新宿西口の攻略

公開日:2024/09/19 09:37


「東京といえばどの街?」と問われた際に、新宿と答える方は多いのではないかと思います。新宿は非常に大きな街で、その規模という意味では東京随一です。広大すぎる新宿と比べると、銀座や赤坂は一区画としか思えないくらいです。


新宿はとても広く、すべてを飲み込むだけの包容力、吸引力、そして魔性を持っています。かつては東京と言えばモダンな街の銀座だったのでしょうが、今の東京を象徴する街が新宿です。東口では伊勢丹などの百貨店が存在感を放ち、その奥にある歌舞伎町は日本最大の繁華街として特別な存在感を放っています。


そんな新宿は、タクシーの営業先として非常に癖があり、そのためタクシードライバーによって好みが分かれるところです。このあたりはタクシーの営業をしてみないとわからない感覚ではないかと思いますので、読者の皆様になるだけ丁寧にご紹介したいと思います。


さて新宿というと歌舞伎町周辺ばかりが注目されますが、都庁をはじめとしたオフィス街である西口も非常に重要です。営業の仕方次第ではとても稼げるエリアでもありますが、街が大作りなところがあるので少しコツがつかみづらいと感じることがあります。さらに、新宿は西側に開かれた都市であるため、青梅街道、大久保通り、方南通りなどの先までお客さまをお送りし、その先で別のお客さまを乗せて戻ってくるような営業が必要になります。


「東京の街全体に活気がないなあ……」と感じる日、新宿西口エリアの営業ができると活路が見いだせるので、覚えておいて損はないはずです。



 新宿西口の成り立ちと広大な後背地


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新宿は、元々は甲州街道の宿場町である内藤新宿として栄えていました。当時から、夜の色町として有名であり、そのせいで取り締まりにあうことも多かったようです。風紀のタガが外れて取り締まりにあうというのは新宿の本能なのかもしれません。「暴れん坊将軍」として知られる徳川吉宗の時代には宿場町ではなくなってしまい、甲州街道最初の宿場は高井戸となっています。若者の街として文化流行の発信地とされていた時代もありましたが、現在は渋谷区に奪われています。その渋谷の賑わいは新宿区大久保のコリアンタウンが取り戻しつつあるようです。このあたりはドライバーをやっていると何となくわかります。


もっともそれらは主に東口のエリアに引き継がれていて、西口はまったく異なる様相を示しています。そもそも西口から出た先が、西新宿と呼ばれるようになったのは1970年代からで、それまでは角筈(つのはず)と呼ばれていたそうです。また青梅街道の北側は柏木と呼ばれていました。タクシードライバーをしていて、以前の地名でよく使うのは十二社(じゅうにそう)くらいです。十二社通りという道があるのと、この先辺りは少し地価が落ち着いており、住みやすい物件も多いことから、歌舞伎町からタクシーを利用するお客さんがおられるからです。熊野神社もよく聞く地名です。板橋区にも熊野神社があるので、お客さまにはしっかり確認する必要があります。


西口については、東よりも発展が遅れていたようなのですが、1965年に淀橋浄水場が廃止され、その跡地に新宿副都心としての大規模開発が始まりました。ちなみに浄水場は東村山市に移設されています。1991年に丸の内にあった東京都庁舎が移転されると名実ともに東京都の中心となりました。そして、都庁の周囲は超高層ビルが林立する大規模オフィス街へと成長しました。余談ですが、このあたりのビルはゴジラなどの怪獣がよく破壊しにきます。たとえば『ゴジラvsキングギドラ』では、都庁や京王プラザホテルが崩壊しています。それだけ西新宿の高層ビルは東京を象徴しているようにみえるのでしょう。象徴的な建物として、タクシードライバーが覚えておかないといけないのは、京王プラザホテル、新宿住友ビル、損保ジャパンビル、新宿野村ビル、東京都庁などです。ホテルまでお送りすることはとても多いので、ホテルもしっかり覚えます。京王プラザホテル、ハイアットリージェンシー、ワシントン、ヒルトンなども必須です。


新宿西口の話をしましたが、この町は本当に懐が広く、西側の住宅地と強く結びついています。近い範囲でいうと代々木、初台、中野坂上、参宮橋は西新宿の文化圏ではないかと思います。参宮橋については渋谷のほうが近いように思えますが、営業していると新宿なのかなと感じることが多い。これはタクシードライバーとしての感じ方であり、私個人の意見なので、実際に住んでいる方の感覚とは異なるかもしれません。またドライバーの営業スタイルによっても異なることでしょう。ただ、このあたりで営業をしていると、つながりがある土地だと感じることが多いのです。


もう少し遠目まで範囲を広げると幡ヶ谷、笹塚、明大前、中野新橋、中野富士見町、方南町、西永福、新中野、東高円寺、新高円寺、南阿佐ヶ谷などになります。さらに遠い範囲までいくと調布、府中、東村山などまでタクシーでお送りすることもあります。新宿で飲んでいる方は、新宿駅よりも西側に住んでいることが多いというのは、タクシードライバーなら皆知っていることです。もちろん例外も多数ありますが、傾向としては西へと飛ばされていきます。ちなみに池袋駅の場合には埼玉県から来ている人が多いというのはよく聞く話ですし、実際に埼玉方面にお帰りになる方が多い。


 新宿西口、昼の稼ぎ方


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昼の間は決して稼ぎやすい街とは言えません。ヒルトンのまわりにいくつかあるタワーマンションから降りてくるお客様の手があがることはありますので、周辺をぐるぐる回るのは有効ですが、それほど期待できません。大きなオフィスビルが多数あるので、ビジネスユースも多数あるはずなのですが、どういうわけか西新宿は、丸の内や港区などに比べてお客さまを見つけづらい傾向にあります。もちろん、このあたりを専門に営業しているドライバーからすると何らかのやり方があるのだと思いますが、個人的には他の街よりも難易度が高いです。もしかしたら巨大ターミナルである新宿駅が目の前にあるため、ビジネスパーソンが電車以外の交通機関を考えないせいなのかもしれません。


筆者がよく使っていたのは、新宿西口の地下にあるタクシー乗り場です。長距離はそうそう出なかったのですが、立体交差をくぐり抜けていく乗り場なので都会感があって好きです。一番遠くまで行ったのが大宮まででした。大宮といっても埼玉県ではなく、方南通りをしばらく行った先にある杉並区の地名です。新宿駅の乗り場はそれなりに流れがいいですが、とにもかくにも多くの路線と連結している新宿駅の特性上、それほど遠くまでタクシーで行く方は多くありません。杉並区の大宮に行くのであれば、東京メトロ丸の内線を使って方南町行きに乗るか、中野坂上で乗り換えて、方南町まで行き、そこから徒歩もしくはバス、タクシーでの移動となります。タクシーなら10分程度で家の前まで着きますが、電車だと30分以上かかることでしょう。そうなると、20分節約できた上に、快適に移動できるとなれば、昼であってもタクシーを使う方もいるのだろうと思います。


あとは近くまで来たときは十二社通りを通るようにしています。このあたりは駅まで歩くと遠いので、タクシーに乗る方が多い。土地柄、歌舞伎町までということが多いのですが、渋谷方面まで向かうこともあります。


といっても昼間の西口には大きな期待はできないので新宿通りを流してみたり、山手通りや明治通り、あるいは外苑西通りを南下してみたりするほうが売上は期待できます。


 新宿西口、夜の営業について


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昼間はあまりうまく営業できないと言いましたが、夕方からは非常に良い街になります。超高層ビルから帰宅するビジネスパーソンが次々と降りてきて、西新宿は人で溢れるようになります。そのまま駅に向かう方がほとんどですが、タクシーを使って移動する方もいるため、この時間帯は流す価値があります。とはいっても交通の便が非常に良いのが新宿の特徴なので、ロングが出るかというと難しいところはあります。新宿駅まで辿り着けば簡単にどこへでも行けるわけですし、地下通路まで整備されているわけですから。このような事情なので、ビジネスパーソンが手を上げてくれたらラッキーくらいの気持ちで少し流したあと、新宿の周縁部へとタクシーを向けます。できればお客さまを乗せて移動しているのがベストですが、見切りをつけて外に出ることがあります。


新宿は非常に懐が深い街で、タクシーで長距離を移動するお客さまはあまり多くないと書きましたが、その一方で、短距離を移動するお客さまは非常に多いという特徴があります。特に夕方が近づいてくると街が一斉に動き出すので、そこを狙います。ビジネスパーソンが退社すると同時に、その中には飲食店に向かう方もいます。そうすると、飲食店としてはスタッフを増やして対応する必要があります。そこに需要が生まれます。飲食店といっても、ガールズバーやキャバクラなどについては、女性スタッフがタクシーで出勤することがとても多い。お店によってはタクシー移動でも交通費が出ることもあるのでしょう。夜のお姉さんたちはギリギリまでお洒落をして遅刻寸前なのか、タクシーに乗るやいなや「急いでください!!」と言うことも多い。運賃にすると1000円前後のことが多いですが、このようなお客さまが無数にいるのが新宿なので、動けば動くほど成果を出すことができます。


特にお勧めなのが方南通りと小滝橋通り、大久保通りです。すぐに手があがり、歌舞伎町までと言われ、歌舞伎町に辿り着いたあとは素早く離脱して元の場所に戻ります。ロングが出る可能性は極めて低いですが、確実に売上を伸ばすことができます。ロングが出るとなると、港区、中央区、千代田区の都心のほうが確率は高いです。なので、そちらに向かう手もありますが、たまたまお客さまの目的地が都心のほうであれば、そのまま都心で営業すればいいと思います。ただ、都心は都心で激戦区です。新宿西側の広大なエリアを利用するのは快適に感じるかもしれません。手堅いところがあるので個人的にはとても好きです。特に方南通りの奥のほうから歌舞伎町までであれば2000円程度は積み重ねることができます。夕方から19時くらいまでの時間帯でコツコツと積み上げていくと、一日の売上の見通しが立ちやすくなります。


そして、23時頃になってくると段々と稼ぎ時になってきます。ただ終電前の新宿駅は正直言ってあまりチャンスはありません。駅から歌舞伎町のような短距離のお客さまが多いからです。しかし、最終電車を逃す人は必ずいます。新宿西口のタクシー乗り場は、小田急線や京王線の乗り口が近い。なので、思わぬロングが出る可能性があります。西新宿の街は、夜遅くまで飲み歩くような雰囲気ではありません。それでもさすが新宿で、0時過ぎても空いているお店はあります。そのチャンスに賭けて乗り場に並ぶのもありだと思います。23時頃から並び始めるとちょうどいいかなというところですが、2時近くなると誰も居なくなって、タクシー乗り場に並んでいたタクシーも三々五々に散って行きます。22時半とか23時頃から並び始めるとちょうどいいタイミングでいけると思いますが、このあたりは人の流れにもよるので難しいところです。


「歌舞伎町まで」という悪魔のワードが頻発するので、ある意味では天国か地獄かの乗り場と言えます。歌舞伎町までは1メーターでいけますし、そこそこ渋滞しているので入るのも脱出するのも時間がかかります。さらに、出勤時間ギリギリのホストやホステスがお客さまの場合には、後ろから厳しい声が飛んでくることもあります。そういうわけでなかなか大変です。逆に、新百合ヶ丘までとか、府中までと言ったまま眠っていただけるお客さまはとても嬉しいお客さまです。もちろん、お休みになられるまえに詳しい住所を聞いておくことは大切です。「道は言うから大丈夫」と言われた場合でも「住所教えていただけるとお休みになれますけど大丈夫ですか?」と少し粘ります。住所をナビに入れられれば間違いはなく、一番楽だからです。


西新宿にはバスタ新宿もあります。西というよりは南新宿なのですが、西新宿からのほうがやや行きやすいです。こちらは長距離バスの発着所となっていますし、時折そこそこの距離は出るようです。しかしながら、タクシーで長距離移動するお客さまはそもそも長距離バスをあまり使わないので、勝算は低めかなと思っています。ただ、バスタ新宿の中は、バスかタクシー以外は入って行くことはできないため、少し楽しいです。入ってみてお客さまが並んでいるようならチャンスですが、そういうことが多い場所ではないため、少し微妙です。しかしながら、バスタの坂を登って入って行くのが楽しいと、ちょっと覗いてみるドライバーは多い。


 まとめ


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  • 新宿は東京最大の繁華街で、西新宿は高層ビルが建ち並ぶオフィス街
  • 昼の新宿西口はやや難しいものの、人が多い街なのでチャンスはある
  • 夕方から夜は、西側を広く探り、終電前後はロングに賭けよう!


新宿西口の営業について考察してみました。正直いって人気のあるエリアとはいえませんが、営業の合間に通過することはとても多い街です。労働人口が多く、タワーマンションなどもあるので、とりあえず覗いてみる価値がある街です。圧倒的なカオスが包み込んでいる東口、歌舞伎町とはまったく違っています。ただ、同じ新宿エリアとしてリンクはしていて、西口から東口へと移動するお客さまはとても多い。場合によってはショートが連発するので、それを嫌うドライバーもいますが、コツコツ積み重ねられるので調子が悪いときにはお勧めのエリアです。

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