タクシーは近い将来自動運転になるのか?

公開日:2024/09/19 10:38


タクシードライバーはいずれなくなる職業だと言われることがあります。というのもAIに制御された自動運転によってドライバーが不要になると言われているからです。経済誌などを読むと「近い将来なくなる仕事」の代表としてタクシーをはじめとしたドライバーがあげられていることがあります。


実際に自動運転はすごい速度で技術力があがっています。テスラ、Appleや、Googleの関係企業であるAlphabetなどの巨大企業が、信じられないほどの資本量を投入して研究を続けているので、自動運転は近い将来もっと身近な技術になっていくと思います。Google系の別会社であるWaymoについては、アメリカのアリゾナ州において、2018年から自動運転タクシーサービスを展開しています。当初はフェニックスでのみ提供していたサービスでしたが、2021年にはカルフォルニア州サンフランシスコでも運用を始めたとのことです。横断歩道や路上駐車も問題なくクリアし、無人タクシーとして実用化されているとのことです。


日本でもロボット系のベンチャーZMPと大手タクシー会社日本交通が協業して、自動運転タクシーの実用化を目指しています。他にも、日産自動車とDeNAも、自動運転を活用した交通サービス“Easy Ride”が共同開発されているなど、自動運転の実用化に向けた流れは活発化しています。


この記事では、自動運転がどのようなものなのかをしっかり確認したあとに、本当にタクシードライバーの仕事は失われるのかどうかについて考えてみたいと思います。



 自動運転の前段階となるアシストシステム レベル0〜2


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自動運転について考える際には、「レベル」についてしっかりと把握しておく必要があります。日本政府やアメリカ政府が、自動化のレベルを0から5までの6段階に分類しています。そして、自動運転の精度がレベル2なのか、それともレベル3なのかによって随分と話が違っていることがわかるはずです。


まずは、レベル0です。この段階では、ドライバーが常にすべての制御を行います。つまり、アクセルを踏むこと、ハンドルを握ること、ブレーキを踏むことです。ただし、前方にある障害物や車両などに衝突しそうになったことを感知して警告する機能については、車両の制御に影響しないため、レベル0に含まれます。要するに普通に車を運転するのがレベル0です。自動運転に対して、完全手動運転といえるべきステージです。


次はレベル1です。この段階は「運転支援」といいます。加速、操舵、制動の3つのうち1つだけを支援できるものです。加速、操舵、制動というと何のことなのかわかりづらいので、この記事では、それぞれアクセル、ハンドル、ブレーキと書くことにします。例えば、衝突しそうなときに、衝撃を緩和させるためにブレーキをシステムが行うものなどが含まれます。アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)という、主に高速道路で利用されるシステムもレベル1に含まれます。このシステムにおいては、前方の車両との距離を測りながら、速度が自動で調整されます。


さて、レベル2の「部分自動運転」です。このあたりから段々と自動運転らしくなってきます。レベル1がアクセル、ハンドル、ブレーキを1つだけサポートされていたのに対して、この段階では2つ以上をシステムが代行します。といっても何のことやらわからないと思うので具体的にご紹介します。アダプティブ・クルーズ・コントロールというシステムでは、前の車両などの周辺環境をセンサーで確認し、アクセルとブレーキがサポートされます。これによって高速道路では、運転手は座っているだけで勝手に車が進みますし、渋滞などになれば自然と止まることが実現されます。ただし、あくまでも支援システムなので、ドライバーは運転席に座って、常時前を見て備えておく必要があります。レーンキーピングアシストというシステムも併用すると、高速道路に乗っている間は、かなりリラックスできます。言うまでもないですが、運転の難易度としては、一般道の方がはるかに高い。高速道路は信号もなく、駐車車両や歩行者などもなく、右左折などもしなくていいため難易度が低い。車を制御するという意味での難易度も低いですし、周囲の環境を正確に察知する難易度も低い。従って、まずは高速道路で自動運転を実現し、続いて一般道へという流れになっていきます。


レベル2は自動で運転されているように思えますが、あくまでも運転しているのはドライバーで、システムはサポートしているだけです。従って事故などが起きた場合には、責任はドライバーになります。よそ見をしている間にぶつかってしまったら脇見運転となるわけです。こういった事情から、10秒程度ハンドルから手を離すと、運転手が席を離れたとみなされてアシストシステムも解除されるなどの対策がなされています。ここまでが自動運転の前段階となる運転アシスト機能です。


 自動運転とは何なのか レベル3〜5

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自動運転レベル3は「条件付き自動運転」と言います。レベル2までとの決定的な差は、運転の責任者がドライバーではなくシステム側になることです。つまり、基本的にドライバーは運転する必要がなく、自動運転システムが運転します。ただし、自動運転システムでは運転を継続できないと判断された場合には、運転手に操作権限が移されます。つまり、運転手が控えとして備えていることを前提とするシステムと言えます。基本的には自動運転ですが、緊急時はドライバーが責任者になるのがレベル3です。つまり、ドライバーに責任がないときには、ハンドルを離していても、目をそらしていても良いことになります。


2021年に発売されたホンダ・レジェンドに搭載されているホンダセンシングエリートという機能では、限定的でありますがレベル3自動運転が実現されています。高速道路で渋滞し、時速30km/hから50km/hになったときにレベル3が実現されます。カーナビゲーション以外に、自動運転制御用の地図をもっており、車外の状況を監視するカメラやレーダーの情報とあわせて自動運転の制御に活用しています。


2022年に発売されたメルセデスベンツSクラスや、EQSクラスでも、ドライブパイロットというシステムが搭載されています。こちらも渋滞かそれに近い状態にあるときに、60km/hを上限に自動運転レベル3が実現されます。このシステムでは、交通標識や事故、道路工事などの情報も取得されるとのことで、より精度の高い自動運転が行えるそうです。


次はレベル4の高度自動運転です。日本ではこのレベルのことを「ドライバーフリー」と呼ぶことに決まったようです。つまり、ドライバーがいない無人自動車が実現された状態です。冒頭で紹介したWaymoの自動運転タクシーはこのレベル4の技術が用いられています。限定領域内において自動運転が実現された状態のことを指します。限定領域というのは、特定の状況、ある種の定義づけられた状況を指します。例えば高速道路上のみという定義づけをして、その状況下では自動運転ができるとする場合にはレベル4です。他にも大雨や大雪、台風などの極限環境を除くすべての状況という定義もありえます。この段階は、「ドライバーフリー」なので自動運転システムがすべてをこなします。ここまで来ると人件費が削減できるというメリットが生まれ、低料金での移動が実現できると考えられています。実際にこのレベルのタクシーが街に溢れるようになったとしたらタクシードライバーは失業していくことでしょう。ただし、特定の状況が終わった際には、ドライバーが運転する必要があります。


最後のレベル5は完全自動運転です。今、世界の企業はレベル5の実現に向けて技術開発を行い、さまざまな特許申請を行っています。より正確に言うと精度の高いレベル4を実現させ、商業ベースに乗せる争いが繰り広げられていて、その先に見据えられているのがレベル5です。アメリカと中国の覇権争いが繰り広げられていますが、著者がみている範囲では、レベル5を目指すと公言しているのはEV大手のテスラ社のみであることを考えると、アメリカが優勢のようです。レベル4では、大雨などの特定の条件下では自動運転が行えなくなりました。大雨や台風の時こそタクシーの需要が高まるのに、その時に使えなくなってしまっては意味がありません。自動運転レベル4を前提としてた社会は、災害に対しての脆弱性を抱えていると言えます。


 自動運転タクシーと日本の現状


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このようにレベルごとに自動運転について見てきましたが、我々タクシードライバーからするとレベル5、完全自動運転のタクシーがライバルということになります。レベル4は特定の状況から外れると自動運転が機能しなくなります。高速道路や幹線道路などの見通しがよく単純な構造の道路ではレベル4の自動運転が機能する可能性が高いと思います。一方で、我々タクシードライバーが主戦場とする夜の繁華街では自動運転が機能しないのではないかと思います。


というのも、路地という路地を酔っ払いとタクシーが埋めています。呼び込みなども平気で路上に出てきます。タクシーを止めるために、横から走ってきて目の前に立ち塞がるような人もいます。左折時に巻き込み確認といって、目視で内側を見るのですが、フード宅配サービスの自転車は、猛スピードで突っ込んできますし、場合によっては左折時に、「右側から」前に回り込んでくることもあります。死角どころか視界の外から突っ込んでくるので、何度も肝を冷やされました。夜の繁華街では、止まっていても人がぶつかってくることがあるくらいなので、無人タクシーの運転は極めて難しいと思います。これが実現したらレベル5ということになりますが、実運用にはかなり時間がかかりそうです。


また完全に自動運転が実現したとして、人間のドライバーが失業するのかというとこちらも疑問です。例えば深夜に渋谷から新宿に移動するというような運転であれば自動運転でも問題ないかもしれません。しかし、接待したお客さまを自宅までお送りするのに自動運転タクシーを使って、万が一のことがあってはいけないと考えてしまうのではないでしょうか。そういった意識はしばらくのあいだ残ると思います。そういう意味ではタクシードライバーの仕事は、ハイヤードライバーへの需要へとシフトしていくかもしれません。もっとも、自動運転が発展し、データが蓄積されてきたあとは、人間が操作するよりも交通事故が減少することが期待されています。しかし、VIPの送迎など安全性が求められる場合には、自動運転だけではなく、緊急時に対応できるようドライバーが注視して、即座に運転を代行できるようなシステムが設けられるかもしれません。また、自動運転であれば酔った状態でも帰宅できるということになれば、酔客の帰宅という需要も減少することが予想されます。多かれ少なかれ、自動運転レベル4の進展によって、需給状況が変化していくことが予想されます。


ところで、アメリカや中国ではレベル4のタクシーが続々と整備されてきていますが。日本では現状どうなっているでしょうか。日本ではまだ自動運転のタクシーは実現されていません。アメリカや中国よりも、技術が進んでいないことに加えて、道路が細かく、センサーが取得しなければいけない情報が多いためでしょう。現在は、山間部や高速道路などにおける6人乗りバスや20人乗りバス、あるいはゴルフカート型のバスなどが検討されています。いずれも決められたルートを辿る、自動運転バスのような想定となっています。


 まとめ


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  • 自動運転にはレベル0から5までの5段階がある
  • レベル2までは運転のアシストに過ぎないが、レベル3からはシステム側に責任が切り替わる
  • 日本での普及にはまだ時間がかかりそうだが、確実に進んでいくのではないかと考えられる


この記事では発展している自動運転について詳細にみてきました。自動運転にはメリットも多く、いずれは完全に普及するときがくるのではないかと思います。しかしながら、普及段階では事故などのトラブルも多く見られるでしょう。筆者の見立てではすぐに自動運転に切り替わると言うことはなく、10年から20年を目処に少しずつ切り替わっていくのではないかと思います。運転手としては仕事が残るかどうかの死活問題ですが、繁華街から低価格かつ安全に帰宅できる乗り物ができたとなると、ありがたいと思うのも事実です。自動運転の発展を見守りながら、今日も安全運転でタクシー営業を続けていこうと思います。

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