タクシードライバーは売り上げが少ないと怒られたりする?

公開日:2024/09/19 13:41


タクシードライバーはノルマが厳しいと聞いたことがある方もいるかもしれません。実際のところは、ノルマが厳しい会社と厳しくない会社があるので、ドライバーの勤務条件によるというのが現実です。友人、知人を探してみるとタクシードライバーが一人くらいはいるもので、その人がノルマの厳しい会社にいるかどうかで、随分と業界の印象が違うようです。ノルマが厳しい会社の場合は売上が少ないと怒られる会社もあることでしょう。


大手の某社はノルマが厳しいというのは業界の定説ですが、一方で、ノルマが高い分高収入も期待できるのも事実です。他にも小規模な会社ではありますが、エース級のドライバーがそろっていて、売上ノルマが厳しいというケースもあるようです。逆に、定年後のドライバーばかりを集めて、あまり売上をうるさく言わずにのんびりやるという会社もあります。


タクシードライバーにとって売上とは即収入にかかわる極めて重要なものです。他の業種では営業成績がゼロでも給料が出ることはあります。しかしながら、タクシーの場合には給料がゼロということもありえます。もちろん、最低限の給与を支払うことは法律で決められていますが、売上がゼロということは、仕事をしていないと見なされるのがタクシードライバーです。


タクシーに乗って街に出れば売上がゼロにはなりません。だから、売上ゼロということは仕事をしていないということになります。もっとも仕事はしているけど売上がゼロということは、コロナ禍では実際にありました。そういった場合に給与がどの程度保証されたかは会社によって違っていたと思います。このあたりは各会社に確認する必要がありますが、そもそも売上ゼロという異常事態はあまり考える必要がありません。


この記事で問題にしているのは、どの程度売上をあげれば「怒られないか」です。このことを考えるために、まずはタクシードライバーの給与形態を振り返り、最低限の売上を確保する方法と、そこから最大限の売上をとれるようにする方法を検討します。



 タクシードライバーの給与システム


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まずは給与システムを確認します。タクシードライバーの給料は歩合制によって計算されます。つまり働けば働くほど、より正確に言うと、売上が大きければ大きいほど収入も大きくなっていきます。スタンダードな働き方は隔日勤務といって、2日分まとめて働く出番と丸一日を休養にあてる明番を繰り返します。


具体的に挙げると、一般的な仕事の勤務時間が8時間なので、その2日分16時間程度タクシーの仕事をします。ある程度残業をすることもできて、最大で21時間まで働くことができます(乗務前後の準備時間を含む)。なので、ほとんど丸一日働いて、丸一日しっかり休むというサイクルです。他に、昼間の時間帯だけ働く昼日勤と、夜間だけ働く夜日勤もあります。隔日勤務の場合には、月の乗務回数は12回前後、昼日勤および夜日勤は、24回前後です。


いずれの勤務スタイルでも一ヶ月の売上に歩率をかけたものが月収になるという点では同じです。歩率は東京ではおおむね50%から60%です。会社によっては70%を超える場合などもあるようですが、詳しくはわかりません。歩率が良いことは大切ですが、働きやすさは歩率だけで決まるものではありません。実際にそういう会社があるかどうかはわかりませんが、評判が悪くてドライバーが集まらないため、歩率をあげているというケースもあるかもしれません。そうではなく健全経営でドライバーへの還元が多い素晴らしい会社かもしれません。


タクシー会社は、諸条件をみて総合的に考えることが必要です。月の売上額が消費税抜きで70万円だとしたら、歩率が50%の場合は35万円が月収です。歩率が60%だとしたら42万円です。同じ売上でも月収にすると7万円違ってきますし、年収にすると84万円も違います。なので、歩率は非常に大切な要素です


ですが、個人的には、無線が入りやすいかどうか、お客さまが選んでくれる良い車があるかどうかのほうが大事ではないかと思っています。この歩率については、全ドライバーについて一律に設定されることもあると思いますが、筆者の知る限りでは、売上が上がれば上がるほど歩率もよくなるように設定されていることが多いです。また、一定以上の売上ノルマを達成しないと歩率が大きく下がる、俗に言う「足切り」が設定されていることもあります。


どうして売上によって歩率が変わるのかというと、タクシーの車両維持費が一定の金額必要だからです。正確な数字まではわかりませんが、1回の乗務あたり3万円くらいは売上をつくれないと赤字になると聞いたことがあります。仮にこの数字が正しかったとした場合には、3万円以上は売上をあげてこないと、乗っているだけでは赤字が増えていくことになります。そうなると、会社の方も何とかてこ入れをしないといけなくなるため、ドライバーを指導することもあるでしょう。


これが「怒られる」の正体だと思います。また、どの会社でもある程度のノルマや売上の目安は立てられていることが多いと思います。私の場合は、比較的ゆるめの会社で、平均の売上が4.5万円を超えると特に問題はないようになっていました。さらに、4.5万円を下回っていたとしても、歩率が若干下がったり、ハンドル時間の制限が厳しくなったりするくらいで特にデメリットもありませんでした


逆に厳しい会社で聞いたことがあるのは、平均の売上が6万円以上いかない場合には、大きなデメリットがあって、しかも上司への説明が求められるという会社です。私のいる会社よりも後者のほうが平均収入ははるかに高いですが、合わないドライバーもいると思います。特に一定以上の体力がない場合には厳しいかもしれません。


 最低限の売上を得るための営業方法


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まずはどんな会社でも「怒られない」ことを重視して、最低限の売上をつくるための営業方法を考えましょう。隔勤の場合、どんな会社でも消費税抜きで6万円あれば怒られることはありませんが、それは当たり前です。月収に換算すると40万円程度になるため、十分な売上をあげていると言えるからです。


知っている限りでは「足切り」と呼ばれるノルマのラインは4〜5万円くらいに設定されていることが多いように思います。「怒られる」レベルということになると、やはり3万円台以下となってくるでしょう。平均の売上が3万円台となると、月収としても20万円以下になってくるので、ドライバー自身もなかなか厳しくなってきます。タクシー会社としてもあまり利益はないはずです。それでもいいという会社もありますし、指導を受けることもあるでしょう。


5〜6万円の高水準のノルマが設定されている会社は、無線やアプリによる配車にめぐまれていることがほとんどです。なので、タクシーを走らせていれば配車が成立します。無線やアプリでは迎車料金が発生するため、お金を節約したいお客さまよりも、確実に高水準のサービスを求めているお客さまが中心になります。結果として、客単価は高めとなります。


会社や地域によっても異なるので一概には言えませんが、私の場合は2000円から3000円以上の方がほとんどでした。場合によっては昼間から空港行きの「万収」を引くこともあります。「万収」というのは、タクシー業界用語で、1万円以上の売上を指しています。昼間から5000円以上のお客さまは大抵が無線でしたし、夜も無線が鳴ると万収ではないかと期待が高まります。


もちろん、中には短い距離を移動されるお客さまもいます。例えば、すぐ隣の病院まで行くのに、足が悪くてどうしても行けないという方もいます。そういうお客さまをお乗せするのは、営業としてのおいしさはありませんが、タクシードライバーとしての大切な仕事です。特に午前中は、病院通いをされるご高齢者のお客さまが500円から1500円くらいの運賃で利用されることが多いです。


少し話は逸れますが、ご高齢のお客さまや身体に障害があるお客さまは行政から支給される「福祉券」をお使いになることがあります。こちらは100円、500円という単位で印刷された金券です。この福祉券は使っているうちに100円のものが余ってくるようで……。月末や年度末など福祉券の期限が切れるころに、福祉券をまとめて20枚などお使いになるお客さまがいます。


もちろん、タクシードライバーの収入は変わりませんし、大切なお客様です。しかし、実はこの福祉券、帰ってからが大変なのです。券の裏面に、日付や会社名などを記入しなければなりません。20枚なら20回、40枚なら40回書く必要があります。ヘトヘトに疲れて帰った車庫で、眠い目をこすっての精算作業としてはかなりハードです。というわけで、年度末になると「福祉券爆弾」がドライバーを襲い、精算作業中に悲鳴をあげることになります。


なお福祉券を使うお客さまは、他のお客さまがあまりいない通勤ラッシュのあとにご利用頂けることが多いので、とてもありがたいお客さまです。そして、売上はしっかりあがっているので喜ばしいことではあるのですが、何枚もの福祉券に眠い中細かい字を書くのはなかなかしんどいです。これはタクシードライバーをやったことがある人ではないとわかりづらい大変さかもしれません。


少し話が逸れましたが、時間帯によってどういったお客さまをターゲットにするかを考えて営業の立ち回りができれば、最低限の売上を達成することは可能です。あとは、定められた乗務時間しっかりと勤め上げるだけです。最低限の売上が達成できない理由として想定できるものは2つあります。的外れな場所を走っているか、営業時間が足りないかです。もちろん、コロナ禍などで需要が大きく落ち込んでいる日は例外です。一番酷い時は文字通りまったくお客さまがいませんでした。


営業するのにおすすめの場所は、港区中央区千代田区です。これら都心三区と呼ばれる地域であれば適当に流すだけでも最低限の売上はとれます。営業時間については、売上が大きいドライバーは休憩時間を除くと最大限まで残業します。逆に、江戸川区や練馬区などのいわゆる「東京ローカル」の営業だけをしていて、しかも営業時間が短めとなると売上もあまり大きくはできません。最低限の売上をあげているかどうかは、ちゃんと努力をしているかどうかをみられていると考えるべきです。


 最大限に売上を伸ばすための営業方法


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他の記事でも触れているのですが、簡単に売上を最大限まで伸ばす方法もご紹介します。といっても、筆者はそこまで稼ぐドライバーではなかったので伝聞を含めて一般論をご説明します。


まず絶対にやらなければいけないのは、営業時間を最大化することす。営業成績を伸ばすためにはさぼっている暇はありません。というと大変な気はしますが、タクシーは基本的には座っている仕事なので、慣れると6時間くらい休まずに運転することもできます。とはいっても突然疲れが来ることがあるのでドライバーにもよりますが、1〜2時間に1回の小休止と1時間単位の長い休憩を組みあわせています。こういった休憩時間の調整に加えて、乗務前にしっかりと体調を整えてパフォーマンスが上がるようにすることも大切です。


定められた乗務時間を最大限に利用すると、労働関係法としては残業の扱いになりますが、タクシードライバーとしては残業時間も働いてしまったほうが効率はいいと考えます。出勤して準備して出庫すること、帰庫して精算して洗車して帰宅することはわずらわしく思います。しかし、出庫した後2〜3時間余計に営業するのはそれほど大変ではありません。なので、ギリギリまで営業して稼ぐ人が多いです。


次に必要なのは、自分の営業スタイルを洗練させていくことです。14時出庫であれば、14時から17時の間にどのあたりを狙って営業して、目標の売上額はいくらとするのか。帰宅ラッシュとなる17時から20時はどうするのか。休憩はいつ取るのか、何を食べるのか。何を食べるかというのは、結構奥深い問題で、タクシードライバーはいつどこに自分がいるかを計算しづらい仕事なので、食べる場所を決めておくとうまくいきません。


また、食べ過ぎると眠くなったり、車内に匂いが残ってしまったりすることもあります。コンビニでおにぎり一つだけ食べて、あとは空腹に耐えるのが一番眠くならないので私はそうしていました。ただしっかり食べないともたない人もいます。人によって違いますが、ある程度事前に方針を立てておくほうがいいでしょう。


そして、大事なのは「青タン」と呼ばれる22時から翌朝5時の割増料金の時間です。この時間帯をどう取り回すかで営業成績はまったく違ってきます。特に終電の前後は長い距離を帰宅するお客さまや、渋谷から六本木、六本木から新宿のように繁華街を移動してまわるお客さまがいるため、売上がガンガンあがっていきます。午前中出庫の早番のドライバーは、午前2〜4時には帰庫しはじめます。遅番のドライバーにとって4時から朝8時までは最高の稼ぎ時と言えます。


稼ぐノウハウはいろいろありますが、本当に稼ぐドライバーは自分でやり方を見つけ出していきます。どれだけ自分の営業に向き合えるかが、最大限に売上を伸ばす方法と言えます。


 まとめ


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  • 怒られるかどうかは会社次第だが、やはり一定の売上はあげていく必要がある
  • 最低限の売上をつくるだけなら、努力量がしっかりしていれば達成できる
  • 最大限の売上をつくろうと思った場合には、職人的な工夫も求められる


「売上が低いと怒られるかどうか」という視点からタクシードライバーの仕事をみてみましたがいかがでしたでしょうか。怒られるかどうかはやはり努力次第です。努力不足だと思われたら指導されることもあることでしょう。ただ、タクシーの仕事はしっかり努力すればそれなりに売上が確保できるものです。


もちろん正しい営業方法をしていれば、ですが。酔客が苦手、ビジネスマンが怖いなどと言うドライバーもいますが、そういったお客さまを選ぶような行為をせず、常にお客さまの需要がある場所に車を向けることができれば最低限の売上は誰でもつくることができます。それ以上に稼ごうと思うと、職人の世界、求道者の世界になってきますが、そうやってハイスコアを追求していくのもタクシーの仕事の楽しさではないかと思います。​​​​​

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