タクシードライバーが事故を起こしてしまったらどうなるの?

公開日:2024/09/20 00:52


タクシードライバーは運転のプロですが、100%事故を起こさないとも言い切れません。また自身が気を付けていても、運転する時間が長いため、どうしても事故に巻き込まれる可能性もあります。一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会がまとめているデータによると、タクシー運転手を第1当事者とする人身交通事故は、2018年で10,850件(総事故件数は430,601件)となっています。これは事故総件数に対して2.52%に相当します。第1当事者というのは、事故において最も過失が重い者のことを指します。つまりこのデータ上では、タクシーが原因で起こったことが明らかな事故ということになります。また第1当事者ではなくても、事故に巻き込まれることもあります。この数字を多いと取るか、少ないと取るかは難しいところです。ただ無事故無違反を10年以上貫くドライバーもいることを考えると、事故を起こしやすいドライバーがいると考えるべきでしょう。


実のところを言うと、私も3度、事故を起こしてしまいました。そのうち2度は、車庫内で少しこすってしまう程度の軽いもので、公道ではないため始末書を提出するだけで済みました。ただ、もう一つは公道で、対人の事故を起こしてしまいました。車線変更時の後方確認が十分ではなかったため、後ろから接近する車と衝突してしまいました。乗務終了間際で疲労のピークであったこと、お客さまに急ぐように言われていて焦ってしまったことなどが原因ですが、ぶつけてしまっては言い訳できません。


売り上げがかなり取れるようになってきたころに起こしてしまった事故で、命に別状はなく、大きなケガはなかったものの、本当に落ち込みました。首がズキズキと痛む中、ぶつけてしまった相手と、危険にさらしてしまったお客さまにも申し訳ない気持ちで一杯になりました。事故としてはあまり大きなものではなかったのですが、それでも対人事故を起こしてしまうと心身共に大きなダメージを負うことがわかりました。それからは一層安全運転をするという決意を強め、その後は無事故無違反を貫いています。タクシードライバーは公道を仕事場としており、常に事故のリスクと向き合う必要があります。この記事では、事故の原因、具体的な事故例、事故を起こしてしまったときの対応などをご紹介します。


 タクシードライバーが事故を起こしてしまう原因


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タクシードライバーは2種免許を持ったプロなので、一般のドライバーよりも運転技術も安全への意識も高いです。しかし、それでも事故を起こしてしまうことがあります。どうしてプロなのに事故を起こしてしまうかというと、それだけタクシードライバーの仕事がハードだからです。もっとも、これはタクシーだけの話ではなく、トラックやバスのドライバーも事故のリスクとは背中合わせだと聞きました。バスが事故を起こしたところを目撃したことはありませんが、バス会社に勤めていた友人はかなりの頻度で小さな事故があると言っていました。


公道でお客さまを乗せて運転することには大きなリスクがあります。だからこそ、2種免許が必要になってきます。海外でUberが話題になり、一般の人がタクシーの代わりに運転できるようになると言われた時代がありました。日本では2種免許の制限で普及しませんでしたが、正直な感想を言うと、東京の道を一般の人がお客さまを乗せて運転したら、結構な高確率で事故を起こしてしまうと思います。もちろん、運転を必要とする他の業種で勤めていた人なら多少はマシだと思いますが、それでも危険性は高いと思います。そのくらいタクシーの運転は難しいです。


まず基本的には知らない道を走っていく必要があります。ドライバーになる前から、都内の道(あるいは営業区域の道)をくまなく知っているという人はほとんどいません。大抵は走りながら覚えていきます。例えばこういう事故が実際に起こっています。


「タクシーに乗客を乗せ移動中、信号機のある変形四叉路交差点で対向車と正面衝突」


対向車と正面衝突することなんてそうそうないとお思いになるかもしれませんが、このケースは変形四叉路です。具体的にどのように変形していたかは資料になかったのですが、例えば少し形が歪んでいたり、直進路が少し曲がっていたり、意外なところから対向車が飛び出してくるようになっていたりすることがありますそういう交差点に入るときは最大限に注意するのですが、対向車側が進むべきレーンを間違えていて突っ込んでくることもあることでしょう。お客さまを乗せて知らない道を運転するのは決して簡単なことではありません。


もっともそれだけなら慎重に運転すればいいのですが、お客さまを乗せているとなかなか大変です。一度だけすごくよく喋るお客さまをお乗せしたときに危ないことがありました。というのも、目的地を告げられたあと、ものすごい勢いで話し始めたからです。話の内容は、その日にあったことだったのですが、とにかくマシンガンのように撃たれ続けて気をひかれて、危うく進入禁止の路地に頭を突っ込むところでした。お客さまの中には会話をご所望の方もいるのですが、道を探しながら会話をするのは慣れが必要です。慣れてくると「すみません、少々お待ちください。えーっと、この角かな……?えーっと……」などと会話を遮ってしまいます。もしかしたら、少しむっとされる方もいるかもしれませんが、タクシードライバーの最優先の仕事は、お客さまを安全かつ迅速に目的地までお連れすることなので、その2つが最も優先されます。


もう一つ危険なのがお客さまを探しているときです。運転するときは当然よそ見、脇見は厳禁で進行方向をしっかり見ている必要があります。しかし、タクシードライバーは歩道に目をこらしてお客さまを探さねばなりません。お客さまが手を上げても気づかないと営業機会の損失ですし、場合によっては「乗車拒否」と言われてしまうかもしれません。なので、歩道の動向には常に気を配る必要があります。転回できる道路の場合には、反対車線も見ていますし、熟練者は路地の奥のほうを歩く人や、雑居ビルのエレベーターの表示まで見ています。


路地の奥を覗いて、小走りで駆けている方がいたら急いでいるのでタクシーに乗る可能性があります。そういうときは、お客さまから見える位置にタクシーを止めて待ってみます。エレベーターは上級テクニックなのですが、飲食店が入っているビルのエレベーターが降りてくるタイミングでお客さまが現れるかもしれません。そういうときも前に止まって少し待ちます。空振りに終わることも多いですが、手間を惜しまず、注意深く営業しているとお客さまと出会いやすくなります。


慣れているドライバーなら前方にしっかり注意を払いつつも、周囲360度に注意を払うことはできます。少し遠くや、斜め後ろなどからタクシーに手を上げたときに、ちゃんと止まってくれるタクシーもいますし、気づかずに行ってしまうタクシーもいます。その差は、サイドミラーなどを駆使して、常に周囲を確認しているかどうかです。特に、斜め後ろを見ているかどうかは営業成績の差にもなってきます。ただ、こうやって注意を払っているととても疲れます。気持ちも疲れますし、何より目が疲れてきます。


この疲れが最も厄介な事故要因です。居眠り運転などとんでもない話ではありますが、一晩中運転をしていると不意に眠気が訪れて我慢できなくなるときがあります。そうならないように、乗務の前はしっかり休んで調子を整えておく必要があります。



 タクシーの事故例


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最後に具体的にどういう事故があったのかを紹介します。香川県で起こった事故では、交差点で信号待ちをしていた車に対して、タクシーが後ろから追突してきました。追突された被害者は頸椎捻挫および腰部挫傷の怪我を負いました。後ろからの追突事故は、タクシーに限らずよく見られるものです。こういった事故にはいわゆる俗称もあるのですが、現代のコンプライアンスにはあわないのでここでは紹介しません。


ただ俗称ができるくらいよくある事故です。事故の原因は前方不注意ですが、タクシードライバーはお客さまとのやりとりに気を取られることがあります。とはいっても、筆者の周囲で前方不注意の衝突をしたドライバーはいませんでした。ちゃんと注意して運転することと、疲れてきたらしっかり休憩することを徹底すれば防げる事故だと言えます。


ちなみにまわりで一番多かったのが車庫内での事故です。サイドをこすったり、前後のバンパーをぶつけたりします。タクシー会社の車庫は、ぎっしりとタクシーが詰まっているため狭いです。また屋根がついていて薄暗いこともあります。おまけにタクシーは黒が多いので、とても見づらいです。さらに、乗務が終わって帰庫したときは疲れていて、車庫に戻った瞬間に気が抜けるのはよくあることです。ただ、車庫内は公道ではないので、警察に届け出をする必要はありません。その代わり、始末書を書いてこってりしぼられることになります。


他によくある事故は右直事故です。右折しようとしている車と、直進しようとしている車が衝突するものです。この事故は、単純に右折車の横に直進車が突っ込んでくるもの以外にも、直進車の影にいたバイクにぶつかったり、右折した先の横断歩道を歩く歩行者にぶつかったりするなどのバリエーションがあります。また最近では、食料の宅配を行っている自転車が信号を無視して飛び出してきたり、右折車の後ろから交差点に飛び込んできたりすることもあるため、非常に危険です。右折する際には最大限の注意が必要です筆者は、直進車と右折した先だけではなく、左斜め後ろから自転車が来ないかも確認するようになりました。もちろん繁華街だけではありますが。


最後にもう1つ実例をあげます。長崎県の事例ですが、タクシーが中央線を越えて反対車線に進み、対向車線側の自動車と衝突したものです。事故の原因として、運転手が日常的に日中眠い状態であったということが報告されています。あとから調べると睡眠時無呼吸症候群により十分な睡眠が取れていなかったとのことです。この事例は運転手が自分の病気に気づいておらず、体調不良を放置してしまったことにより起きてしまったようです。


筆者はさすがにここまでのことはありませんが、若干の不調を感じても仕事に行かなければならないこともあります。もちろん万全の体調ではないと乗務できないのですが、眠い場合は何とかして眠気を覚ませて仕事に行くことになります。体調不良で休むのか、それともこの程度は問題ないと考えて乗務するのかは、実はとても難しい問題です。どの程度の疲れならば安全性に問題がないかを経験の中で見極めていくことになりますが、逆に言うと、ある程度は仕事をしながら覚えていく必要があるということです。筆者の場合は、少しでも調子が悪かったり、眠気が取れなかったりした場合には、必ず休みにします。目先の収入は減りますが、もし事故を起こしてしまうとさらに収入が減ることになるからです。本当に稼ぐドライバーは、体調不良にならないようにうまく生活をコントロールしますし、そもそも風邪も引かないほど身体が強い人が多いです。


もう一つ、自分がどれだけ気を付けていてももらい事故をしてしまうことがあります。停車時に後ろから突っ込まれることもありますし、対向車が中央線をはみ出してくることもあります。道路に人が寝ていて、気づかず踏んでしまうという事故もあります。この場合には、運転手にも前方注意する義務があるのですが、黒いスーツの男性が寝ている場合にはかなり識別が難しいです。過失ゼロにはなりませんが、こういう事故もあるので注意が必要です。


 タクシードライバーが事故を起こしたときにやるべきこと


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万一事故を起こしてしまったときはどうするかです。まずは、事故車両を移動するなどして現場の安全を確保します。次に、重傷者がいる場合にはまずは救急に電話します。心肺停止状態になっている可能性もありますが、タクシードライバーは、2種免許取得時にAEDを用いた心肺蘇生の講習を受けますまずは命を救うのが第一です


次に警察に電話します。小さな事故であっても警察に電話しなかった場合には、あとから当て逃げ、ひき逃げとして逮捕される危険性があります。例えば、軽くコツンと歩行者とぶつかって、歩行者が気にせずそのまま行ってしまったというケースです。この場合、そのまま走り去ると、あとからひき逃げ犯と扱われるかもしれません。なので、必ず警察に電話して、接触があった場所と日時を報告します。そして、担当してくれた警察官の名前を聞いておきます。そうすれば、万一あとからひき逃げをされたという訴えがあった場合にも、逃げてはいないと証明できます。どんな小さな事故でも警察に電話しなければなりません。もう少し大きな事故の場合も同様で、警察に連絡して現場検証を受ける必要があります。タクシーや相手方の車両に破損があった場合には、保険を利用して修理することになりますが、その際には警察による現場検証が必要です。


警察に電話し終わったら会社に電話します。事故の電話を入れたときに内勤の方の機嫌が良いことを祈りましょう。もっとも、ドライバーにプレッシャーをかけないように優しくするように指示されていることもあるかもしれません。事後処理が終わったら速やかに営業所に戻ります。ここからが長いのですが、まずは内勤の職員に事故の状況を説明し、書類を書き、再発防止のための始末書を書き……。ただでさえ事故を起こして疲弊しているのですが事後処理が必要です。事故の加害者になってしまっていた場合には、謝罪のために相手先を訪問する場合もあります。


事故を起こしてもめげずにすぐに次の乗務ができる人もいますが、心身ともに疲れて少し休みが必要になる場合もあるでしょう。そうなると収入も下がってしまいますので、ドライバーとしてはマイナスしかありません。絶対に事故を起こさないように、安全運転を心がけましょう。


 まとめ


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  • タクシー乗務は常に事故の危険があるので、安全第一で働く必要がある
  • 知らない道、複雑な道などを走る際、お客さまを探す際には注意が必要
  • 事故を起こしてしまった場合は、安全、救命、警察に電話。それから会社に連絡をします

タクシードライバーにとって事故や違反は痛恨の出来事です。とはいっても、乗務をはじめてから一度も事故違反をしないでやっていけるドライバーは少なく、小さな事故を起こしてしまったり、ヒヤリハットを経験したりしながら成長していきます。重篤な事故を起こしてしまうと、腰や首などに後遺症を負ってドライバーが続けられなくなることがあります。また精神的に運転ができなくなるケースもあります。それでも自分がケガをするのはまだマシだと言えます。事故の相手方や、ご乗車中のお客さまがケガをして、場合によっては命を失ってしまうことすらありえます。そうなってしまうと本当に取り返しのつかないことになります。タクシードライバーはお客さまの命を預かる仕事です。繰り返しますが、常に安全運転を肝に銘じる必要があります

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