お客さまから連絡先を聞かれたら教えるのはあり?なし?

公開日:2024/09/21 05:22


タクシードライバーの仕事にはいろいろな側面があります。お客さまを探す仕事、お客さまを目的地まで安全にお連れする仕事、そして接客する仕事です。接客業にもいろいろありますが、タクシードライバーの接客は少し特殊です。というのも、車の中という密室で、背中を向けて接客する必要があるからです。


もともと自分からよく喋るタクシードライバーもいますが、最近はホテルマンのように接客するという指針をもっているタクシー会社が多いこともあり、お客さまに何かを聞かれるまでは黙っていることが増えています。その代わり、お客さまが会話をしたい場合には、適切な話題を用意してお付き合いします。なんだかかみ合わずにすぐに会話が終わってしまうこともありますし、お客さまから政治や宗教の話をマシンガンのように浴びてヘトヘトになることもあります。

そんな中で、すごく仲が良くなるお客さまもいて「良かったら連絡先を聞いてもいいですか」と聞かれることがあります。さあどうしましょうか。ドライバーからするとお客さまは背中側に見えているだけです。こちらは乗務員証に本名と顔写真がうつっていますが、お客さまとは話が合うということ以外はわかりません。わざわざ好意をもってくれたので、むげにもしづらいところですし、だからといって後から面倒なことに鳴ったらどうしようという気持ちもあるし……。


「そんなことあるわけがない」と思いになる方もいるでしょう。ただ割とよくあることです。男性の酔客からお声がけいただくこともありますし、筆者のような普通のおじさんドライバーが若い女性から連絡先を聞かれることがあります。女性のお客様から口説かれたというドライバーもよく聞きます。


もちろん、モテる仕事かというとそんなことはありません。もっと効率の良いモテ方はたくさんあるはずです。ただタクシーは密室で話す仕事で、お客さまのほうも本音を話しやすいというのはあるのかもしれません。この記事では、お客さまから連絡先を聞かれた際にどうするべきなのかを、いろいろな角度から考えていきます。



 法律や規則として問題はないのか


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まずお客さまとの連絡先の交換が法律で禁止されているかどうかですが、禁止されていないはずです。少なくとも知りうる限りはありませんし、研修などで言われたこともありません。また、お客さまと連絡先を交換したことがあるドライバーを多く知っています。もちろん自分からしつこく連絡先を聞くのは、接客としては大問題なので駄目です。あくまでもお客さまから連絡先を聞かれたときにどうするかという話です。


次に社内規定などで禁則とされているかどうかです。私が所属していた会社にはそういった規定はなかったですし、上司から言われることもありませんでした。同僚の中には、固定のお客さまと連絡先を交換している人もおり、それも営業方法の一つだと考えられていたように思います。もしかしたら社内規定としてお客さまとの連絡先交換を禁止している会社もあるかもしれませんが、聞いたことはありません。


 連絡先の交換は売上アップのために有効なのか


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連絡先の交換が問題ないとした場合、次に考えるべきなのが、連絡先を交換したことで売上があがるかどうかです。実は、すごく稼ぐドライバーは、お客さまと上手に連絡先を交換しています。というのも、長距離をタクシーで移動するお客さまはそれほど多いわけではないため、リピーターになってもらいたいと考えるわけです。お客さまの中にも、いつも同じドライバーで帰るほうが安心できるという方もいます。


うまくマッチングができれば、Win×Win関係が築けるというわけです。お客さまがドライバーに電話すると、ドライバーがすぐにお客さまの元にかけつけ、余計な説明しなくても自宅の前などのいつもの場所まで連れて行ってくれるわけです。


タクシードライバー目線でメリットを言うと、繰り返しになりますが、必ずロングで乗ってくれるお客さまはとっても貴重です。毎晩のようにロングのお客さまを求めて夜の繁華街を走り回ることを考えると、お客さまのほうから連絡をもらえるのは大きなメリットです。個人タクシーで年収1000万円を超えるような営業しているドライバーは、固定のお客さまを多数抱えていて、常に高単価のお客さまが切れない状態になっているそうです。


昼間に長距離を移動するお客さまはさらにありがたい。深夜は需要が大きいため、ロングかどうかは別として空車で繁華街を走ればすぐにお客さまを見つけられます。しかし、昼間はロングのお客さまを偶然見つけることはかなり難しい。そういう意味で、特に昼間に、定期的に長距離を移動するお客さまと連絡先を交換できれば、ドライバーとしては売上が安定します。


ただ、いい話にはデメリットもあります。まず個人的な話ですが、常に電話が鳴ることに備えているのはストレスです。電話は、乗務中でも、休み中でも、お風呂に入っているときでもかかってきます。「出られないときは仕方がない」とはなかなかいかないのが厳しいところです。というのも、何度か電話をかけて繋がらなかった場合には、お客さまは別のタクシーを探してしまうからです。次回、次々回と、また自分に連絡してくれるかはわかりません。お客さまの電話を取ることはとても重要です。


もしも自分が休みのタイミングであればどうするか。これはタクシードライバー仲間に聞いた話ですが、そういうときは仲間に電話して誰かしらに向かってもらう必要があるとのことです。上述した個人タクシーの場合には、仲間内で常連さんを多数抱えて、ネットワークを作って常に誰かが向かえるようにしているとのことでした。こうなると、ちょっとした事業を自分で運営しているようなものになってきます。実際に個人タクシーは、個人事業主なので、こういったスタイルを目指すドライバーがいるのでしょう。困ったことでは、場所があります。


お客さまから25時に六本木まで来て欲しいと言われた場合です。22時以降は、深夜割増料金が適用されるのでタクシードライバーとしては一番のかきいれどきとなります。さらに、終電がなくなってくる0時付近はロングが出やすい時間帯です。この時間にどれだけ効率的に動き回れるかによって売上が随分と変わってきます。ということであれば、割増料金が適用される25時から予約が入っているというのは良いことではないかとお思いになる方もいるかもしれません。ここに罠があります。というのも、この時間帯は、お客さまが遠距離まで移動する可能性があります。


例えば、宇都宮まで130kmというお客さまがいる可能性だってあります。そうなると、売上は5〜6万円でしょうか。しかし往復にはかなり時間がかかるので、25時に予約のお客さまがいたら、どちらかに断りをいれる必要があります。普通に考えると予約優先なので、宇都宮行きのお客さまを乗せられるタクシーを探すことになります。探すというのはどういうことかというと、自分が乗せられないお客さまがちゃんと乗るべきタクシーを見つけられるように、後ろに並んでいるドライバーに声がけする、タクシーがいない場所であれば会社に電話するなどして、何とか努力します。


これがタクシードライバーの義務であったかどうかはちょっと覚えていないのですが、そうしているドライバーが多いのは確かです。幸か不幸か、私はそういった経験がないのですが。


宇都宮行きという極端な例ではなくても横浜まで大宮までと、往復で1時間くらいみておく必要があるお客さまとは出会いやすい時間帯です。そう考えると24時くらいには営業を止めて、「回送」にしたまま約束のポイント近くで待っているということになると思います。あるいは30分前まで粘るかもしれませんが、流石にそのくらいが限界でしょう。そう考えると、予約を入れることで30分から1時間のタイムロスが発生します。


また、飲み会のあとのお客さまは、時間通りに出てこないこともありますし、来たと思ったら「ごめんね、もう一軒行く!」ということもあるそうです。予約の時間にお客さまが現れないことはよくある話で、場合によっては20分くらい待つこともあります。社内規定などに基づいて、一定時間経過後にメーターをいれて待つ場合もありますが、わざわざ予約の電話をしてくれた常連さんに対してそれができるかというと……。


というわけで、常連のお客様をつくるという戦略は、徹底的にやれば高収入まで辿り着くようですが、中途半端にやるとデメリットも目に付きます。自分の営業スタイルを考えて、WIN×WINでお付き合いできるかどうかを検討する必要があるのですが、そんなに美味しい話はなかなか転がっていません。


 楽しい出会いはあるのか


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最後にお客さまとの楽しい出会いがあるのかどうかについてです。まず読者の皆さまが気になるであろう恋愛につながるような出会いについてです。これは、そう簡単ではありませんが、あるようです。特に若くてルックスのいい男性ドライバーの場合には聞く話です。もっとも、そんなドライバーは普通に街を歩いているだけでもモテるのかもしれませんが。


女性ドライバーの場合は、鬱陶しいレベルでお誘いがあるそうで、当然のようにお断りすることになるので大変と聞いたことがあります。自分のまわりには、若い女性のドライバーがいなかったので詳細についてはよくわからないのですが、どうやらそういうことはあるようです。逆に言うと、深夜の繁華街で営業する女性ドライバーの場合には、気軽に連絡先を聞いてくる酔っ払いの男たちをうまくいなす接客スキルも求められるということになります。もっとも酔客をいなすスキルについては、男性ドライバーも求められます。


男性の酔客も、女性の酔客も、接客するのに苦労することはよくあります。怒ってしまう人の対応にも苦労しますが、一番大変なのが寝てしまうお客さまです。一度寝てしまうと起こすのはなかなか大変です。まず身体に触られません。なので、大きな声で呼びかけたり、耳元で目覚ましを鳴らしたり、冬場ならば暖房を切って車内の温度を下げたりして何とか目覚めてもらいます。それでも駄目なら警察を呼ぶことになります。


といっても、こちらも慣れたもので、この人は絶対に目覚めないと思った場合には、嘔吐しないように揺れを最小限に押さえつつ、ご自宅ちかくの交番の位置を調べながら進行します。おまわりさんに一度起こしてもらえば、5分は起きていてもらえるので、その間に自宅前へと急ぎます。


お客さまと仲良くなって飲みに行ったという話はありますし、実は著者も何度か経験があります。個人的な感想としては、やはりタクシーの中での一期一会が楽しいのであって、外でわざわざ会って楽しいかというとそうとは限らないというものです。ただ趣味の仲間ならば別かも知れません。麻雀や釣り、あるいはプラモデルなどで話が合うという場合です。そうではなく単にタクシーの中で仲良くなったからという理由では、なかなか友人関係は続かないように思います。


筆者は、ドライバーは背中越しに話しているので、いざ会って、向き合って喋るとなると違和感があるとは感じました。お客さまのほうも壁に向かって話し、壁が返事してくれるのが心地よいと思っていたのかもしれません。


お客さまと仲良くなって人生が楽しくなるかどうかは、もはや個人の楽しみ方の問題です。タクシードライバー全般で言えば、仕事は仕事で、そこまで仲良くなることは多くないと思います。しかし、うまく会話していく中で人脈に繋げていく人はいるかもしれません。タクシードライバーは、自分次第の仕事ですが、お客さまとどういった関係を築いていくかについても自分次第であるといえるかもしれません。


 まとめ


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  • お客さまと連絡先の交換するかどうかはドライバーに委ねられる
  • 高収入に繋げるドライバーもいるが、デメリットもあるので簡単ではない
  • 良き出会いがあるかどうかは、ドライバー次第


お客さまから連絡先を聞かれたらどうするかについて書いてきました。少し特殊な話題ではありましたが、タクシードライバーの世界が少し垣間見えたのではないでしょうか。これは私の知りうる限りの話です。この手の話はどのドライバーに聞いてもいろいろと教えてくれます。タクシードライバーの記憶は、お客さまとの仰天エピソードで満たされていると言えます。


もちろん、お客さまのことをみだりに話してはいけないのですが、話し好きのドライバーは「内緒ですが」と言いつつ、プライバシーに触れないように配慮しながら教えてくれることもあるでしょう。タクシードライバーはとても楽しい仕事です。その楽しさは、収入や働き方だけではなく、個性豊かなお客さまによって彩られていきます。

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