タクシー会社にあるタクシードライバーのための仮眠室とは?

公開日:2024/09/20 00:52


タクシー会社のホームページを見ていると、仮眠室や休憩室が綺麗だとPRしている会社が多いことに気づきます。ただタクシーの仕事がよくわからずに見ると、仮眠室で寝ないとやっていられないようなハードな仕事だと思ってしまう方もいると思います。ハードなことは間違いないのですが、仮眠と仕事を繰り返すようなタイプの仕事ではありません。よって仮眠室や休憩室をまったく使わないドライバーも多数います。それなのに、どうして仮眠室や休憩室がPRされるのかというと、タクシー会社がPRできる数少ないものの一つだからかもしれません。というのも、この仕事は出勤してタクシーに乗ったあと、長い人では20時間も営業所に戻ってきません。なので、仮眠室なんて関係ないというドライバーが多いのです。


仮眠室どころか営業所が豪華である必要などないという人もいる一方で、生活の一部として会社のインフラを利用するドライバーもいます。そういうタイプにとっては、仮眠室や休憩室、シャワーやお風呂、食堂の有無は大切な判断材料になります。2023年時点で既にあるかどうかは把握していないのですが、そのうちサウナがあるようなタクシー事業所が生まれてくるのではないかという気がします……と思って検索したら、大手グループ会社に見つかりました。


ここに所属しているドライバーは、仕事上がりにお風呂に入って、サウナでくつろげるようです。個人的にはタクシー乗務のあとにきつめのサウナに入るとそのままひっくり返ってしまいそうですが、このあたりは人によります。個人的にはぬるめのお湯に入ってからストレッチで身体をほぐしたいとは思いますが、サウナはいりません。しかし、サウナを愛するおじさん世代とタクシードライバーはしっかりと一致するので、需要はかなりあると思います。


さて、この文章では、外の世界から見えづらい仮眠室という存在についてご紹介したいと思います。



 タクシー会社にある仮眠室

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仮眠室とは、その名の通り仮眠する部屋です。いろいろな会社の仮眠室を覗いてまわったわけではないのですが、聞いたところによると、二段ベッドが多数並んでいる部屋であったり、布団を自分で敷いて寝るような部屋であったりします。今のところ個室のところは聞いたことがないですが、そうなると仮眠というよりも本格的な睡眠を取ることになってしまうので、恐らく個室はないと思います。私が務めていた会社の仮眠室は、二段ベッドが8台くらい並んでいました。つまり16人が眠れるわけですが、そんなにたくさんのドライバーが眠っていたことはありませんでした。私の場合は遅番と言われるシフトが主で、帰庫して仕事を終えるのが昼近くになっていたせいかもしれません。それでも3~4人は常連の仮眠ドライバーがいました。もしかしたら早番の場合には仮眠室を利用する人はもう少し多いのかもしれません。特に午前2時や3時に仕事を終えて、始発で帰宅するようなドライバーの場合には、利用することが多いかもしれません。そういえば女性専用の仮眠室がどうなっていたかは把握していないのですが、更衣室の奥に仮眠室があったことから、もしかしたら女性専用の仮眠室やシャワーがあったかもしれません。


仮眠室を用意する側のタクシー会社としては、あくまでも仕事の効率を高めるために利用してほしい設備なので、仮眠室を悪用されてしまうと困ります。例えば、仮眠室で寝泊まりするドライバーがいないように警戒をしていて、利用可能時間などが厳しく決められています。かつて、家を解約してしまって住み込みになったドライバーがいたという話は方々で聞きますが、やはりあまり良いことではないので、会社側も禁止しているようです。


 タクシードライバーが仮眠を取る理由

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次に、どうしてタクシードライバーが仮眠室を使う必要があるのかについてご説明します。タクシー運転手が公園の横や、ホームセンターやスーパーの駐車場に車を止めて眠っているのを見かけることがあると思います。これはサボっているように見えますが、実はそうとは言えません。タクシー運転手はお客さまの命を預かる仕事であるため、常に万全の状態で運転する必要があります。事故を起こしてしまったときはお客さまだけではなく、社会にも迷惑をかけてしまいますし、誰かを怪我させてしまったり、命を奪ってしまったりする危険すらあります。そのため体調が整わなかったり、眠気を感じたりする状態では運転するべきではありません。そういった事情があるため、調子を整えるために仮眠は推奨されているのです。営業所が近い場合には戻って仮眠室を使いますし、遠い場合には駐停車しても問題のないところに探して、休息を取るようにします。


他の仕事だと自然と休息時間は取れるものですが、タクシーの場合には気がつくと6時間運転し続けているということもよくあります。そうすると自然に疲労して意識のレベルが下がってきてしまいます。そういうときは、車を止めて、ネクタイを緩め、椅子を倒して仮眠します。仮眠は15分程度で十分なはずなのですが、人によってはもっと長い時間眠っています。場合によっては6時間を超えて眠りこけてしまうこともあって、これは立派なサボりといえます。ただ、眠気があるのに営業するのに比べれば、眠っているほうがまだましです。流石に6時間を超えると注意されるタクシー会社もありますが、個人の裁量に任せて全然気にしないという会社も多いです。運転手がさぼったところで本人の収入が減るだけという考え方です。ただ、それだと会社がまわらなくなってしまうので、競馬の騎手がムチをいれるかのごとく、頑張れ頑張れと言ってくる社風も見受けられます。このあたりが会社の個性であり、文化であるといえます。


このようにタクシードライバーは自由に仮眠を取ることができるのですが、そもそも休憩時間の設定はどうなっているのでしょうか。一般の仕事だと、8時間勤務した場合には60分。6時間以上の場合には30分などが労働基準法によって定まっています。タクシーでも同様なのですが、隔日勤務とよばれる2日分まとめて働くやり方の場合には、3時間の休憩を取るのが基準となっています。3時間の取り方はドライバーの裁量に任せられていますが、厳しい会社ではしっかりと車輪を止めている時間が3時間以上ないと始末書という会社もあります。3時間という休憩時間は、体力のない人には厳しいですが、体力がありあまっている人には多すぎます。なので、体力に自信のないドライバーは、3時間をまるまる使って休憩を取ったり、さらにはみだして4時間、5時間と休んだりします。逆に体力が余っているドライバーは最低限の休みだけを取って、タクシー乗り場に並ぶ時間などをうまく使って休憩時間を消化していきます。さらに疲れた時間に休むというよりも、お客さまが少ない時間帯に休むようにします。自分のペースで休むというよりも、いかに稼ぎを減らさないように3時間の枠を消化するというような考え方です。


 タクシードライバーの一日

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最後にタクシードライバーが具体的にどういう一日を過ごすのかを見てみましょう。仮眠室をいつ使うのかについても逐次言及していきます。


筆者は遅番の隔日勤務でしたので、14時半頃に営業所へ行って15時に出庫します。ただ、日によっては出勤前にどうにも眠いことがあります。なので、12時半くらいに営業所に行って、2時間くらい眠ってから営業をすることもあります。家で寝ればいいのですが、会社で寝るのもいいものです。家で直前に寝てしまうと、寝坊して遅刻する可能性があります。しかし、会社で寝ている分には遅刻することはありません。もちろん、会社で寝坊することもあるかもしれませんが、所長に「仮眠室で寝ています」と言っておけば誰かが起こしてくれます。15時の点呼の時間に間に合えばいいのです。


15時に出庫してからは都心を目指します。この時間帯はあまりお客さまが多くありません。17時を過ぎると帰宅ラッシュがはじまるのでお急ぎの方はタクシーを使うことがあります。17時から20時までは稼ぎ時なのでせっせと運転します。そして20時頃から、22時からの「青タン」(深夜割増料金時間)までは休憩にあてるドライバーが多いです。この時間帯は、トイレがある公園の脇にはびっしりとタクシーが止まっています。特に喫煙ができる場所が人気です。たまたま営業所の近くにいるときは一度戻って仮眠室を使うこともあるかもしれませんが、基本的には、この時間帯は戻りません。22時からは稼ぎ時です。人にもよりますが、2時、3時までは営業を続けます。稼ぐ意識の強いドライバーは、割増料金が終わる5時まで休まずに営業を続けます。私の場合は、3時を過ぎるとかなり眠くなってくるので仮眠をします。コロナ禍で緊急事態宣言が出ているときはどうにもならないので、延々とふて寝をしていました。場合によっては自宅に戻って眠ったり、営業所の仮眠室で眠ったりすることもありました。


人が少なくても営業しているほうがいいに決まっているのですが、余計な違反をしてしまう可能性があるので、無理せず休むのも作戦のうちです。とはいっても、それはコロナ禍の例外的な話で、この時間帯はなるだけ寝ないほうがいいです。どこで仮眠を取るかについては、朝方どこで営業をするかによって変えます。私の場合は、朝方は新宿を狙い撃ちにしていたので、都庁の近くで仮眠を取っていました。世田谷区のほうで営業をするドライバーは、近くまで行って仮眠を取ります。早番のドライバーはこのあたりで帰庫の時間となります。帰庫時間に遅れるのはどの会社でも厳禁なので、回送にしていそいそと車庫へと向かいます。戻ったドライバーは精算処理をして、洗車をします。それが終えたらお役御免ですが、電車で通ってきているドライバーは始発まで仮眠室で眠ることがあります。この時間帯にもっとも仮眠室が使われるはずです。


遅番の私は、朝の時間帯も営業をします。ギリギリまで営業すると10時までやっていられました。朝の7〜10時はなかなか忙しい時間帯なので、やればやるほど稼げます。やめどきを間違えてうっかり車庫と反対方向に飛ばされてしまったときは始末書コースです。売上を取るか、始末書を回避するかの二択は、疲れた脳を常にゆさぶります。帰庫するとまずは精算処理です。手書きの業務日報から精算する会社もありますが、最近はタクシーメーターに入っているICカードのようなものを使って、自動的に金額が出ます。福祉券やタクシーチケットなど、ドライバーが手書きで処理をするものもあったため、疲れた頭で何とか計算します。私は疲れるとミスが増えていたので、いつも事務のお姉さんに怒られていました。それもタクシードライバーあるあるです。


そのあとは洗車をします。最近は洗車屋さんに会社が依頼しているので、ドライバーは自分の荷物だけ回収すればそれで終わりということもあります。洗車をする場合には、まずは全体を洗車機で洗ってから、ボロタオルで綺麗に拭き取っていきます。内装を拭いて、消毒をし、シーツを変えて、掃除機をかけます。マットを綺麗に洗ったあとは、人によってはホイールを外して中まで洗うこともあります。


そこまで終わったら、あとはロッカールームで着替えます。シャワーを浴びたり、お風呂に入ったりしてやっとリラックスタイムです。そのあと、仮眠室に入って眠るか、家に帰って眠るかが悩みどころです。元気なときは仮眠室で寝てから遊びに行くこともあります。仮眠室で眠るときはお酒を飲むことができないので、睡眠の質が高いです。家に戻るとついつい晩酌ならぬ昼酌をしてしまうので、コンディション調整が甘くなります。そういう意味で仮眠室を使うことがありました。いつも仮眠室を使うドライバーは、仮眠することで仕事の疲れを吹き飛ばしてから活動するというサイクルができているのだと思います。


 まとめ


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  • タクシー会社には仮眠室があって、自由に使うことができる
  • タクシーの仕事はドライバーの裁量で休憩が取れる
  • 仮眠室を使うタイミングは主に乗務が終わったあと


仮眠室の使い方を紹介しました。ほとんど使わないというドライバーがいる一方で、仮眠室がないとやっていられないくらい頼りにしているドライバーもいます。都心まで営業に行くドライバーにとって仮眠室を使うタイミングは限定的ですが、営業所の近くで仕事をしているドライバーの場合はもっと使う機会は多いかもしれません。仮眠室で眠るときには、非常によく眠れます。疲労もたまっていますが、そもそも、どうしようもなく眠いときだけしか仮眠室を使わないからです。眠れない時間が長い分、眠れるありがたさを感じられるのもタクシーの仕事の醍醐味です。

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