現役ドライバーが教えるクレーマーの対処法!

公開日:2024/09/19 09:37

どの業種でもクレーマーの対応が厄介な時代になってきています。一昔前であれば、例えばテレビ局であっても「うるさい!!嫌なら見るな!!」と言って電話を切ったという噂も聞いたことがあります。文言はともかく、クレーマーに対してある程度は強く応対することもできた時代です。しかし、今はインターネットが普及し、一般の人の発言力が極めて大きくなっており、一億総マスコミの時代です。粗雑な対応をしてしまうと、録音データなどをSNSにあげられてしまい、すごい勢いで炎上していきます。タクシーの事例でも、運転手が酷い接客をしているところが録画されていて、ネット上で拡散されていたのを何度か見ました。


タクシードライバーをしていると各種のクレームについて話を聞かされます。最初に聞かされるのは研修の時です。研修では色んなパターンのクレームについて教えてもらえます。また、そうならないようにする方法も教わります。それでも完璧とは絶対になりませんし、理不尽なこともあります。特に実際に公道に出て営業をしてみると、決してパターン化できないくらいお客さまは多種多様です。普通に会話していたのに怒らせてしまうこともありますし、手ひどい失敗をしたのにとても優しくしていただけることもあります。この記事では実際にどういうクレームがあるのかを3つに類型化して、具体的に説明したいと思います。



 道を間違えた、遠回りしたというクレーム


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一番多いのがこのクレームだと思います。タクシードライバーはお客さまを乗せて長い距離を走るほど収入があがります。運賃は距離に応じて高くなるからです。そのため、少し前には遠回りをするドライバーがニュースになっていたと聞いています。しかし、実際にやってみると遠回りをするのは極めて非効率的な営業方法なので絶対にやりません。ほんの80円メーターがあがったとしても、自分の収入になるのは50円弱です。その50円のためにお客さまを裏切ることは職業倫理上まずしません。そもそもクレームを受けるリスクも想像できるため、ありえないと言えます。お客さまが少しでも喜んでくれるように運転するのがタクシードライバーです。筆者にとって、ですが。


もちろん、中には悪いやつもいるのでしょう。そう思ってみると、お客さまに失礼な応対をしていそうなドライバーに心当たりもでてきます。ただ失礼というよりは、声が大きくて、耳が遠くて、運転が少し荒っぽい年配の方だからです。そういうドライバーが苦情をもらいやすい、というのはあるように思います。彼らは会社のほうで指導してもらうこととして、ここでのドライバーはお客さまの不利益にならないように細心の注意を払っている人、というのを前提にしたいと思います。


さて、営業にある程度慣れてくると実際にクレームをいただくところまでいくことは滅多にありませんが、どのお客さまに対しても最大限に注意をします。お客さまが「本当にこの道は合っているのだろうか、遠回りされていないだろうか」と警戒しているのを感じることもよくあります。どうしてわかるかというと、スマートフォンでマップを見ながら道を間違えないか常に監視しているお客さまがいるからです。非常にわかりやすい例ですが、このお客さまは単に地図を見るのが好きなだけかもしれません。もしかしたら過去に遠回りをされて嫌な思いをしたことがあるのかもしれません


運転手を試すようなことをわざと言うお客さまもいます。つまり、すっとぼけてわざと遠回りのルートを言うなどです。例えば新宿でご乗車いただいたお客さまが葛西までと行ったとします。


「えーっと、葛西までだと鍛冶橋が早いかな?」

と言われて、喜んで鍛冶橋通りを使ってしまうと遠回りになってしまいます。そういう時はしっかりと言いましょう。


「鍛冶橋を使うと距離が出ちゃうので、清洲橋通りを使うのはいかがでしょうか?こちらのほうが料金は安くなると思います。もしもご希望でしたら、内堀通りから鍛冶橋に入るようにもしますが、どういたしましょうか」


そうすると、こいつはわかっているから大丈夫だなと安心して「なら任せるよ」と言ってくれるでしょう。面倒くさいと思うかもしれませんが、こういうことはたまにあります。それだけ道を知らないドライバーに当たってしまうとお客さまのほうもストレスが溜まるのでしょう。


 においや態度に対するクレーム


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においに対するクレームも多いようです。幸い、私は経験したことがありませんが、窓を開けられてしまったことはあります。これについては原因が判明していて、飲みかけの缶コーヒーの缶からにおいが発生していたようです。同僚でもうっかりニンニクが効いたラーメンを食べてしまい、お客さまから指摘されたという者がいました。苦手なにおいというものは耐えられないほどの苦痛をもたらします。そのため、タクシードライバーは清潔な身なりをする必要があるのです。汗をかきやすい夏場は、替えの肌着を持ち歩きます。また車内で飲食をするとにおいが残ることがあるので、なるだけ外で食べるようにします。


あと、喫煙者の場合には、喫煙後15分程度は車に乗らないように指導されていたように思います。私は非喫煙者なので詳しく覚えていないのですが、おそらく車内がたばこ臭いという苦情があるのでしょう。ちなみに、法律的にはお客さまがいないときは車内でタバコを吸っていいことになっていたはずで、そのため車内がたばこ臭いタクシーはありえます。しかし現在では到底許されないはずなので、社内規定で禁止されているのではないかと思います。最近は、病院やホテルなどを中心に非喫煙者のタクシーしか並べない乗り場なども出てきました。確かに、ハイクラスのお客さまや、あるいはご病気を抱えているお客さまに対して、たばこ臭いタクシーはやはり問題がありそうです。


態度についてのクレームはとても多いです。運転手がお客さまのほうを向かずに前を向いて答えたことで「おい、なんだその態度は。舐めてるのか!!」と言われてしまうことがあります。私自身も普通に応対していたら突然怒らせてしまったことがあります。


「なんだてめぇ、俺にタメ語で話しかけんのか?!俺が空手の有段者だって知ってるんだろうな。警察に囲まれても全員ぶちのめしたことがあるんだぞ!!」

ちゃんと敬語を使っていたのですが、酔っ払われているのでよくわからなかったと思います。こういう時は落ち着いてまずは謝罪します。


「申し訳ございません。私の言い方がご気分を害したようです。お客さまに失礼するつもりはございませんでした」


そうすると「ああ、わかった。すまんね」といって落ち着いてくれました。酔っ払ったお客さまはいつ爆発するかわからない時限爆弾のようなものです。ちなみに、空手の達人と名乗るお客さまは定期的に現れます。筋肉の付き方などを見るだけで空手をやっていないことは丸わかりなのですが、それは口に出さないのがお約束です。本当に空手の達人であれば精神も鍛え上げられているはずなので、タクシードライバーを威圧するようなことはしません。


態度については難しいのですが、酔っ払っている方の応対をするときは、かなり気をつかう必要があります。特に泥酔していて限界の方は、お知り合いと別れた瞬間に激怒することがあります。これは本当の意味で怒っているというよりも、意識が限界を超えていると考えるべきでしょう。あんまりにも会話にならない場合は、車を止めて降りてもらいましょう。「すみませんが、お客さまにご乗車いただくことはできません。」と言って車外に出てもらいます。乗車拒否をしてはいけませんが、泥酔者を断ることは認められています。そのままご乗車いただいても高確率でトラブルになるので、お断りすることも大切な決断です。


一度、目の前で殴り合いの喧嘩をしている方が、手を上げたのですが「すみません、殴り合いをしていた方はちょっと……」と言って断りました。もしかしたら乗車拒否だったかもしれません。ただすぐ目の前で乱闘していた方で、しかも相当酔っているように見えたので、やむをえずの対応でした。


 理不尽としか言いようがないクレーム


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最後に理不尽なクレームについてお伝えします。これについては、たくさん書けるのですが、まずよくあるのが他のドライバーに対する苦情です。「さっき乗ったタクシーが本当に酷かった。タクシー業界はおかしい。」というような話を延々と聞くことになることです。これは自分が悪いわけではないのですが、お客さまの怒りが去るまで耐えるしかありません。


私が体験したもので理不尽だと思ったものを紹介します。まず乗っていただいたあと「急いでいるからすぐに出して!道は教えるから!!」と言われて発車します。そして、高速の入り口に案内され、目的地を告げられます。「ここからはわからないんだけどちゃんといけますか?前の運転手の時は5000円かからなかったんだけど」と言われました。ああ、しまった罠だと思いました。高速に乗ってしまうとナビは使えません。信号などで停車したときには使えるのですが。お客さまが急いでいるといったのは、こちらにナビを使わせないためです。ナビを使うと無事に目的に着いてしまうのが問題なのでしょう。


そして、目的地も少しややこしいところにありました。お客さまに道を尋ねても「さぁねぇ、ちゃんと着きますか?」とぼかされます。こちらからすると、お客さまが道を言うから早くしてくれと言ったのではないですかと言い返したくもなりますが、それはできません。しっかりルート確認をしてから発車しなかったのが悪いとされてしまいます。


お客さまは、こちらにプレッシャーをかけるように「道が違っているんじゃないの?」とか「他の運転手の時ここ通ったかな?」と言ってきます。幸い、プレッシャーには強いタイプなので、言葉を交わしつつ、何とか目的地まで無駄なく辿り着くことができました。ふーっと一息はいて会計を済ませていただきます。すると、さっきまで雄弁にこちらにプレッシャーをかけていたお客さまは、つまらなそうな表情で無言のまま降りていきました。


もしも道を間違えていたらどうなったでしょうか。お客さまのことを悪く言うわけにはいきませんが、もしかしたら無料にするように言われたかもしれません。少なくとも値引きを要求された可能性が高いです。こういったシチュエーションは、自分の所属する会社に泣きついたところで、何もしてはくれないでしょう。それどころか、お客さまがタクシーセンターなどに通報されてしまう可能性があります。その時にあることないこと言われてしまうと、それを弁明しに行く必要がありとても大変です。この時は道を間違えずに行けたから良かったものの、もし間違えていたらと思うとぞっとします。


こういった理不尽なお客さまからのクレームも時折あります。ただ、3〜6カ月に1人くらいの割合です。めったにいないので油断してしまいますが、忘れたころにやってきます。タクシードライバーの仕事をしていると避けられないことだと言えます。経営しているお店の売上が少なかったという理由で後ろから椅子を蹴られたこともありますし、泥酔して寝てしまい、警察官に起こしてもらったら殴りかかってきた人もいました。


 まとめ


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  • 地理についての苦情は本質的。絶対に回避できるようにしっかり知識をつけて、丁寧な接客を!
  • 車内からにおいが発生しないように常に注意を払い、疲れてきても態度が悪くならないようにする
  • 理不尽なクレームも時折あるので、そういうエピソードはタクシードライバーの同僚に話して忘れよう


タクシードライバーの仕事とクレームはつきものです。クレームにまでならなくても、そうなる可能性がある事案は毎晩のようにあります。タクシードライバーとは「クレームを避け続ける仕事」と言えるかもしれません。クレームという視点から見ると非常にうんざりしてきますし、実際にそれが嫌でやめる人もいます。最近は乗務員証を写真に撮って勝手にネット上にアップするお客さまもいます。それによって何か不利益があるわけではないのですが、気分は悪いです。


タクシー乗務には楽しいことがたくさんあるのですが、楽しくないこともあります。割合としては楽しいことのほうがずっと多いのですが、昼夜問わずに、見知らぬ人と密室で2人になることが多い仕事です。また、お客さまは虫の居所が悪いこともありますし、泥酔していることもあります。若い女性であっても、突然大声で怒鳴ってくることもあります。色んなことがありますが、それを含めて楽しめる人ではないと続かない仕事なのかもしれません。

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