東京のタクシー台数は???

公開日:2024/09/20 00:52


緊急事態宣言の間は、街に人がいませんでした。たまに外出してみれば、駅前や繁華街にタクシーが列をなしているのを見かけたという方も多いと思います。行灯がピカーっと光った「空車」のタクシーが列をなしていて、われわれタクシードライバーは自嘲を込めて「今日もエレクトリカルパレードだよ」と呟いたものです。駅前のわずかなスペースを埋め尽くすタクシーを見ながら、タクシーというものは一体何台あるのだろうと考えた方もいるかもしれません。


東京で考えてみると、駅の数はいくつあるでしょう。100か、200か。そこに10台ずつタクシーがいるとしたら1000か2000か、というような類推をしてみますが、それが正しいのかどうか見当もつきません。


ちゃんと調べてみたところ、東京には755駅あるそうです。先ほどの類推方法に当てはめてみると、7550台ということになります。ただ、大きい駅も小さい駅もあるので、実に大雑把な計算です。大きい駅でいうと、例えば東京駅には丸の内口の乗り場と八重洲口の乗り場があります。両乗り場には30台ずつくらいタクシーがいますし、駅の外まで列が伸びていることもあります。100台以上いることもよくあると思います。一方で、神楽坂駅などタクシー乗り場がない駅もあります。


さて、どうやってタクシーの数を推定したらいいでしょうか。


答えは簡単です。難しい計算をしなくても、一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会のホームページに統計資料があります。この記事では、令和2年3月31日現在の資料を参照します。



 東京にタクシーは何台あるのか

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まずは事業者数ですが、436社もあるそうです。タクシードライバーをしている筆者ですが、その半分も把握していません。名前を聞いたことがあるタクシー会社を数えても100社もいかないかも知れません。「ローカル」といわれる都心から離れた住宅街を中心に営業している小さな会社が想像以上に多いことも考えられます。公益財団法人東京タクシーセンターが認定している優良事業者を数えてみると、296社ありました。もしかしたら、統計には登録しているけれど営業している実態がない事業者も含まれているという可能性もあります


細かいことはさておき、タクシーの台数はどうかというと、統計資料によると法人タクシー30695台だそうです。それに加えて、個人タクシー11810台もあります。個人タクシーがそんなにあるというのは、タクシードライバーをしている自分としても驚きでした。これだけ競合が激しければ、「個人成り」するための条件が厳しいのも納得です。


さておき、この2つを合わせると、42505台になります。別カウントですが、「福祉タクシー」というものもあって、こちらは1026事業者1395台あるそうです。1つの事業所につき1〜2台でやっているところが多いようですね。ちなみに福祉タクシーとは、福祉自動車を利用して旅客運送を行ったり、障害者などの運送に業務の範囲を限定したりするタクシーのことだそうです。高齢化社会の進展によって、福祉タクシーの車両数は「着実に増加してきている」と国土交通省のホームページに記載されていました。


 タクシー会社の経営シミュレーション

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いやはや、4万台以上もタクシーがあるとは驚きですね。よく見かける黒いクラウンがだいたい1.5トンくらいの重量なので、6万トンくらいの重さになります。全然ピンときませんね。タクシードライバーで例えると、もっとわかりやすいと思います。4万台のタクシーが同時にすべて営業に出ることは考えづらいと思います。しかし、タクシー会社としては修理やメンテナンスをしている期間を除いては、なるべくタクシーを車庫から出して営業させたいと考えています。車庫に眠っていても維持費がかかるだけですが、営業に出て行けばお金を稼ぐことができるからです。


タクシー会社経営者の目線に立ってみると、まず大切なのはタクシーを全部動かせるだけの人員を抱えることです。次に大切なのは、一人一人のドライバーの能力を高めて売上をあげていくことです。非常に単純な計算ですが、一日あたり3万円の売上を作れるドライバーが10人いる場合は、一日30万円の売上。月あたり900万円で、年間にすると1億800万円です。実際には、ドライバーの公休日があったり、病欠や事故などで営業に穴が空いたりとするので、あくまでも目安の数字です。


さて、同じように一日3万円のドライバーが10人から50人に増えたとします。その場合、一日の売上が150万円になります。月あたり4500万円で、年に換算すると5億4000万円です。もちろんこれは年商の数字なので、各種経費を差し引く必要があります。車両を50台以上も所有するには広い土地が必要ですし、メンテナンスにもお金がかかります。税金や保険、ドライバーの給料なども計算すると、それほど儲かっていると言えない数字になるかもしれません。


確実に会社の利益を増やそうと思ったら、やはり一人一人のドライバーに、より大きな売上をあげてもらうしかありません。先ほどのシミュレーションでは、1人のドライバーが3万円売り上げる計算でしたが、今度はこの数字を6万円にしてみましょう。


10台のタクシーをまわしている会社の場合には、一日60万円。月あたり1800万円。年間2億1600万円の売上になります。歩率が6割だとすると、そのうち1億2960万円は給与として支払うことになりますので、残りの8640万円で会社の運営をしていくことになります。


先ほどの例で1人の売上が3万円の場合には、当たり前ですが売上額はこの半分です。ただ、3万円の売上だと歩率は少し落ちて50%程度になる会社もあります。たくさん売上をあげるドライバーは、歩率を高くしないと転職してしまう可能性があるのです。一方で、それほど売上が高くないドライバーは、会社に残る可能性が高いです。数値的な根拠はないのですが、実際にタクシー会社で働きながらいろいろなドライバーと話した結果、そういう傾向があるように思いました。


さて、仮に歩率を50%で計算すると、売上3万円×10台のケースでも5400万円残ります。8640万円と5400万円なので、倍の差はついていません。しかしながら、タクシー車両の維持費や燃料費、車庫台、内勤の給料などは、どちらの会社も変わりません。仮にこの費用を4000万円とした場合、3万円×10台の会社は1400万円が手残りですが、6万円×10台の会社は4640万円が手残りとなります。


ここからわかることは、一人一人のドライバーがしっかり売上を作れるほうが、タクシー会社としても得をするということです。その結果、タクシードライバーにも多めの給料を払うことができます。逆に売上が少ないドライバーを多数抱えている会社は、歩率をさげて乗務員の給料を低く抑える必要があります。こういった経営学的な背景があるので、各種タクシー会社は優秀なドライバーを優遇していますし、売上を作るための研修を充実させていきます。そして、ドライバーが転職しないように、働きやすい環境を整えていくわけです。


タクシードライバーは転職の売り手市場と言えます。ただし、免許証に傷がないことが、とても大切な条件になってきます。事故や違反で運転できなくなってしまっては、スタートラインにも立てませんからね。


せっかくなので、50人の会社でもシミュレーションしてみましょう。固定費は、10人の会社では4000万円としたのですが、規模は5倍ですがそのまま5倍の経費がかかるわけではないので、3倍の1億2000万円としましょう。


50人×3万円の会社では、一日あたり150万円の売上があります。月あたり4500万円で、年間5億4000万円です。売上水準が低いので歩率を50%とすると、給与の支払いは2億7000万円です。固定費をひくと手残りは1億5千万円となります。


50人×6万円の会社の場合には、一日あたりの売上が300万円です。自明ですが、50人×3万円の2倍ですね。月あたり9000万円。1年で10億8000万円となります。歩率を60%とすると、給与の支払いは6億4800万円。固定費を引くと3億1200万円残る計算になります。


というわけで、ざっくりとしたシミュレーションをしてみました。諸経費の額面などは詳しくわかりませんし、実際にはもう少しかかるのではないかと思います。ただ、タクシー会社にとっては「乗務員を増やすこと」と「乗務員の売上をあげること」がとても大切だということは見えたように思います。


タクシーの台数を増やしていくのは、実は法的な縛りがあって難しいそうで、割り当てられた中でやりくりをしていくものだと聞きました。そのため、タクシー会社にできることは、十分な人員数を確保していくことと、一人一人がしっかり売上を作れるように教育していくことです。タクシードライバーからすると、自分の売上があがれば給料もあがるわけですから、WIN×WINの関係にあると言えます。歩合制はとてもよく出来たシステムだなと、改めて感心した次第です。タクシー会社がどういう事情で、何を考えているのかを知ることで、ドライバーのほうも会社とうまくやっていきやすくなると思っています。


タクシードライバーは独立した環境で仕事をすることになるため、上司とコミュニケーションを取る時間はそれほど長くありません。中には、自分の都合ばかりをいって会社を困らせてしまうドライバーもいます。そういう風になってしまうと、WIN×WINとは言えなくなっていきますので、ドライバーとしても会社側の考えていることをある程度理解しておくことが大切です。


 各都道府県のタクシー台数比較

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東京のタクシーは法人と個人をあわせて4万台以上でしたが、他の都道府県ではどうなっているのでしょうか。法人タクシーに絞ってみてみたところ、1位東京都30695台です。2位大阪府15287台です。


3位が神奈川県か愛知県かなと予想していたのですが、数字を見てみるとなんと北海道で、9894台もあります。タクシー事業者も344社で、こちらは東京都の436社についで2位です。どうして北海道にこんなにもタクシーが多いのかを考えてみると、札幌という大都市があることに加えて、面積が非常に広いため、エリアをまたいだ営業がしづらいことなどが推察されます。


つまり、釧路のタクシーが隣町の帯広まで営業に行くことはないということです。距離にすると122kmですが、その間にお客さまがいることはあまりないですし、もし仮にお客さまを乗せてこの距離を移動すると、4〜5万円の運賃がかかります。なので、おそらく町ごとにタクシー会社があるのでしょう。北海道をひとまとまりで考えずに、いくつかの都道府県が集まっているというようなイメージが近いかもしれません。もちろん観光の需要もあります。ニセコや小樽などの観光地では、観光客を案内するタクシーが発達しているはずです。


4位神奈川県9727台です。5位でようやく愛知県かと思いきや、福岡県のほうが多く9029台でした。6位愛知県7954台とのことです。東京都、神奈川県、愛知県については、タクシードライバーの平均所得も高いのですが、北海道はそれほど高くありません。そういう意味でも、北の大地と呼ばれる北海道は、日本における特別な地域だと言えます。


さて、それでは逆に、タクシーの台数が少ない地域を見てみましょう。


1位鳥取県664台です。人口も少ない県ですし、観光需要が高いのは鳥取市と米子市という東西の両極に偏っています。東西の移動については、レンタカーや鉄道、バスなども発達しているため、タクシーの需要があまり大きくないのでしょう


2位福井県867台3位山梨県914台です。鳥取県と山梨県については、個人タクシーの台数が0台という共通点がありました。個人成りして稼ぐのが難しい地域なのかもしれません。


一方で、福井県では個人タクシーが95台あります。そのため、法人とタクシーの合計では、山梨県を上回ることになります。どうして福井県で個人タクシーが多いのかは勉強不足でわかりませんが、同じく山陰の島根県も個人タクシーは0台です。北陸地方では、新潟県342台を筆頭に、富山県81台石川県229台とある程度の台数があることがわかりました。


どうしてこういった差異が出るのかについてを知るためには、現地に赴いて個人タクシーに乗ったときに聞いてみるのが一番いいと思います。その土地によって暮らし方や価値観が異なりますし、個人タクシーになるということは、生涯の仕事としてタクシーの個人事業主になるということを意味しています。そのため、個人タクシーの運転手に話を聞いてみると、人生観を含めてその土地のことを語ってくれるため、とても有意義な時間が過ごせることと思います。地方を訪れたときは、ぜひ試してみて下さい。


 まとめ


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  • 東京のタクシー台数は、法人・個人を合わせると42505台
  • 会社ごとに台数は割り当てられている
  • 一人一人のタクシードライバーがしっかり売り上げを確保することが双方の利益に繋がる


タクシーがどのくらいあるのかについて調べた上で、色々と語ってみましたが、タクシー業界は本当に面白いなと改めて確認することができました。タクシーがどのくらいあって、どのくらい稼いでいるのかを読み取ることで、その町の経済力や活力を見ることができます。また、観光地なのか、ビジネス街なのかによって、ドライバーの営業方法も随分と変わってくることでしょう。地方ドライバーの情報はあまり出てこないのですが、地方で営業している皆さんがどういう営業をしているのか、地方に行くたびにタクシーにのって聞いてみたいなと思った次第です。

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