●●●をすると自腹になるので気をつけよう。

公開日:2024/09/20 01:53


タクシードライバーの給与形態や働き方はとても特殊ですが、特にややこしいのが自腹についての考え方です。まず前提として、タクシードライバーが持っている「釣り銭」についてはドライバー自身の持ち物あることが多いです。例外として大手の場合には、釣り銭をすべて会社側が用意するということもあるようです。


どうしてそうなったかというと、釣り銭を自分で管理させないと着服されるケースがあるからでしょう。大きな額の着服であれば会社側も気づくかもしれませんが、タバコ代やコーヒー代として少額を持ち出してしまうかもしれません。そんなことをすれば釣り銭に誤差が生じます。それを会社側がいちいちチェックして突き止め、ドライバーに請求するのは非常に面倒です。


そもそも、タクシードライバーの中にはお金にルーズで失敗していたり、借金を抱えていたりする人もいます。言うまでもなく一部ではありますが、会社という単位で考えると無視できない数がいることでしょう。それに対して監視する必要があるとしたら会社としては大きな負担になり手間がかかります。


また発覚した場合には、もちろん懲戒などの処分をする必要があります。そうするとドライバーの数が減ってしまうため、タクシー会社にとってはいいことがありません。そういった背景から、釣り銭はタクシードライバーが自分で用意して管理することになっています。釣り銭をすべて会社が用意するというところでは、貸し出し額と売上と返金額をしっかりチェックされていて、齟齬(そご)があった場合には修正するなり、自分で持ち出していた場合にはすぐに充当するなりする必要があることでしょう。


筆者が務めていたタクシー会社では、釣り銭が用意できないドライバーのために、いくらか貸し出してくれるシステムがありました。こちらは乗務終了後に返却する必要があります。


タクシードライバーはタクシー会社に所属する正社員ですが、自分で釣り銭を用意して、自分の裁量で営業をします。そのためかなりの自由が認められているのはいいことですが、厄介なのは自腹が発生することです。しかし、タクシーの営業をしていて自腹が発生することなどあるのでしょうか。この記事では実際にやってみないと分からないタクシードライバーの自腹についてお伝えしようと思います。



 洗車料金はなぜか自腹になる


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筆者はタクシー業界には非常に肯定的で、心の底から感謝しているのですが、唯一納得がいかないのが洗車料金についてです。タクシードライバーは、乗務が終わったあと、タクシーを洗車します。会社によって設備が違いますが、全自動のウォッシングマシーンが設置されている会社もあります。この機械がそもそも有料でした。有料とはいっても100円なので気にならないレベルではありましたが、会社の車を会社の設備で洗うのにお金がかかるのはどうしてだろうと気になるところでした。


そのあと、車体についた水を切って、タオルで丁寧に拭いていきます。水滴が残ると水垢がついてしまうので、完全になくなるまで拭き取っていきます。この工程を終えたあとにワックスをかけることもあります。このワックスも自腹で用意しているドライバーもいました。もっともこれはこだわりで、会社にもワックスはあったように思います。車内のマットを洗い、掃除機をかけ、内装を拭いて消毒し、汚れが目立つ場合にはホイールを外して中まで洗います。


私は毎回ではなかったですが、ホイールを毎回外すドライバーもいました。というわけで100円を払って、30分くらいかけて洗車を終えると乗務は終了です。洗車の時間を面倒がるドライバーも多いですが、個人的には好きな時間でした。20時間の乗務を共に戦った相棒をしっかり洗って、ピカピカにして次のドライバーへと託す時間は、疲労と眠気で目が回りそうな中ではありますが充実した時間だと言えました。


ただ、よくよく考えるとこの洗車時間は給料が発生していない場合があるため、労働時間としての定義が曖昧になることがあったようです。そのため、洗車は専門の業者に依頼することがあります。その際に洗車費用として1000円から2000円程度払うのですが、それもドライバーの自腹となります。このシステムも正直よく分かりませんでした。本来は洗車時間にも時給を発生させるべきなのでしょう。そして自分で洗車しない場合にはその時間分の給与がなくなるとするべきです。


しかし、タクシードライバーの給料は売上に対して歩合で決まります。つまり洗車についての費用を計算せずに歩合にしてしまっているので、会社としては洗車費用を自分で出すと足が出てしまうのでしょう。この習慣について問題視しているドライバーはまわりにいませんでしたし、業界紙などにも出ていませんでしたが、個人的にはあまりしっくりきておらず、お金を出すことになるくらいなら、自分で洗車したいと思ったものです。


ちなみに、タクシーの車庫が多いところでは、周囲に洗車サービスのお店が並んでいます。ガソリンスタンドでも洗車できる場所があります。こういった外部の洗車サービスも、会社が特別な契約をしていない限りは持ち出しとなります。


 乗客に対して返金する場合

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次に、タクシードライバーとしては避けられないものの、公式にはなかなか認められていない返金についてです。


基本的にタクシーの運賃は値引きをしてはいけません。特に値引きをうたって集客するような行為は厳しく取り締まられてしまいます。ただ、値引きをするドライバーがいたとしたら、その値引き分はドライバーの自腹となるのは間違いありません。たとえば、12000円の運賃がかかることが想定されるお客さまが10000円までまけてほしいという交渉をしてきたとしましょう。歩率が60%の場合、本来であれば7200円がドライバーの取り分となり、4800円を会社にいれることになります。


しかし、実際にもらえる額は10000円なので、ドライバーの取り分は5200円まで減ってしまいます。これも自腹といえます。強く念押ししますが、割引行為は禁止されています。そして、12000円どころか15000円かかっても文句は言えません。その場合、取り分は2200円まで減ってしまい、ほとんどやった意味がない営業になってしまいます。その上、違法なので何もいいことがありません。


値引きはできないといいつつも、ドライバー側の過失で大きく道を間違えてしまった場合などは返金を求められることがあります。タクシーの運賃は値引きしてはならないという大原則に基づくと、どんな運賃であっても請求する権利があるのですが、お客さまとしたら2000円で帰れると思ったのに30分余計にかかって5000円となってしまったら大激怒です。こういう場合は、返金に応じることになります。会社に相談するのが正しい手続きなのでしょうが、会社としてもどうにもならないところでもあるので、現場ではドライバーが自腹で返金してしまうことが多いのです。


こういった痛みがあるので、タクシードライバーは道を間違えないようにお客さまの意図をしっかり読めるように、細心の注意を払うようになります。値引きをすることをうたってお客さまを集めるのは大問題なのですが、このように過失がある場合に割引をすることになること、しかもタクシードライバーが自分の財布から出す自腹であることは、法律的にはグレーではあるものの、現実的な対応として現場で行われていることではないかと思います。もっとも、理不尽な割引を要求してくるお客さまもいますが、そういう場合は、断固戦うこともあります。


もう一つ、乗り逃げされてしまった場合です。つまりお客さまが料金を支払わずに逃げてしまうというケースです。乗ってからお金がないことに気づいたり、コンビニまで下ろしにいくつもりが、コンビニにもお金がなかったりということもあるかもしれません。500円程度の少額のこともありますし、1万円を超える運賃を踏み倒されることもあります。言うまでもないですが明確に犯罪行為ですし、車内カメラに顔も映っていますので、絶対にやらないようにしましょう。


問題はこの乗り逃げ行為をされたときの保障が会社に用意されていないことがあります。つまり、この乗り逃げされた分が自腹になってしまうということです。1万円の乗り逃げであれば、会社におさめる分の4000円が自腹となります。この4000円をどう捉えるかです。このくらいの額になると警察へ被害届を出すドライバーがいると思います。しかし、そうすると1,2時間は拘束されてしまうので営業に差しさわります。乗務終了後に警察署に行くのは肉体的にとてもハードです。なので、泣き寝入りするというケースもありますが、常習犯であれば仲間のドライバーが同じ目にあうかもしれません。そう考えて断固戦うこともあります。


私自身も運賃4000円を乗り逃げされたことがあり、1600円の自腹となりました。このくらいなら働けばすぐに取り戻せるのですが、相手はどう考えても確信犯で、どうしてあんな人のために……という思いもあり、釈然としません。そのお客さまは、走行中に路上に飛び出してしまったので、どうすることもできずでした。言うまでもなく非常に危険ですし、犯罪なので絶対にしないようにしましょう。


 事故や違反の際の自腹について

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タクシーの仕事をしていると事故を起こしてしまうことがあります。車庫内でこすってしまうのは多くのドライバーが経験しています。車庫の中は暗く、漆黒のタクシーがぎゅうぎゅうに詰まっています。そのうえ、疲労や睡眠不足、車庫に到着した安心感などで気が緩んで……ということがあります。ここで擦ってしまうと、始末書は確定なのですが、会社によっては修理費を請求されることもあります。大きい会社ではあまりないと思いますが、実際にそういうケースがあるので入社前にしっかり確認しておく必要があります。


擦るくらいならいいのですが、大きな事故の場合には、会社による保障がないと1ヶ月以上の給料が吹っ飛ぶなんてこともあるかもしれません。筆者は事故の際に自己負担する必要がある会社に在籍したことはありませんが、入社する前に必ず確認したほうがいい事項だとタクシードライバーをしている知人に聞いていました。こういったネガティブな要素は、聞かない限り教えてもらえないということがあります。また、事故の際の負担があったとしても、代わりに歩率が良いなどの好条件が整えられていることも想定できます。


交通違反の場合には、罰金が発生します。また免許停止処分となってしまった場合には免許停止者講習を受けることになります。この罰金と講習の参加費も自腹となります。タクシードライバーは常に公道で営業しているので、違反を完全に回避することは非常に難しいのですが、それでもコツをつかむと1年に1回よりも少なくなっていきます。最後の違反から1年が経過すると、累積していた違反点数が消えるため、1年以上無事故無違反でいられるかどうかは非常に重要です。


罰金によって財布の中身が目減りしていくことも大問題なのですが、免許証を失ってしまうと仕事ができなくなってしまうので、免許停止期間中は別の仕事をする必要があります。だからこそ免許を防衛すること”はタクシードライバーにとって最重要なミッションなのです。


 まとめ


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  • 会社にもよるが洗車料金が自腹になることがある
  • お客さまに対する値引きは自腹だが、値引き自体は禁止されている
  • 事故や違反の際に発生する費用も自腹になることがある


このように自腹について改めて考えてみましたが、こう並べてみるとタクシードライバーは悲惨な仕事のように見えてしまうかもしれません。ただ、これは努力してミスをしていない優秀なドライバーの給料が最大化するように作られたシステムだから、ということもあります。タクシーの仕事はさぼろうと思えばできてしまいます。そのため不正をしたり、事故や違反が多かったりするドライバーを優遇しないことによって、優秀なドライバーは稼ぐことができるのです。そして、真面目で優秀なドライバーに憧れて、努力しようと思えるドライバーも増えていきます。良くも悪くも、こういった方針でやってきた業界なので、現在もその名残は数多くあります。時代と共に是正されていく、アップデートされる部分も大きいようですが、タクシー業界の性質を理解して、上手く使っていくことが大切なように思います。

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