タクシードライバーが洗車を大切にする理由とは

公開日:2024/09/20 00:52


みなさんはタクシーを拾おうと思ったとき、ピカピカのタクシーとドロドロに汚れたタクシーがあったとしたら、どちらを選びますか。選択肢がないときはドロドロの車であっても仕方がなく乗るかもしれませんが、ほとんどの方はピカピカのタクシーを選ぶと思います。タクシードライバーは選ばれるのを待つしかないので、少しでもタクシーを綺麗な状態に保とうと努力しています。そういう意味で一番いやなのは通り雨です。雨が降ると、空気中の塵などが一緒に落ちてくるのでタクシーが汚れてしまいます。そのままずっと雨ならいいのですが、すぐに晴れる場合は最悪です。泥だらけの汚いタクシーになってしまうからです。


営業再開する前に洗車するか、拭き取り用の簡易タオルをトランクにいれておいて、それで綺麗にする必要があります。一度だけならいいのですが何度も通り雨があると何度も拭かないといけないので非常に面倒です。通り雨が何度も降ることはそれほど多くはないのですが、黒いタクシーを使っているときは、かなり汚れが目立つの大変です。


というわけでタクシーの汚れは営業成績にも直結するので非常に重要です。ただ、それほど気にしないタクシードライバーもおり、このあたりは性格がでるところです。この記事では、タクシードライバーが洗車とどう付き合っているのかをご紹介したいと思います。



 なぜタクシーを洗車するのか

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タクシーの洗車は一日に一回行います。乗務の終わりにドライバーが行うのが基本ですが、駐車場に屋根がなければ、乗務前に洗車しなくてはならない場合もあります。ワックスが効いているタクシーは、丁寧に洗うとキラリと輝く美しいボディになります。この輝きがお客さまを呼び寄せてくれるし、満足感もおぼえていただけるだろうと考えて、タクシードライバーは丁寧に洗車します。もっとも、最近は洗車屋に外注し、ドライバーは洗車しないというケースもあります。このケースについては後述します。


洗車する最大の理由はお客さまが来るかどうかというよりも、相番にうるさく言われないようにするためというのが本音かもしれません。1台のタクシーは相番と言われる2人体制で使います。例えば一人のドライバーが午前7時に出庫して、翌日の午前3時に帰庫するというシフトだとします。午前3時に帰庫したあと、洗車して、4時頃にはタクシーが綺麗になります。その2時間半後、午前6時半くらいになると次のドライバーが現れて、7時に出庫し、20時間後の午前3時には帰ってきます。そして、午前7時には最初のドライバーがまた乗ります。公休という誰も乗らない日もできますが、そういう日は車のメンテナンスにあてたり、担当車が使えないドライバーが乗ったりします。事故などのトラブルがあって、相番の車が戻ってこない場合には代わりのタクシーに乗ることもありますが、戻ってくるまで営業所で待ちぼうけになることもあるようです。


これが相番のシステムなのですが、洗車を怠ると、この相番の人に怒られます。基本的にはピカピカの状態にして次のドライバーへと受け渡すのが当たり前です。燃料ももちろん満タンにしておきます。もしもピカピカでない場合には、次に使う相番のドライバーが、出庫前に洗車し直す必要があります。それは明確に負担になってしまうので、トラブルの原因になります。つまり、洗車が雑な相番がいると、出庫前にいつもイライラすることになってしまうわけです。どの程度までしっかり洗車するかは人によって違うので、なかなか難しいところではありますが、なるだけ完璧に近い洗車をしようと努力するべきです。相番とは裏表のシフトなので直接顔を合わせる機会はあまりありません。そのため、洗車の出来だけがコミュニケーションになります。タクシードライバーは、対人関係のストレスが非常に小さい仕事なのですが、相番と洗車の問題だけは少し厄介です。


このへんは配車係の側でも気にしていて、洗車について神経質になるドライバーの相番は、洗車を丁寧にする人を一緒に組ませるようにしているはずです。洗車が大雑把でも相番が気にしなければ問題ないわけです。逆にいうとどれだけ頑張っても、相番が細かすぎるとどうにもなりません。というわけで、相番次第で大変になるのが洗車ですが、普通にやっていれば問題はあまり生じません。こちらも後述します。


相番との問題はシビアなものですが、そこはクリアしたものとしましょう。タクシードライバーが洗車する理由としては、やはり心がすっきりするというのがあるのではないかと思っています。つまり、洗車するととても気持ちがいいのです。部屋の掃除などでも気分がよくなりますが、洗車は言うならばジャバジャバと水を使うので、まるで水遊びのような楽しさがあります。掃除をしたときにスカッとする感覚は、脳内にあるモヤモヤしたものも一緒に吹き飛ばしてくれるそうです。余談ですが、脳がとてもモヤモヤしたり、罪悪感に苛まれたりしている人は、掃除を徹底的にするようになると聞きました。タクシーは一晩一緒に戦った戦友です。その戦友をいたわりながら、隅々まで掃除をして、ピカピカになったタクシーをみながら職場を後にする。それはとても気持ちのいい瞬間です。


洗車屋さんに頼むと余計なお金を取られますし、この爽快感を味わうこともできません。なので、私は自分で洗車するのが好きです。またドライバーの中には、洗車の時間に仲間と談笑するのを楽しみにしている人もいます。こういった方は、洗車の合間にタバコをすったり、缶コーヒーを飲んだりしながら、その日の営業を振り返っています。タクシードライバーは、あまり同僚とかかわる機会がないので、この時間だけが交流のタイミングといえます。


 タクシーを洗車する方法

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洗車する方法を具体的に紹介したいと思います。まず、一番楽なのが外部の洗車屋に依頼するという方法です。LPガスステーションの周囲や、タクシーの営業所が多い地域では、深夜から午前中にかけて洗車を行っている専門の業者がいます。そこに車を預けると5分から10分程度で綺麗に洗ってくれます。料金は業者にもよりますが、1,000円から2,000円でしょうか。この料金は自腹です。実は私は外部の業者に頼んだことがないので詳細まではわからないのですが、一番楽な方法だそうです。なので、売上がすごく良いときに頼むと先輩が言っていました。ガソリンスタンドでも同様のサービスをしているところがあって、洗車屋と同じように綺麗に洗って水を拭き取ってくれます。筆者は外部のサービスは高すぎると感じるために使いません。


タクシー会社の営業所についてからも、同様のサービスを受けられる場合があります。同僚の一部が洗車屋になっていることがあります。免停期間中には、洗車屋になって日銭を稼ぐことがあって、このあたりはお互い様、助け合いの精神でお願いすることもあるようです。ただ、これは厳密に労働法に基づいている仕事というわけではなく、グレーなところもあるので、今後はなくなっていくと思います。


ここで洗車の手順を一つずつ紹介していこうと思います。まずは、洗車機にかけて一気に外側を洗います。洗車機のない営業所の場合には、まずは水を掛けてスポンジで丁寧に洗っていきます。洗車機の場合には水洗いもしてくれるのですが、ない場合はホースの水をかけて洗剤を流していきます。この工程のときの注意点はあまりなくて、とにかく漏れがないように洗って流すだけです。車高が高い車の場合には、台に乗らないと天井が洗えないのは注意です。行灯(あんどん)と言われているタクシーの上についている突起パーツは、タクシーの魂のようなものなので、特に丁寧に洗います。


次は水を拭き取るわけですが、いきなり拭き始めても水量が多すぎてタオルが何枚あっても足りません。なので、水を切る専用の道具を使って、ざっくり水を切っていきます。この行程がないと、バスタオルが4,5枚あっても足りないかもしれません。私は自分専用の高性能な水切りを持ちこんでいました。タクシードライバーをしていると、いろいろな洗車道具や車の中で使う小道具が欲しくなります。なるだけしっかり水を切っておくのがコツです。切り終わったあとは、ボロタオルで丁寧に水を拭き取っていきます。夏場や日なたで作業するときは、急いで拭き取らないとあっという間に蒸発してしまいます。そうすると水垢がついてしまうので、しっかり冷やして急いで拭くか、日陰に車を移動させます。ガラスやボディについては、すぐに拭き取れますが、立体的なパーツについてはしっかり拭き取る必要があります。


具体的には、まず上部の行灯です。会社にもよりますが、複雑な形をしているものもあるので丁寧に拭き取ります。続いて、ドアバイザーです。こちらは想像以上に水がたくさんついているので、この時点でタオルがびしょびしょになることもあります。次はドアノブです。ドアノブは可動式になっているので、ガチャガチャしながら水滴をすべてとります。ドアノブの拭き方が甘いとあとで水が垂れてきて、水垢がついてしまうことがあります。つづいて前部と後部を拭いていきます。こちらも立体的な構造をしているので、なるだけ丁寧に拭いていきます。最後に、下部を拭きます。車体の下に回り込むところは水滴が溜まりやすく、また拭き忘れも多いのでしっかり拭いていきます。しっかり拭き終わったらマットを洗います。マットの汚れ具合にもよりますが、掃除機で砂利などを吸いとってから洗剤をつけたブラシでゴシゴシやったあとは、水洗いして水を切ります。大抵の営業所にはマットの水を切る機械があるのではないかと思います。


いよいよ洗車もフィナーレです。マットを干している間に車内を掃除します。シーツを交換する日は、外してから掃除機をかけます。そして、手すりなど人の手が触れるところを消毒してよく拭いていきます。お子様などが乗られたあとは窓の内側が汚れていることもあるので、こちらも綺麗にふいていきます。最後にハンドルやサイドブレーキなどドライバーが触るところを綺麗に掃除します。余力があるときは、ホイールを外して、専用のブラシで車輪をガシガシ洗っていきます。個人的にはここまで毎回掃除する必要はないと思うのですが、毎回やる人はやります。やはり綺麗になると気持ちがいいからというのが大きいと思います。ここまでやったらおしまいですが、日によってはワックスを掛けて拭き取る作業が入ります。時間にすると30分くらいですが、好きな音楽などを聴きながらやっていてもいいので、個人的には非常に楽しい時間です。


 洗車は勤務時間に含まれるのか

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最後はちょっとグレーな話も含まれるのですが洗車時間について説明します。洗車時間は乗務の前後に1時間とられる見なし勤務の時間に行うことになっていました。つまり、実際はもう少し時間がかかっても、給与が発生しないことになります。ドライバーとしてはこのくらい問題に感じないのですが、労働法を厳密に考えた時、勤務時間を厳密に計量していないのは問題があるそうです。今後コンプライアンスの遵守が厳しくなっていくにつれて、グレーゾーンにある洗車時間は変わっていくかもしれません。


タクシードライバーの残業については、残業手当が適正についていないという話もあって、このあたりも是正されるかもしれません。タクシー会社の経営に余裕があるわけではないので、中堅以下の会社にとっては厳しくなっていくかもしれませんが、タクシードライバーとしての待遇はよくなっていく方向に作用するように思います。


 まとめ


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  • タクシードライバーは自分のタクシーを洗車する必要がある
  • 綺麗なタクシーのほうがお客さまに選ばれそうな気がするし乗っていて気分がいい
  • 最近は自分で洗車しないで、業者に発注することが増えている


タクシードライバーの洗車についてみてみました。月に12回、日勤の場合には月に24回ちかくも洗車することになるので、タクシードライバーとは、ある意味ではもっとも頻繁に車を洗っている人たちだということが言えます。洗車には技術があまり必要ではありません。丁寧に洗って、丁寧に拭き取るだけです。車に愛情を込めて行えばピカピカになってくれます。


一方で、拭き取り方が雑だと輝きにどうしてもムラが出てしまいます。車を綺麗に清掃して丁寧に、丁寧に運転することで、お客さまに優しく、交通ルールもしっかり守って無事故無違反で営業できるようになります。そう信じつつ、今日もキラリと輝くタクシーで、お客さまをお待ちしています。

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