これからのタクシー事業を考える 名古屋mobi、4月の利用者5百人 名タ協の天野会長が運行実績説明(TAXI JAPAN412号)

公開日:2024/09/15 04:04


名古屋タクシー協会が5月26日に名古屋市中村区の「名鉄グランドホテル」で開催した第71回定時総会で再選された天野清美会長(つばめ自動車社長)は、会長再選後の挨拶の中で、名古屋市千種区を中心に運行しているエリア定額乗り放題のmobiの運行状況について説明した。


天野会長は、名古屋市千種区を中心に昨年12月6日から道運法21条許可による実証実験として運行をスタートしているmobiの運行実績について、「4月の集計をみると、利用したお客様は1台当たり500人で、(乗合として)相乗りが成立したお客様の数は月間で24人だった。つまり、移動途中における相乗りのマッチングがまだまだ難しい、という状況にあり、もちろん月間500人という利用者数では、確実にCommunity Mobilityの採算は合わないだろうと思う」との見方を示した。一方で、日常的に利用する移動生活圏内にある全ての事業所や店舗を巻き込んで地域の町おこしを行う、というmobiのコンセプトを挙げて、「mobiは(地域おこしをしたい)自治体からは引く手あまたの状態にある、というのが全国での状況だ」などと指摘した。



つばめGと名鉄Gがmobi運行


エリア定額乗り放題のmobiは、WILLERとKDDIの共同出資により今年4月1日に設立された合弁会社Community Mobility(村瀨茂高社長、都内目黒区、議決権比率はW I L L E R51%、KDDI49%)がプラットフォーマーとして企画・運営・配車アプリなどのシステム運用などを行い、実際の車両運行は地域のタクシー・ハイヤー事業者が担う形で乗合による面的な移動サービスが現在は実証実験として提供されている。名古屋市千種区のmobiでは、つばめタクシーグループ(天野清美代表)のあんしんネットなごや、名鉄タクシーグループ(浅野丈夫代表)の名鉄交通第三が計2台の車両運行を受託している。


4月の利用者は1台500人


名タ協会長に再選された天野会長は、再選後の挨拶で「会長に再選されたが、これからの2年間についての話をしたい」とした中で、mobiに言及して「今、東京や大阪の業界で、良い意味か悪い意味かは別にして、大変に話題になっているCommunityMobility(WILLER)のmobiについて、私どもの運行実績を紹介したい」とした上で、「4月の集計をみると、利用したお客様は1台当たり500人で、(乗合として)相乗りが成立したお客様の数は月間で24人だった。つまり、移動途中における相乗りのマッチングがまだまだ難しい、という状況にあり、もちろん月間500人という利用者数では、確実にCommunity Mobilityの採算は合わないだろうと思う」との見方を示した。


mobiの町おこしに自治体が関心


その上で、「しかし、Community Mobility(WILLER)の村瀬社長の話を聞くと、従来のタクシー事業者とはまったく発特 集 これからのタクシー事業を考える名タ協の天野会長が運行実績説明1415想が違う部分がいくつかある。私どもの中には、mobiの理念は、オンデマンド方式で運行している従来からあるワンボックス型車両によるものと変わりがないと理解している方もいるかもしれないが、私は、mobiは過疎地域の運行には適さないと思っている」としながら、「基本的に、現在のオンデマンド交通は路線(起点と終点)を決めた上での運行だが、mobiは半径2キロ以内の地域に300カ所以上の仮想停留所(バーチャル乗降ポイント)を設定して、その仮想停留所にはイオンや英会話教室、美容院などの日常的に利用する移動生活圏内にある全ての事業所や店舗を巻き込んで地域の町おこしを行う、という」と指摘、続けて「mobiは(地域おこしをしたい)自治体からは引く手あまたの状態にある、というのが全国での状況だ」などとした。


mobiとライドシェアは違う


天野会長は、「我々タクシー事業者にとってもmobiはライドシェアとは違うものであり、(車両運行を)タクシーが担っている。国交省もmobiの運行は緑ナンバーでなければならない、としており、(道運法21条許可を取得して)実証実験も行っている。そういう点からも、我々タクシー事業者はmobiとライドシェアとは違うという認識を持つ必要がある」と指摘。 その上で、「私もタクシー事業経営者として50年近いキャリアがあるが、これまでにも外部からタクシーの事業分野に様々な働き掛けがあった。例えば、(白ハイヤーとしてタクシー業界が反対した)車両運行管理であり、自家用有償運送だ。タクシー事業者が反対することで止まっているのはライドシェアしかない」とした。 さらに、「車両運行管理ひとつをとってみても、車両運行管理業は現在、一定規模の業界にまで育っており、車両運行管理業には後追いのタクシー・ハイヤー事業者が多数参入している状況だ。最初からタクシー業界でやっておけば良かったのに、ということになるが、当時、私はタクシー業界として反対するべきではない、やるべきだと主張していたが、誰も賛成してくれなかったという経過がある。そういう苦い経験がある」などと振り返った。 天野会長は「そこで、今回の(mobiによる)ラストワンマイルの取組みに、タクシー業界としてまったく反対するだけで良いのか、ということをかねがね私自身は思っており、タクシーではカバーしきれない部分をカバーする新しい乗り物が必要である、という同じような考え方を持っている方は(タクシー業界内に)他にもいる。しかし、(実際の運行となると)利用対策的に厳しい面があり、そうしたところにWILLERがmobiでの実証実験として自ら立ち向かう、ということになった」などと説明。


事業には利用者の支持が必要


天野会長は「そういった意味で、様々な意見はあるだろうが、もし新しい(mobiのような)乗り物が実用化されるとしても、そのためには利用者の支持が必要だ。私は、昔からそうだが、利用者の支持が無ければ事業は成り立たないと思っている」と強調。 一方で「タクシー業界も、人手不足も含めて様々な課題があり過ぎるぐらいあるが、我々が事業を継続していくためには利用者の支持を得ることが第一だと考えており、利用者に対して(移動サービスの)選択肢を増やしていく必要があると思っている。そのひとつがmobi(のようなサービス)だ」としながら、「また、昨年11月には国交省からタクシーの相乗りが認められたが、実際の利用方法としては(制約も多く)お客様が爆発的に増えるような形にはなっていないので、まだまだ国交省には(相乗り制度の)改善をしてもらいたいと私自身は思っているものの、これもお客様に選択肢を増やすというものであり、これから業界として取り組んで行く必要があるのではないかと思っている」などと訴えた。


実用化には少し距離がある


天野会長はmobiの現在の運行実績では、(採算という面から)実用化には少し距離があるのかな、と思っているが、もし皆さんに興味があるのであれば、Community Mobility(WILLER)の社長を呼んで講演してもらっても良いのかな、と思っている」とした。


いつもの論法では振り返らず


その一方で、「私が一番残念に思ったのは、私たち(タクシー業界)のいつもの論法では、各自治体は決して振り向かないということだ」とした上で、「我々は単に移動のお客様をどうするか、という発想があるだけだが、(mobiは)様々な企業・事業所、様々な業種と連携し、それらをラストワンマイルと相乗り(乗合)という組み合わせで採算に乗せようとしているものだ。まだまだ見通しは付かないが、引き続きデータについては皆さん方に公開をして、今の状況について理解をしてもらえるように努めたい」などと述べた。

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