タクシーは夜になると割増料金になることをご存じの方は多いと思います。ただでさえ、電車やバスに比べると高い乗り物なのに、割増し料金になったらいくらかかってしまうのかと怯んでしまう方も多いと思います。筆者もタクシー業界で働く前は最終電車を逃したあとであっても、タクシーに乗るという選択肢はなかったです。必死に家まで歩くか、ネットカフェなどに泊まるほうが経済的だと考えていました。実際にタクシーに乗ったらいくらになるのか調べたことはなかったのですが、特に夜にタクシーに乗るのは怖くて使おうとすら思いませんでした。
そんな自分でしたが、タクシードライバーを始めてみると、タクシーという乗り物は明朗会計で、乗る前からいくらくらいかかるのか把握できることが分かりました。確かに高い乗り物ではありますが、それも使いようです。高いから絶対に使わないと頭から決めていると、使った方がずっと効率が良いときにも活用できません。
この記事では、深夜料金について理解をしっかりと理解していただき、上手な使い方を提案したいと思います。また、タクシードライバーからは深夜割増料金がどう見えているのかもお伝えしたいと思います。
タクシーの運賃は22時から翌朝5時までは深夜割増料金となり、一律に2割増しとなります。といっても、どのくらいあがるのかはピンとこないことがあると思います。ざっくりとしたイメージとして、東京の場合には1kmあたり400円くらいです。それが深夜だと1kmあたり500円弱になります。つまり、出発地点から目的地までが10kmであれば4,000円。深夜の場合には5,000円くらいと目算をつけます。
30kmと長距離の場合には、昼の場合は12,000円、深夜の場合には15,000円から少し引いて14,000円くらいです。料金が改定されるとまた変わってきますが、目算としてこのくらいで計算しておけば大きく外れることはありません。ただ、実際の料金は、どのようなルートを通るのか、渋滞をしているかどうかによっても変わってきます。特に高速道路を使う場合には、高速道路の利用料が加算されるのと、下道で行くよりも少し回り道をしていることがあるため、料金が高くなる場合があります。
計算してみましょう。Googleマップを開いて、現在地から目的地までを車のルートで検索すると距離が出ます。その距離に400〜500円を掛けると大まかな料金が分かります。ただ、ご注意を願いたいのは、あくまでも目安なので、それよりも安くなることもあるし、高くなることもあるということです。普段からよくタクシーをお使いになるお客さまの場合には、ルートを厳密に指定することで、料金にムラが出ないようにコントロールします。同じ位置から、同じルートで、同じ目的地に行くのであれば、あとは信号待ちがどのくらいあるかに左右される程度になります。また、長距離割引という制度があり、長距離を行く場合には少し運賃が安くなります。
都市(営業区域)によって異なるのですが、東京や京都については、9,000円を超えた場合に、その超えた金額については1割引となります。名古屋では5,000円を超えた場合に、超えた金額について1割引です。特殊なのが大阪で、タクシー会社にもよるようですが、55(ゴーゴー)割といって、5,000円を超えた分について5割引になります。大阪の人はお金にシビアなので、割引率を大きくしないとタクシーのような高額の乗り物はなかなか使ってくれないのかもしれません。タクシードライバーからすると自分の売上が減り、歩合性であり、結果として収入も減るため、割引は歓迎したくないところではあります。
一方で、割引があるからこそ、安心して使っていただけるというのも事実でしょう。深夜のタクシーというと、もしトラブルがあったら嫌だなぁとお思いになるお客さまもいるかもしれません。特に女性のお客さまの場合、運転手にセクハラをされて嫌な思いをするなんてことも危惧するかもしれません。そういったドライバーはもうほとんど残っていないのでご心配しなくて大丈夫です。もし仮にいたとしても、タクシーセンターと運営会社に苦情の電話を入れると、そのドライバーは強く叱責され反省を促されます。場合によっては職を失うこともあります。この1件だけで失職することはないかもしれませんが、そういうドライバーは何度もやらかしているはずです。
昔のことはよくわりませんが、今のタクシードライバーは、接客態度が良くないと務まりません。よく乗務員証を写真に撮るお客さまがいますが、レシートを保存して車両番号などを控えておけば問題なく特定できます。というのも、タクシー1台1台にGPSがついていて、何時何分にどこを走行していて、誰が運転していたかは分かっているからです。
少し話が逸れますが、タクシーに忘れ物をしたものの、どのタクシーに乗ったか分からず、レシートを持っていないという場合でも後から特定することが可能です。何時何分にどこからどこまで乗ったのか。タクシーの色はどのようなものだったか、というような曖昧な情報からでもタクシーを特定できるからです。もちろん、確実ではないので、タクシーのレシートは必ず受け取ってしばらく保存しておくことをおすすめします。筆者の運転するタクシーでも、自宅の鍵を後部座席のソファーの隙間に落としてしまい、数日後に車両を特定して見つけられたケースがありました。
終電を逃してしまったときなどタクシーを使うかどうか、頭によぎる瞬間はあると思いますが、そのときタクシーを使うとどういうメリットがあるのかについてご説明したいと思います。その前にまずデメリットからいうと、当たり前ですがお金がかかることです。
東京中心部の繁華街から都外にある自宅へと帰宅する場合、1万円以上の支払いを覚悟する必要があります。この1万円が高いと感じるかどうかは、お財布事情にもよるので一概には言えません。会社の接待で終電を逃した場合や自らが経営者であれば、会社の経費として精算することができるため、自分の懐は痛みません。なので、タクシードライバーは接待終わりの料亭をチェックしたり、経営者や会社役員が集まる銀座や赤坂を狙ったりします。自分のお財布から出す場合には、なかなか大きな出費ですね。1万円を出してタクシーで帰ることにはメリットがあるのでしょうか。
筆者も、タクシー乗務を始める前は1万円を払ってタクシーに乗ることなど考えもしませんでした。しかし、タクシーの仕事をはじめてからは、時折使うようになりました。その感想は、これ以上快適な乗り物はないので1万円払っても十分元が取れるというものでした。というのも、夜間にお酒を飲んで酔っ払った状態で、最終電車を乗り継いで自宅に帰るのは決して楽ではありません。最終電車というのは混み合うもので、座ることもできずに消耗します。
コロナ禍のいまはもちろんですが、通常時であっても病気の感染リスクが強くあります。電車の乗り口まで移動するのも大変ですし、電車に乗って最寄り駅に着いてからも、15分ほど歩く必要があります。いやいや、最後の15分だけタクシーを使えばいいじゃないかとお思いになる方もいるかもしれませんが、終電直後のタクシー乗り場は列ができていることも多いです。少しでも楽に、少しでも安くという考えを持つ人が多いからです。雨でも降っていようものなら30分待つことすら覚悟する必要があります。なので、結局は歩くことになります。
私の場合、最終電車に乗って、最寄り駅からタクシーを使うと1,200円ほどの出費になります。これが最初からタクシーを使った場合はどうなるかというと、お店を出てすぐに手を上げればタクシーが止まってくれます。そして行き先を告げて目を閉じると、次の瞬間には家の前についています。雨が降っていようが、雪が降っていようが、空調の効いた快適な車内で過ごすことができます。夜間だと道路も空いていますので時間を短縮できます。繰り返しますが、到着するのは最寄り駅ではなく家の目の前です。
不特定多数が利用する電車と比較すると、しっかりと換気と消毒が行われたタクシーの車内は感染症のリスクが極めて低いです。比べるまでもないというべきでしょう。混雑する電車に揺られるよりも、快適な車内に座っているのは、体力的にも精神的にも圧倒的に楽です。一度この味を覚えてしまうとやめられなくなります。
場合によっては1時間程度時短ができて、体力が削られることもなく、睡眠時間もしっかり確保ができます。タクシーに頼って深酒してしまっては本末転倒ですし、お金もさらに厳しいことになってしまうのですが……。圧倒的に時間にも身体にも優しくリスクも低いのがタクシーという乗り物です。もちろんお金だけはかかるのですが、それだけの価値があると思わせてくれます。
タクシーを利用する際の注意点としては、どういうルートで帰宅するのかを自分でもしっかり考えておくことです。タクシードライバーにお任せと伝えたのに、自分の想定したルートとは異なる道を通られてしまった、遠回りされたと感じたというのが定番のトラブルになっています。そのため、タクシードライバーとしては、必ずお客さまにルートを確認します。
そのとき「お任せで」と言われたにもかかわらず、ルートが違うと言われてしまうことがあり、そうなると非常に苦しい展開になります。会社に戻りドライブレコーダーの録音を確認して「お任せ」と言われていること、乗車地点から目的地に向かうルートとして遠回りはしていないことを証明すれば非がないと認めてもらえるかもしれませんが、車内で、走行中に、酔ったお客さまから強く叱責されるのは大変きついです。
ルートが正しくてもお客さまのほうが間違えていることがありますが、車内から会社に苦情の電話を入れられてしまったり、警察を呼ばれてしまったりすることもあります。そうなっても、タクシードライバーとしての仕事に不備がなければ、堂々としていていいのですが、稼ぎ時の1、2時間を無駄にしてしまうことになります。なので、可能な限りトラブルは避けたいです。
著者の場合は、酔客であっても、眠そうであっても、明らかに悩む必要がない場合などを除いて容赦なくルートを確認して念押しします。といっても、「お任せ」と言われて最短を選んだつもりが、地元の人しか知らないような裏道を通らなかったことで、後で怒られたこともありましたが……。お客さまとしてやるべきことは、ルートをしっかり把握しておくことです。少なくとも、高速を使うかどうか、どの幹線道路を使うのかなどは説明できるようにしましょう。あるいは、住所を伝えて、だいたいいくらくらいになるのかを確認したら寝てしまって細かいことは気にしないのもいいかもしれません。
最後にタクシードライバーにとって深夜割増料金の時間はどういう位置づけかをご説明します。深夜から早朝は、2割増しの料金になることと、遠距離を移動するお客さまが多くなることから、一番の稼ぎどきです。そのため、20時から22時の間にしっかり休憩を取って、22時から朝5時までぶっ通しで営業するドライバーもいます。というよりも、稼ぐドライバーはみんなそうです。もっとも、著者の場合は14時出庫で、翌朝10時までの常務であったため、タクシーが枯渇する午前5時から8時を狙うため、少し仮眠をしていましたが。
タクシードライバーというと、面倒なおじさんが多いというようなイメージもあるかもしれませんが、この時間帯の都心部、繁華街はしっかり稼ぎたいドライバーが多いため、無駄口を叩かず、最短、最速でお客さまを送り届け、すぐに次のお客さまを探しに行こうとします。なので、近所の駅で、延々と着け待ちをしているドライバーとは随分印象が違うと思います。こういったドライバーは夜の街をよくみているので、最近の街の様子を聞いてみたり、人気のあるラーメン屋を聞いてみたりしても面白いかもしれません。
深夜割増料金について見てきましたが、高くなると考えるとついつい使うのを躊躇してしまうものです。しかし、それだけ価値の高いサービスが受けられる時間帯だと考えることもできます。ただ、タクシーに乗ればそれで終わりかというとそういうことではなく、しっかりとルートを伝えることは大切ですし、もしあなたが「お客さまは神様だ」というようなことを言ってしまうと、せっかくの快適で安全な乗り物が台無しになってしまいます。本当にそういうことを言うお客さまはいるようで、先輩のドライバーからは「お客さまは神様だと言われたら、急いで目的地までお連れして、拝みながら降車していただきましょう」と言われたことがあります。