羽田空港の定額運賃ってどういう仕組み?

公開日:2024/09/20 00:52


東京から国外に移動する場合、あるいは国内でも長距離移動する場合には、飛行機を選ぶ方は多いと思います。東京近郊では、東京都大田区にある羽田空港と、千葉県成田市にある成田空港を利用することになります。タクシードライバーからすると、空港へ行くのはとても嬉しいことです。運賃も期待できますし、道筋もとても楽だからです。それに、雑多な街並を離れて空港までタクシーでいくと、気持ちがさっぱりします。


私も何度か、駐車場に止めて記念に空港でご飯を食べたこともあります。お値段はだいぶ高くなってしまうので余裕があるときだけですが。また、空港でそのまま営業するという方法もあります。羽田空港には専用乗り場がありますので、そのまま並ぶことができます。空港からタクシーに乗るお客さまは、比較的遠くまで行くことが多いため、単価が高い傾向にあります


ただ空港に並ぶにはさまざまな制限があり、事前によく確認しておく必要があります。かくいう私は、空港の乗り場に並んだことがないので詳細には把握していません。タクシーセンターの資料を見てみると、第1から第4までタクシー待機所があり、例えば第3タクシー待機所では、神奈川レーン、一般・UDレーン、ワゴンレーン、英語検定合格者レーン、ハイヤー待機レーンと、合計19列9レーン、合計171台が待機するようになっています。また、神奈川県に登録しているタクシーが並ぶ神奈川レーンを除いた2〜7レーンは「おもてなしレーン」となっており、タクシーセンターで研修を受けて「外国人旅客接遇研修(英語)中級以上修了」の資格をとる必要があります。


一般・UDレーンの、UDとはユニバーサルデザインのことで、車椅子のまま乗車できる設備を持っているジャパンタクシーのことを指します。車種はワゴンでアルファードやセレナなどの7人乗りの車です。空港で営業している先輩に聞いたのは、5人乗りのセダンは人を乗せる車で、7人乗りのワゴンは荷物を乗せる車とのことでした。そして、ワゴンのほうがお客さんは多いそうです。


一方で成田空港はというと、東京ではなく千葉にあるため営業区域外です。なので、東京のドライバ−は乗り場に並ぶことはできません。しかし、仕事で成田空港に行くことはあります。都内でお客さまが手を上げて、成田空港までを指定される場合です。営業区域内から区域外は可能です。そして、成田空港と言われると、ドライバーはついついニヤリとしてしまいます。なぜかというと、都内から成田空港まではかなり距離があるからです。東京駅からの場合にはおおよそ65kmあります。すると、運賃は2万円を超えてきます。1日あたり5〜7万円を作れれば十分というドライバーが多いので、成田が出ると一気に楽になるわけです。そう簡単に出るものではありませんが。


前置きが長くなりましたが、タクシードライバーにとってロマン溢れる空港行きの営業ですが、定額運賃という制度があります。この記事では、タクシードライバー目線で、羽田空港への定額運賃についてご説明していきます。


 羽田空港 定額運賃とは


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定額運賃とは、予約した段階で運賃が決定している利用方法のことです。ドライバーとしては2〜3ヶ月に1回あるかどうかでしょうが、会社によってはもっと多い場合もあるかもしれません。最近はアプリを利用した配車で、予約したルートの通りに進むことを前提で最初から料金が決まっているものもあります。普通にタクシーに乗るほうが安くなる場合もありますが、それほど大きな差はありません。だから事前に料金が決まっている安心感があったほうがいいというお客さまもいます。また、運転手に道を間違えられたり、遠回りされたりということを心配する必要もなくなります。


定額運賃は予約した場合にのみ適用されることがほとんどです。料金は決まっていますが、首都高速の利用料が別途かかるので注意が必要です。価格は会社によってそれぞれ違いますが、イメージが湧きやすいように2022年12月現在の日本交通の料金をいくつか引用します。市区町村別に料金が設定されていて、東京駅や秋葉原駅などがある千代田区は6900円、深夜の場合には8300円です。新宿区からは8300円で、深夜は9800円です。私が歌舞伎町からお連れしたお客さまの語料金は10000円ちょうどくらいであったように記憶しています。高速料金を加えて計算すると、若干割安になっているようです。空港から遠い練馬区からでは11700円、深夜では13800円武蔵野市からは12800円、深夜では15200円となっています。


バスや電車などの交通機関のほうが安いですが、人数が多い場合、荷物が多い場合、病気や怪我などのご事情でdoor to doorで空港に行きたい場合などにご利用になるようです。例えばですが年老いた両親が遊びに来てくれて、帰りは空港まで送らなければならないものの、車を持っていないときなどに利用する、というケースが考えられます。



 その他の定額プランについて


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会社にもよりますが、羽田空港以外にも、定額プランが用意されていることがあります。まずは成田空港への定額タクシーです。成田空港は羽田よりもずっと遠いので、料金も高くなります。羽田空港へのプランと同じく2022年12月現在の日本交通のサイトを参照すると、千代田区からは23000円、深夜・早朝の場合には28000円です。これだけ高額になるとご利用になるお客さまは少ないだろうと思われるかもしれません。実際に成田定額の配車が回ってきたドライバーは周りにいないのですが、景気が良いときはそこそこの需要があるようです。例えば外国人観光客5名が、早朝の便に搭乗予定の場合です。異国の地で大荷物を持って早朝に移動するのは難儀しますし、間違えてしまうリスクがあります。


しかしタクシーを予約しておけば、25000円で移動でき、一人あたりの支払いは5000円です。安全かつ確実に空港へとたどり着けるというメリットを考えると、ご利用するお客さまも十分に想定できます。また会社の経費として、計上することもできるため、会社役員や経営者などが利用することもあるはずです。ハイヤーを利用することもできますが、その場合はさらに料金が高くなります。


ハイヤーとタクシーの違いは、まずは高級車を利用しているかどうかです。タクシーの場合には、クラウンコンフォートや、ジャパンタクシーなどが多いですが、ハイヤーの場合には同じクラウンでもロイヤルサルーンというグレードの高い車種であったり、レクサスやセンチュリーなどの高級車であったりします。また運転手も、きめ細やかな接客ができるよう研修を受けていますこのような特徴を持つため、VIPの送迎などに利用されることになると思います。単に空港まで移動できればいいというお客さまはタクシーを選びます。


他にも東京ディズニーリゾートへの定額タクシーもあります。こちらも例えば新宿区からは8000円です。新宿からディズニーリゾートがある千葉県舞浜市まで電車で移動する場合には、乗り換えが必須となります。特に東京駅構内では長距離を歩く必要があるため、小さなお子さんを含む家族連れの場合にはタクシーを利用するほうが楽なのは間違いありません。宿泊しているホテルの車止めでタクシーに乗り込み、話している間に夢の国に到着できるサービスです。


地方の観光都市に行くと定額タクシーを使ってまわることができるのはご存じの方もいると思いますが、たとえば日本交通では、東京の観光タクシープランを設けていて、こちらも定額での利用となります。ウェブサイトを覗いてみると、冬季限定のイルミネーションタクシープランは2.5時間で15210円からとなっています。表参道、六本木のミッドタウン、東京タワー、東京駅丸の内仲通り、スカイツリー、レインボーブリッジなどをお客さまの希望に基づいてコースを設定してまわっていくようです。


国会議事堂、国立競技場、明治神宮などをまわる社会科見学タクシーについては3.5時間で21100円からとなっています。他にも面白いものでは、サイクリングタクシーがあります。サイクリング愛好者の乗務員が担当して、富士山麓や霞ヶ浦などのサイクリングスポットまでお客さまをお連れします。車内に自転車を搭載可能で、運動後の観光や温泉などにも案内してくれるとのことです。自転車を搭載できる自家用車を持っていない方にとっては、魅力的なプランなのではないかと思います。


 やっぱり嬉しい区域外営業


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「運転手さん、住所入れてもらえますか?埼玉県……」


ドライバーが心の中でガッツポーズをする瞬間です。ご乗車いただく場所にもよりますが、東京都外への移動は、1万円を超えることがほとんどです。タクシー業界用語でいう「万収」は非常に喜ばしいもので、ドライバー同士が話すときにもよく話題になります。ところで、東京都のドライバーが他県で営業していいのかと思われる方もいるかもしれません。少しややこしいので、営業区域について説明しようと思います。


基本的にはタクシー会社や個人タクシーは、登録している営業区域でしかお客さまを乗せることができません。東京23区に加えて三鷹市、武蔵野市を営業範囲とする武三地区の場合には、千葉や埼玉で営業することは禁じられています。とはいっても、お客さまが区域外へと移動することを希望される場合もあります。


まず、営業区域「内」から営業区域「内」への営業は当然可能です通常の営業形態です。そして原則として、営業区域「内」から営業区域「外」への営業は可能です。なので他県まで行くことは問題ありません。隣県の場合がほとんどですが、ドライバーによっては栃木県、群馬県、山梨県など離れた地域に行ったことがあることもあります。そうすると、「万収」どころか「3万収」とか「4万収」になるので、ドライバーの自慢話になります。少し話はそれますが、東京のドライバーの場合には、遠く離れた県まで移動することはレアケースです。というのも、電車やバスなどの公共交通機関が充実しているからです。一方で地方都市のドライバーは東京などの大都市まで営業することは時折あると聞いています。


夜半に急ぎで東京に行く必要があるなどの状況が発生した場合、タクシー以外に選択肢がないことがありえるからです。そういった事情で6万円かけて長野県から東京まで移動することがあります。もちろん、狙えるほど多発するわけではないのですが、高速道路を使って3時間、帰り道も含めると6時間の小旅行はなかなか楽しいようで、記念に東京でご飯を食べて帰るドライバーもいるそうです。飲食店に他県ナンバーのタクシーが止めてあると、東京でもちょっとした話題になります。この前「長野ナンバー見たよ」とか「話しかけたら6万収だってよ」などと時折話題になります。閑話休題。


区域「外」から区域「内」への営業については許可されています。つまり、千葉県のディズニーランドでお乗せしたお客さまを羽田空港や東京駅までお連れするのは問題ありません。最初から区域外で営業するドライバーはほとんどいないはずなので、東京のドライバーがディズニーランドで営業することなんかないだろうとお思いになるかもしれません。これはどういうことかというと、ディズニーランドでお客さまに降りていただいたあとで、帰り道が空車だと営業としては非効率になります。なので、東京まで向かうお客さまはいないかなぁと念のため探してみるのがタクシードライバーの本能です。うまくお客さまに巡り会えると、ミドル、ロングといわれる中長距離の営業が往復できるわけです。というわけで、ドライバーからするとおいしい思いができるわけですが、そう簡単にはうまくいきません。


例えば成田空港の場合です。原理的には成田空港でご乗車いただき、都内へと戻ることは可能です。しかし、空港の乗り場に並ぶことはできないため、通常は不可能に近いです。お客さまを降ろした瞬間に、他のお客さまが手を上げて、しかも行き先が東京都の場合のみご乗車していただくことができます。成田空港からの営業が成立するのは、災害時などで公共交通が機能せず、タクシーも出払ってほとんどいない場合などに限られます。


このような理由から営業区域外で粘っているよりは、さっさと営業区域へと戻ったほうが、効率がよいと思います。ただ区域外でお客さまを見つける達人のようなドライバーもいます。東京に行きたい人が駅前にいるかもしれないと、嗅覚を発揮させるドライバーは、毎回とんでもない売上をあげてきます。見習いたいとは思いましたが、簡単に真似できるものではありませんでした。


 まとめ


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  • 羽田定額運賃とは、事前に運賃が決まっている予約専用サービスのこと
  • 羽田だけではなく成田や観光タクシーなどでも定額運賃が適用されることがある
  • タクシードライバーにとって営業区域外へのお客さまほど嬉しいものはない


羽田や成田へのお客さまほどタクシードライバーにとって嬉しいものはありません。本文には書きませんでしたが、タクシーをやっていると困ったお客さまに当たることがあります。酔客が寝てしまったり、クレームをいただいてトラブルになったり……。ある程度は織り込み済みで仕事をする必要はありますが、ドライバーにとっては時間を取られるのが厄介です。その分営業時間が減ってしまい、収入も減ってしまうからです。


しかし空港へのお客さまとトラブルになることはほとんどありません。ルートも簡単ですし、お客さまにも次のご予定があるので、長々と揉めるということもありません。ドライバーにとって、安心安全で、かつ、売上も見込めるため一番ありがたいお客さまといえます。そういった背景もあって、仕事上がりのタクシードライバーは「今日は成田が出たよー」「羽田が2本も出た!」などと嬉々として話し、情報交換しています。

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