東京のタクシードライバーのご飯事情とは

公開日:2024/09/20 00:52


タクシードライバーはグルメというイメージがあるのではないでしょうか。テレビでも美味しいお店はタクシードライバーに聞くシーンをよく見かけます。実際に地方のドライバーは美味しいお店にとても詳しいです。というのも、お店の数も少ないですし、タクシードライバーとしても同じお店までお客さまを頻繁にお送りしたり、お迎えにいったりするからです。しかし、東京はというと……。東京にはお店の数が多すぎます。東京都にある飲食店の数は8万を超えています。ラーメン店だけでも2000店ちかくあるようなので、詳細に把握しているドライバーは存在しないことでしょう。何せ、一日一杯食べても全店回るには6年かかるわけです。


それ以外の理由もあって東京のドライバーはグルメとは言いがたいと思います。まず大まかに分けると、半数のドライバーはご飯など食べている暇がないほど売上をあげることに熱心だからです。タクシーの乗務中にゆっくりご飯を食べている時間などないのです。食べるにしても手早くエネルギーをチャージして、タクシーを走らせるほうが売上はあがります。東京の街はどこを走っていてもお客さまに遭遇するチャンスがあるからです。逆に地方の小さな都市の場合、駅前か、無線で迎車に呼ばれたときくらいしか営業チャンスがないというところもあると思います。


どうしてタクシードライバーが売上にこだわるのかというと、収入が増えるからというのが一義的にはありますが、一番の理由はタクシー仲間と張り合っているからではないかと思います。東京のタクシー営業は、ゲームのようなものです。それぞれが自分の得意な営業方法を使って、ハイスコアを毎晩競い合っているわけです。そして、自分の売上を仲間内に報告し、称賛されたり、励まされたりします。自分の道を探求して、東京の美食を追求するドライバーもいるとは思いますが、駐車場を探す必要があるため、非常に効率が悪い。無料駐車場がついているのはファミリーレストランやファーストフードくらいのもので、わざわざ身銭を切って有料駐車場に止めてご飯を食べようとするドライバーは少ないと思います。


もちろん、いないわけではありませんが、そんなことをしているくらいなら休憩時間をしっかりとって、営業にエネルギーを注ぐ方がいいと考えるほうが主流でしょう。というわけで、読者の皆様の想像とは少し違うかもしれませんが、リアルなタクシードライバーの食事事情をお伝えします。現役のタクシードライバーの目線で書くので、マスコミの方がイメージで描くタクシードライバー像よりもずっとリアリティがあるのではないかと思います。



 タクシードライバーはいつ食事するのか

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まずは、タクシードライバーがいつ食事をとっているのかについてご説明します。勤務時間のうち、どのタイミングで休憩を取るかはドライバーの裁量に任されています。つまり自由です。なので、原理的には、こういうことも可能です。出庫してすぐに銀座の駐車場にタクシーを置き、トランクに入っていたスーツに着替えて、ホテルのレストランでディナーを食べて、それから営業するというようなこともできるわけです。ただ、こんなことをするドライバーはいません。もしかしたら結婚記念日などに無理矢理やる人はいるかもしれませんが、極めて例外的です。どうしてかというと、乗務時間が削られると売上が減り、収入も減ってしまうからです。


仮にディナーに1時間半使うとしましょう。駐車場を探すのに30分かかるとします。すると2時間のロスとなります。個人の調べですが、東京のタクシードライバーの収入を時給換算すると2,000円から3,000円程度になるので、間をとって2,500円とします。2時間使ってしまうと5,000円の機会損失となり、駐車場代として1,000円がかかって、ディナーが8,000円のコースだとすると9,000円の出費、5,000円の機会損失で14,000円の支出となります。こういった計算を素早くするのがタクシードライバーなので、みんなそう考えるはずです。割に合わないなと。もう少し手軽にたべられる2,000円程度の定食だとしても、1時間かけたとしたら、2,500円の出費と、2,500円の営業機会損失となります。仕事中にそこまで払うのであれば仕事が明けた休みの日に、時間を気にせずのんびりと食べたいものを食べるほうがいいのではないかと思ってしまいます。長々と書いてきましたが、こういう事情で東京のドライバーは食事するより、さっさと営業に行くのです。


定食2,000円とかディナーコース8,000円というと随分高いイメージがあるかもしれませんが、東京のタクシードライバーが集う都心のエリアでは美味しいものは高い。安くて美味しいものは、ないことはないでしょうが探すのが大変です。例えば人形町の老舗の親子丼屋さんはとっても美味しいですが、結構な時間並びます。そう、安くて美味しいものは並んで時間を使わないと食べられないのです。先ほどご説明した通り、営業機会が失われ、駐車場もかさんでいくので逆に割高になってしまうのです。もちろん、行列店など美味しいお店を探しながら営業し、プライベートで行くということはできます。私はそういうタイプで、タクシーをしながら隠れた名店をいくつも見つけました。美味しいお店は、家賃の安い路地裏などにひっそりとあることが多い。家賃が安い分、材料に経費を掛けられるからです。一等地にある美味しいお店が安いということはほぼありません。


筆者はあまり目立った外食はしないのですが、それでも美味しいご飯でも食べないとやっていられないこともあり、そういうときには奮発します。ですが、やはり稼ぎたいのならば、高い飯など食べている場合ではないということになります。


 都内のタクシードライバーにおすすめの食事スポット

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それでもせっかくのグルメ記事なので実際にどういうものを食べることが多いのか、自分の経験、タクシー仲間からの聞き取り、他の見知らぬタクシードライバーの観察などを踏まえて紹介しようと思います。


とにもかくにも一番のネックになるのは駐車場、駐車スペースです。駐車するために余計なお金を使うのは避けなければいけません。400円の駐車料金がかかるということは、700〜800円の売上をあげないといけません。そう考えてしまうと、非常にもったいなく感じてしまいます。どうしても食べたいものがあるときは別ですが、駐車場に車を止めてご飯を探しに行くという行動を取るドライバーは珍しいと思います。


駐車場があるお店ならば、やはりファミリーレストランやファーストフードが第1候補になります。青山にあるファミリーレストランは、休憩場所になっている青山墓地が近いこともあって使っているドライバーをよくみます。店長さんも慣れたもので、ドライバーに最近の景気を尋ねているのを見ました。タクシードライバーは柔らかい生地の制服を着ているのですぐにわかります。ドライバーに縁があるところでいうと、江戸川区のほうまでお客さまをお連れしたあと、南砂町にあるマクドナルドにいくというパターンがあります。ここのマクドナルドは、タクシーセンターの近くにあるので、使ったことがあるドライバーは多いと思います。駐車場も広く非常に使いやすい。もちろん、マクドナルドにいこうと思って南砂町までわざわざ行くことはありません。お腹が空いたときに近くにどこかいいところがないかなぁと探すのがタクシードライバーです。


そんな中やはり一番強いのは牛丼チェーンでしょう。駐車場付きの店舗も多いですし、そうでなくても、路上に止めて短時間で食べるくらいなら違反は取られにくい。定期的に車を観察して、駐車禁止を取られないようにすることが大事です。駐車禁止となっている場所でも停車は可能ということで、すぐに車を動かせれば駐車ではなく停車です。従って、常に車を見ていて、注意されたり、監視員に切符を切られそうになったりした時には、すぐ動かせば何とかなります。牛丼は、安くて、早くて、うまいという基本原則を備えているので、タクシー乗務と非常に相性がいい。例えば10分少々で三ツ目通りにある牛丼屋さんでご飯を食べたあとは、猿江公園の脇までいって1時間くらい仮眠をとることもできます。駐車場でそのまま仮眠してしまうと迷惑になってしまうことがあるので、駐車場の大きさや混雑する時間帯かどうかを見ながら判断します。


そして、隠れたエースがラーメンです。ラーメンはそれなりに割高なのですが、タクシードライバーが好きな要素が揃っています。早く食べられるので駐車場がなかったとしても料金がかさみません。また、最近のラーメン店のトレンドとして、都心部よりも郊外にお店が増えています。最近はインターネットを通じてお店の情報が伝わるので、郊外のわかりづらい場所に店舗があっても味が良ければ繁盛します。逆に味が良くなかったら、どれだけ場所がよくても流行りません。ということは、23区のあちこちへと飛ばされるタクシードライバーにとっては、行く先々で美味しいラーメンを探す楽しみができます。最近は貝出汁のラーメンが郊外に増えていて、乗務の合間にほっとするひとときを作ってくれます。ただ、二郎系などニンニクが強いラーメンは要注意です。車内ににんにくの匂いが充満してしまうと、お客様にとって最悪の環境になってしまうからです。にんにくが入っていないかどうかだけをしっかり調査してから、ラーメン店をじっくり探すのはタクシーの楽しみの一つです。特にありがたいのが24時間空いているラーメン店で、千駄ヶ谷にあるホープ軒には、昼夜関係なくタクシードライバーが集まって麺をすすっています。環七沿いにもラーメン店が多く、環七が近いときは試しに検索してみることもあります。駐車場がないお店も多いですが、路上に止めておいてもラーメン店ならすぐに外を見わたせるので、危険は小さいです。


いろいろ書いてきましたが、食事で一番よく使うのはコンビニです。駐車場がある店舗も多く、トイレもあって、24時間空いている上に、なんでも売っているコンビニは、タクシードライバーのオアシスです。ただ、疲れているとついつい棚の前をうろちょろしてしまうので、私の場合は買う可能性があるものを事前にリストアップしておき、悩まずに済むようにしています。


 稼ぐドライバーの食事とアフター食

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ここまで食事のことを書いてきましたが、実は食事についての最適解は食べないことです。というのも、食事を取ると、血糖値が上昇してしまいます。血糖値の増減で襲いかかってくる眠気がタクシードライバーの天敵です。一度眠くなってしまったら、休憩を取って仮眠を取る必要があります。しかし、もしもお客さまが乗っているときに眠気が来てしまったら……。ほっぺたや太ももをつねるなどして何とかしのぐしかないのですが、こうなると地獄ですし、何より危険です。しかし、食べなければこういう目に遭うこともありません。


食べないでいてお腹が持つのかについてですが、人間は水だけしっかり飲んでいれば2週間は大丈夫なはずです。なので、食事を1日抜くくらいは問題ありません。空腹感を感じたときは、コンビニでナッツ類や卵、サラダチキンなどを購入すれば十分です。炭水化物は眠気を招くのでなるだけ取らないようにします。もっともこのあたりは人によりますが、20時間の乗務であればおにぎりを2つも食べれば十分ではないかと思います。


また、タクシードライバーのシビアな問題としてトイレがあります。オフィス勤務とは異なりいつでもトイレにいけるわけではありません。そのため、頻繁にトイレに行きたくなってしまうと営業になりません。よくあるのが、トイレ行きたくなったなぁと思っているときに手があがり、お客さまが指定された場所がとても遠いというケースです。こうなるともう我慢するしかありません。お客さまを送り届けたあと、回送にして、急いでトイレを探すのもタクシードライバーあるあるです。


 まとめ


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  • 東京のタクシードライバーはそれほどグルメなわけではない
  • 駐車場がある、ファミレス、ファーストフード、牛丼店、コンビニによく行く
  • 稼ぎを最大化しようと思ったときには食事を最低限で済ませることが有効


東京のタクシードライバーの食事事情を書いてみました。読者の皆様が想像されていたのとは少し違うテイストのような気がしますが、非常にリアルな内容になっていると思います。東京でも、ローカルといわれる周縁部の地域でのんびりやっているドライバーはまた少し違うかもしれません。また、飲食店自体があまり多くない地方都市の場合も事情が異なります。


タクシードライバーは美味しいお店を聞かれることがあるという話がありますが、東京では聞かれたことはありません。ただ「可愛い子がいるキャバクラを知らないか」というのは聞かれました。その方面は自然と情報が入ってくるので、無事にご案内できました。

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