タクシー転職を家族に反対された場合

公開日:2024/09/14 00:40


いざタクシードライバーになろうと決意したのはいいものの、家族に話したところ猛反対されたという話をよく聞きます。筆者の場合には、祖父と親戚がタクシードライバーをしていたことがあり、両親も妻も大賛成してくれましたが、逆に家族を説得できずに転職を諦めてしまうケースもあるようです。


その理由としては様々あると思うのですが、かつては「3K」などと言われた厳しいばかりで社会的なステータスが伴わない仕事だと思われてしまうことがあげられます。安全性が低く、収入が不安定というイメージもあるかもしれません。休みがなかなか取れずに、家族に負担がかかると考えてしまうこともあるようです。その中でもっともシビアなものが、「普通の仕事」ではないということでしょう。「普通の仕事」であれば、どのくらい働けばどのくらい稼げるのか、休みがどの程度あるのかという実感がありますが、タクシーの場合は、どのくらい働いて、どのくらい収入があるのかがまったく実感が湧きません。だから不安になるのも当然といえます。


そのため、とある大手では、タクシードライバー志望者だけではなく、家族や恋人などにも会社見学をしてもらい、仕事への理解を促す試みがされていると紹介されていました。そこまでしないといけないのは驚きですが、逆に言うと、イメージが悪い、あるいはどういう仕事か実感が湧かないだけで、実情を知ってもらえれば理解してもらえるという自信があるということでもあります。この記事では、家族が反対するポイントを想定して、タクシー会社の人事部門になったつもりで、一つ一つご説明していこうと思います。



 タクシードライバーの収入は大丈夫なのか


名称未設定


ご家族の方が一番気にするポイントは収入面です。タクシー業界は、他業界から転職で入ってくる方が多いです。大手を中心に新卒で入る方もいますが、少数派といえます。転職で入ってきた方にとって気にするポイントは、前職と比べて高収入が見込めるのか、あるいは収入が安定しているのかという点になってくると思います。それでいうとタクシードライバーは高収入が見込める仕事です。東京23区を中心とした東京武三地区の場合には、平均月収40〜50万円をうたっている会社が多いです。ということは、年収に換算すると480〜600万円ということになります。令和2年の統計によると、全国の平均月収は約37万円で、東京都だけの場合は41万円とのことです。


一方で地方をみてみると最も収入が低い青森県の場合は、約24万円です。この統計は、色々な職種が合わさっている雑多なものなので、参考程度ではありますが、平均以上は稼げるということは言えると思います。同じ2種免許を用いたドライバー職と比較してみましょう。別の統計ではバス運転手の平均月収は26〜35万円とのことでした。タクシードライバーの収入は、一般のオフィスワーカーを含む平均を超えているので、高収入という言葉に偽りはありません。


ただし、楽をして稼げる仕事ではありません。というのも歩合制の仕事だからです。オフィスワーカーの場合には、さぼっていてもマイナス査定をされずに高収入が確保できることもあると思います。もちろん、長期的にみると、高評価が得られることはないと思いますが、それでも、ある程度手を抜ける瞬間はあります。


一方タクシードライバーの仕事は歩合制なので、高収入が得られるということは、まったくさぼらずに仕事をやり通した証拠であると言えます。所定の労働時間をしっかり働き、最大限のパフォーマンスを発揮した結果が、高収入です。サボりながら高収入をあげる方法はタクシー業界にはありません。働いた分、成果を出した分だけが収入として返ってきます。そういう意味では非常に平等で、やりがいのある仕事であるといえます。


タクシードライバーは歩合性の給与体系をしています。わかりやすく単純化させると、自分が作ってきた売上のうち50〜60%が給料となります。つまり、月あたり50万円の売上が作れるドライバーならば、月収は25〜30万円です。売上が75万円ならば、37万5000円から45万円ということになります。100万円の売上を作れるエース級のドライバーであれば、月収は50万円から60万円です。100万円はハードルが高いですが、会社の中に数人はいるものですし、稼ぐことを重視した会社の場合には、それこそゴロゴロといます。


歩率が65%で、月の売上を120万円作れるドライバーの場合の場合には月収は78万円です。年収にすると936万円となります。このあたりが法人ドライバーの最大収入になってくるのかと思います。もっとも、この水準の売上を作り続けるには、努力経験、そしてある種の才能が必要になってきます。才能というのは何かというと、長時間正確に運転する技術はもちろん、車の周囲360度にお客さまがいないか常に察知できる能力も必要です。ある程度トレーニングすることはできますが、一定の水準以上までいくと才能としか言いようがない領域になってきます。


例えばですが、50km/hで走行しているときに、反対車線の自動ドアから出てきた人をチラリと見て、すぐに展開してその前に向かえるドライバーがいます。自動ドアから出てきたビジネスマンはタクシーを探しに路上を見るかもしれません。このビジネスマンがタクシーを使うかどうかを瞬時に見極められるかどうかはセンスとしか言いようがありません。本当にすごいドライバーは、路上を行く人たちの表情や、仕草、窓を開けて会話まで耳に入れながら、常にお客さまを探しています。手が上がったら車を止めるというのでは売上にはどうしても限界があります。手を上げるかどうか悩んでいるお客さまの前で、タクシーの車体を見せて、スローダウンして手を上げさせるということまでやります。口で言うのはまだ簡単ですが、これを実際に路上でやることは難しいですし、年単位でやり通すのも本当に大変です。


駅のタクシープールで並んでいれば、勝手にお客さんがくるので楽ですが、高収入は期待できません。本当に稼ぐドライバーは超能力者のような感覚をもっています。こちらが苦労して営業してヘトヘトで返ると、「今日は成田が1本、羽田は1本、神奈川と千葉と埼玉1回ずつだったよ」などと言われます。これだけでも6〜7万円は確定ですから、他もあわせると一日あたり10万円越えの大当たりです。日常的にこういう恐ろしい営業成績をあげられるのがスーパータクシードライバーです。筆者は逆立ちしてもその境地まではいけません。


というわけで筆者のような超能力をもたず、体力も一般的なドライバーの場合はどうなるかです。長く続くコロナ禍の状況は、さすがにどうにもならないのでその前の収入で考えると、普通に営業をしていれば月収35万円は超えます。調子のいい月だと45万円くらいまでいきますが、50万円を超えることは年末を除くとほとんどありませんでした。業界用語でGパケと言われるクラウンコンフォートで、無線配車、アプリ配車なしで初月度から35万円は超えていました。はじめてのタクシー乗務に戸惑い、ヘトヘトに疲れて休憩をしっかり長時間取りながらの稼ぎであることを考えると、他のドライバーでも十分達成することができます。


実際に、月35万円程度、新人ドライバーの給与保証をしている会社もあります。というよりも、非常に多くの会社に給与保証の制度があります。その期間は3ヶ月から1年までと幅がありますが、タクシー会社からすると、そのくらいの売上は作れることを前提としているのでしょう。このように、かなり詳細なところまで踏み込みましたが、タクシードライバーの仕事はかなり稼ぎやすいと言えます。そして前職までの職歴を問わず、働き次第ではかなりの高収入も狙える仕事です。


 タクシードライバーを続けていても身体は大丈夫か


名称未設定


タクシードライバーはハードな仕事というのはよく聞く話ではありますが、どのくらいハードなのか、健康面で問題が出ることがあるのかというのは、ご家族にとっても気になるポイントになることでしょう。まずタクシーの仕事はオフィスワーカーではなく、身体を使う仕事です。同様の仕事でまず思いつくのは建築作業員ですが、そちらと比較した場合にはかなり楽な仕事だと言えます。


というのも、重いものを持ったり、炎天下の中でずっと動き続けたりすることはありません。警備員のように立ち続ける必要もありません。冷暖房が効いた車内でひたすら座っている仕事です。最初のうちはかなり頭を使いますが、慣れてくるといつも通りに運転をするだけなので、精神的な負担も小さいです。特に、対人のストレスが極めて小さい仕事であるため、朗らかに日常を送れるという意味では非常に良い仕事です。


もちろん、お客さまと常にやりとりをするため、大変なこともあります。しかし、扱いが難しいお客さまに出会うのは数ヶ月に1回あるかどうかというところです。そして、どんなお客さまでも数十分経つとタクシーを降りて他人になります。対人ストレスというのは、常に接する人から発生します。同じ上司、同じ同僚、同じ親戚などからストレスを受け続け、そこからなかなか逃れられないことが問題になります。


タクシードライバーの場合には、仮に苦情を受けたり、お酒に酔った状態で絡められたりしても、そのお客さまと再びめぐりあう可能性はほとんどありません。そもそも。仮に再びめぐりあったとしても、ある程度期間が経っていたら、お互いに気づく可能性は低い気がします。もっとも、ご自宅の前までお送りしたあと「ここは来たことがある気がする」と思い出したことはあります。いつも同じ駅で着け待ちをしているドライバーの場合には、同じお客さまを乗せるケースがあるかもしれません。


またタクシードライバーは健康診断が義務づけられており、いわゆるブラックな仕事ではありません。成人病や生活習慣病などがある場合には、幸か不幸かすぐに発覚します。ブラックな環境で身体を酷使した結果、病気になるというタイプの仕事ではありません。なかには80歳を超えるドライバーがいて、この年齢で乗務するのは良いのか、悪いのかという議論になることもあります。しかし、逆に言うと、かなりの高年齢までこなすことができる仕事だといえるのです。例えば建築作業員であれば80歳では仕事にならないかと思いますし、警備員でも難しいのではないかと思います。もっとも、80歳のドライバーは例外的で、個人タクシーは75歳が定年であることから、ほとんどの場合は75歳で退職していきます。


タクシードライバーの健康面の問題として、慢性のものとしては、目の疲れ肩こり腰痛などがあげられます。また、運動不足による肥満になってしまうドライバーもいます。目の疲れは職業病といえます。昼間は紫外線によって、夜間はネオンによって目が刺激され続けます。そのため、休むときにはしっかりと目を休める習慣をつける必要があります


もっとも、老眼は遠くを見ることはできるため、オフィスワークでパソコン画面や細かい字の書類を見つめているよりは状況はいいかもしれません。肩こり腰痛については、同じ姿勢でずっと座っているために生じます。こちらも職業病です。自分にあった運転姿勢を見つけて、うまくクッションなどで補うことや、休憩時間に体操を取り入れることなどによってある程度は解決します。それでも、腰が痛くてどうにもならないドライバーもいるので、ずっと座っていられるかについては、ある程度適性がありそうです。


仕事中はどうやっても運動不足になります。なので、出勤時になるだけ歩くようにしたり、スポーツを趣味にしたりすることで補う必要があります。タクシードライバーをするとすごく太る人と、すごく痩せる人の両極が増えると言っている人がいました。それは仕事のストレスを、おやつや食事で解消するタイプの人か、それとも仕事中はあまり食べないようにするタイプかの違いになるかと思います。


もう一つ急性の健康不安があります。つまり、事故によって身体的なダメージを受けることです。車を運転する仕事にはつきものではありますが、大事故を起こしてしまうと、最悪の場合には死亡することすらあります。これは大きなリスクです。死亡事故は滅多に聞きませんが、全国でいうと時折起こっていてニュースになります。死亡しなくても大けがを負うことはあるでしょう。実際に、事故でケガをした結果、ドライバーが続けられなくなって内勤に職種を変えたという人にも出会ったことがあります。ちなみにその場合には、運行管理者という資格を取ることがあります。タクシー会社には運行管理者を適正な人数配置することが義務づけられています。運行管理者は、超過勤務などの法令違反がないように厳しく目を光らせています。


事故のリスクはどれだけ注意していてもゼロにはなりません。どの会社も出庫前の点呼では、無事故無違反を目指すよう注意を促されることになりますが、なにぶん運転している時間が長いため、そうは簡単にいかないのが難しいところです。プライベートで事故や違反が多いという方は、正直言ってあまり向いていないと思います。もしもタクシードライバーになるとしたら、生まれ変わるつもりで心を入れ替えないと最悪のケースすらありえます。事故や違反で乗務ができない場合には、会社によっては保障制度がある場合もありますが、収入が落ちるのは間違いありません。そういう意味ではとても厳しい仕事だと言えます。


 タクシードライバーの社会的ステータスとは


名称未設定


タクシードライバーの仕事を下に見る人がいないといっては嘘になります。もっともそういうタイプの人は、様々な職業を見下していますし、場合によっては政治家なども下に見ることがあります。そういった職業差別を気にしていては仕方がないのですが、そもそもタクシードライバーの仕事はどの程度の社会的なステータスなのかというところが気になる方もいるのではないでしょうか。


まず、法人所属のタクシードライバーは全員正社員として雇用されています。社会保険や雇用保険も完備されていますし、退職金がでることもあります。社会的なステータスがどういうときに問われるかとなると、住宅ローンが通るかについては、非常にシビアな問題になってくるのではないかと思います。実際に筆者はローンの申請をしたことがないのですが、知人の話によると住宅ローンはちゃんと通ったとのことでした。


ただし、タクシードライバーには不利な条件もあります。というのも、歩合性で収入が安定しないことと、免許取り消しや事故などによって、仕事ができなくなってしまい収入が途絶えるリスクがあることです。そのため、審査が厳しい銀行のローン査定はなかなか通らないようです。もちろん、ドライバー職種ではなく、内勤の場合には話が違ってくるのではないかと思います。年収だけではなく、過去5年などさかのぼってしっかり稼げているかを確認されたり、公共料金などの滞納がないか、消費者金融で借りたことがないかなどの信用情報も確認されたりするようです。そういったハードルはありますが、少なくともコロナ禍の前までは住宅ローンを通すことはできたようです。


最後に、タクシードライバーの社会的なステータスとして、スナックなどの飲み屋でモテるかどうかというものがあります。これは個人的な感想なのですが、誰もが知っている共通の話題としてタクシーのことを話せることや、意外とあぶく銭をもっているというデータがあるせいなのか、それなりに人気がありました。それ以上にモテるかどうかはよくわかりませんが、筆者の周りでは恋人や家族がいるドライバーが多数派であったことから、それほどモテない印象はありません


 まとめ


名称未設定


  • タクシードライバーの仕事は家族に反対されることがある
  • 収入面は悪くないが、仕事は楽とは言えずリスクもある
  • 高齢まで健康で続けられる仕事で、社会的ステータスも悪いとは言えない


このようにタクシードライバーの仕事を家族に反対されたときにどう説明するかについて、包み隠さず書きました。正直に言えばリスクはある仕事ですが、その分リターンも大きいです。また、本文では触れていませんが、仕事自体がとても面白いことが最大の魅力です。一晩中運転をし続けてお金をもらえるというのは、ドライブ好きの人にとってはたまらない環境です。さらにゲームのように毎日ハイスコアを競うことができます。お客さまとの出会いにも面白いものが多数含まれていますし、表には出せないような裏の世界を垣間見ることもあります。自分の営業区域については住宅街で細かいところまで走り回ることができ、楽しめました。好奇心が強く地理が好きな人にとっては「こんなに楽しい仕事はない」と思うでしょう。休みの時間もたっぷり取れますし、そこで使うお金も十分にあります。タクシードライバーはしっかり稼げる可能性があり、何より楽しくエキサイティングな仕事だと家族に言うことができます。

0