愛想というドライバーも、あまりいない返事がなく、ルート確認もせず降りるときにも無愛想となると、お客さまが感じるストレスも非常に大きなものになってしまうことでしょう。私は、「ご乗車ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております!!」と大きな声で言うようにしています。もちろん、自分のタクシーにまた乗っていただくことはほとんどありませんが、タクシーについての印象がよくなって、またタクシーで移動しようと思っていただきたい、という思いからです。


4つめの「安全運転」については、とても重要です。というのも一見人当たりがよくて、丁寧に接客していそうなドライバー仲間でも、妙に苦情をもらうことが多いことがあるからです。何が問題なのかと思っていたら、のあと何度か免許停止処分を受けていました。つまり、違反や事故が多いドライバーということです。運転が荒かったり、安全性が低いと感じたりすると思うと、お客さまは不安を覚えますし場合によっては恐怖を感じます。


一度不信感をもたれてしまうと、何を喋っても苛つかれてしまい結局クレームになってしまう、ということがあるようです。タクシードライバーは歩合性なので稼ごうと思うと、ついつい急いでしまうドライバーもいるようです。長く続けるドライバーは安全運転なので、割合としては小さいのですが、とんでもなく運転が荒いドライバーを見たことはあります。急ハンドル、急ブレーキをしないことはもちろんですが、路面が荒れているところを覚えてスピードダウンするなどの配慮も必要です。ドライバーは普通に運転しているつもりでも、お客さまが荒れていると感じると、不安になってしまい段々と不信感がつのるものです。自分では気づきづらいの問題なので、酔いやすい友人などに乗ってもらって率直な感想をもらう、などの対策をするといいかもしれません。


 夜の繁華街に詰まる空車タクシー


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エコーカードに書かれている5つめの選択肢は、これまでの4つの項目と少し色合いが異なります。「繁華街などで空車滞留」についてという問いは、エコーカードが置かれていたタクシーについてというよりも街全体とタクシーの関係について尋ねています。というのも、22時から終電後の1時半くらいまでは、タクシーの一番の稼ぎ時です。なので、この時間に休憩しているドライバーはほとんどおらず、繁華街へと殺到します。終電があるうちはタクシーに乗って、帰宅する方はそれほど多くはありませんが、自宅が遠い方ほど早く終電がなくなっていくのもあります。お客さまが「住所いいですか?埼玉県……」と東京都外であることがわかると、ドライバーは心がときめきます。


というわけで、夜の繁華街は、タクシードライバーの主戦場なのですが繁華街がタクシーだらけになって、渋滞してしまうという問題も生じます。銀座や赤坂については、平日22時から翌1時は乗車禁止地区に指定されています。どういうことかというと、禁止地区内でお客さまを乗せると重大な違反になってしまいますこの違反は、タクシーセンターより定められているもので、所属している会社にペナルティがあるため、ドライバーは絶対に守らなければなりません。そのおかげで赤坂や銀座の中心地は、タクシーがいないのですが、反作用としてその周辺は空車のタクシーだらけになってしまいます。


例えば銀座は営業できないけど、新橋ならできるということで新橋の駅前が、タクシーで詰まっていることがあります。メインストリートだけではなく、路地までタクシーで詰まってしまうと歩行者にとっても邪魔ですし、危険を感じることもあるかもしれません。そこで警察署に苦情が行くと、タクシー業界への指導が入ることもあるのでしょう。タクシー業界としては、なるだけ社会の迷惑にならないように、慎重に営業する必要があります。5つめの項目である「繁華街などで空車滞留」については、タクシー業界がお客さまだけではなく、繁華街にいる方々の邪魔になっていないかを確認するためのものです。


 まとめ


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  • エコーカードはタクシーの車内に常備されたお客さまの意見を書き込む葉書
  • ドライバーの接客や運転を評価する項目がある
  • タクシーが繁華街で邪魔になっていないかを確認する項目もある


タクシーの車内でお客さまと接する時間はとても短いです。ドライバーをしていると一日何十人ものお客さまにご乗車いただくので感覚が麻痺してくるところがありますが、お客さまからすると初対面の知らない人に命を預けていることになります。そのため、受け答えがうまくできなかったり運転に危険を感じたりするとストレスを強く感じます。ドライバーは常に、お客さまを安全かつ迅速に目的地へとお連れする仕事だということを意識する必要があります。そう考えると気を抜けない大変な仕事なのですがエコーカードには嬉しい言葉をいただくこともあります。丁寧に接客するとお客さまにはちゃんと伝わりますし、感謝してもらえることも少なくありません。自分の仕事が世の中の役に立っているのかどうかわからなくなるということはありません。タクシーの仕事は楽とは言えないかもしれませんがとてもやりがいがあります。今日も明日もお客さまのお役に立てるようにタクシーに乗って街へと赴きます。

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