仕事自体がとても面白いことが最大の魅力です。一晩中運転を続けてお金をもらえるというのは、ドライブ好きの人にとってはたまらない環境です。さらにゲームのように毎日ハイスコアを競うことができます。お客さまとの出会いにも面白いものが多数含まれていますし、表には出せないような裏の世界を垣間見ることもあります。自分の営業区域については住宅街で細かいところまで走り回ることができ、楽しめました。好奇心が強く地理が好きな人にとっては「こんなに楽しい仕事はない」と思うでしょう。
先輩ドライバーから聞いたことがある話では、バブルの頃、お祝い金が100万円という会社があって飛びついたドライバーがいたそうです。しかし、入社してみたところ、勤務内容があまりにもブラックですぐにやめたくなってしまったとのこと。さらに悪いことにもらったお祝い金は、3年間勤め上げないと返還しないといけないという条件がついていました。半額はすぐに支給されたのですが、借金を返したり、遊んでしまったりしてすぐになくなってしまい……。
泣く泣くブラックな労働条件で3年間働いたとのことです。もちろんこれは昔の話です。現在ではタクシー業界の労働条件は良くなっていて、どちらかというとホワイトな業界になっています。不法な労働を強いる会社があった場合には、すぐに免許を取り消されて廃業になってしまうため、ブラックな会社はほとんどないはずです。とはいえ、そうそううまい話はないもの。お祝い金についても注意深く考える必要があります。
タクシードライバーの仕事を下に見る人がいないといっては嘘になります。もっともそういうタイプの人は、様々な職業を見下していますし、場合によっては政治家なども下に見ることがあります。そういった職業差別を気にしていては仕方がないのですが、そもそもタクシードライバーの仕事はどの程度の社会的なステータスなのかというところが気になる方もいるのではないでしょうか。
まず、法人所属のタクシードライバーは全員正社員として雇用されています。社会保険や雇用保険も完備されていますし、退職金がでることもあります。社会的なステータスがどういうときに問われるかとなると、住宅ローンが通るかについては、非常にシビアな問題になってくるのではないかと思います。実際に筆者はローンの申請をしたことがないのですが、知人の話によると住宅ローンはちゃんと通ったとのことでした。ただし、タクシードライバーには不利な条件もあります。というのも、歩合性で収入が安定しないことと、免許取り消しや事故などによって、仕事ができなくなってしまい収入が途絶えるリスクがあることです。そのため、審査が厳しい銀行のローン査定はなかなか通らないようです。もちろん、ドライバー職種ではなく、内勤の場合には話が違ってくるのではないかと思います。年収だけではなく、過去5年などさかのぼってしっかり稼げているかの確認や公共料金などの滞納がないか、消費者金融で借りたことがないかなどの信用情報も確認するようです。そういったハードルはありますが、少なくともコロナ禍の前までは住宅ローンを通すことはできたようです。
最後に、タクシードライバーの社会的なステータスとして、スナックなどの飲み屋でモテるかどうかというものがあります。これは個人的な感想なのですが、誰もが知っている共通の話題としてタクシーのことを話せることや、意外とあぶく銭をもっているというデータがあるせいなのか、それなりに人気がありました。それ以上にモテるかどうかはよくわかりませんが、筆者の周りでは恋人や家族がいるドライバーが多数派であったことから、それほどモテない印象はありません。
タクシーの仕事をはじめようと求人サイトを見てみると「お祝い金20万円」などと書かれているのを見かけることがあります。金額にはいろいろありますが、40万円、60万円という高額のものもあります。お祝い金とは、入社を決めた会社から贈呈されるお金のことです。ただ、会社に入社しただけでお金が入る夢のようなシステムだといえるでしょう。
実はこの記事の筆者は、お祝い金のシステムを知らずにタクシー会社に入ってしまったので、もらい損ねてしまいました。それについては今でも悔しく思っているので、気になる方はよく調べてから就職したほうがいいと思います。ただ、お祝い金だけで会社を選ぶのは少し危険です。
お祝い金の相場は10〜30万円ですが、場合によってはもっと高額なこともあります。筆者が知る限りの最高額は100万円です。となると、100万円が俄然いい条件だと思う方がほとんどだと思います。しかし額面が多ければ多いほど、支給される際の条件が厳しいことも予想されるので、そこをしっかり確認する必要があります。
タクシー会社としては、ドライバーに長期間働いてもらって、しっかり稼いでもらう必要があります。そして、お祝い金に払った分も、長期的には回収する必要があります。これは経営者ならば当たり前の考え方です。なので就職を考えるほうも、そのタクシー会社が何を求めているのかを推測して、適宜問い合わせる必要があります。
一番良くないのは、会社に入ってからこんなはずではなかったとなることです。これは、ドライバーにとっても、会社にとっても不幸です。タクシードライバーにとって一番幸せなのは自分にあった会社で、自分の望むレベルの強度の仕事をしていくことです。よくあるのが、友人がタクシードライバーをしていて、その人の意見を参考にして就職先を決めたのはいいものの、友人とは体力や運転技術が違いすぎて、あとで非常に苦労するというケースです。自分にとってどういう条件がいいのかをしっかり考える上で、お祝い金の多寡も検討材料にいれると良いでしょう。
では具体的にどういう条件が多いのかについてです。よくあるのが、勤務期間とのひもづけです。「お祝い金20万円を支給する、ただし、1年間は在勤すること」というような条件です。これは1年間であったり、長いところでは3年間というところもあったりするかもしれません。もちろん、すぐにやめるつもりで就職する人はいないと思いますが、思わぬ事情で仕事を続けられなくなることはあります。タクシーの仕事がどうしてもあっていないと感じることもあるでしょう。なので、在勤期間という縛りは、短いに越したことはありません。注意しなければいけないのが在勤期間が足りず、退職する際にお祝い金を返還するという条件があるかどうかです。これは会社によっても異なると思いますが、よく確認したほうがいいと思います。もしも返還する可能性がある場合には、使わずにそのまま取っておくのが賢明でしょう。
在勤期間はシンプルです。やめなければいいだけのことです。一方で、売り上げや走行距離などに条件がついている場合は注意が必要です。例えば、最初の3ヶ月間、隔日勤務1乗務あたり平均3万円を超えなければ支給されませんという条件があったとします。3万円は普通に営業していればまず達成できる売上額なので、この場合はほとんど問題ありません。ただ、この条件が5万円だったらどうでしょうか。
消費税を計算に入れない税抜5万円というのは、しっかりやれば達成できるけど、未経験者だと難しい場合もあるというラインです。平均で5万円の売り上げを作れるドライバーならば、月収でいうとおおむね35万円くらい、年収だと420万円くらいの稼ぎになるはずです。令和3年のタクシードライバーの平均年収は、コロナ禍で落ち込んでいたこともあり、東京でも約340万円、全国では296万円です。そう考えると、未経験者がいきなり420万円を稼ぐのはかなりハードルが高いといえます。
コロナ禍の影響がまだなかった令和元年の統計をみると、東京のドライバーの平均年収は約470万円なので、その時代であれば、しっかりと営業すれば十分に狙える数字でした。コロナ禍にあわせて制度を変更している会社もあると思いますが、そうではない会社もあるかもしれません。よく確認する必要があります。こういったコロナ禍の例外事項以外にも、超人級の活躍をしなければ達成できないという水準のものも聞いたことがあります。
具体的にいうと1乗務あたりの走行距離が350km以上になるというものです。東京でもっとも稼げる23区を中心とした地区では、走行距離の上限は365kmです。それ以上走ると始末書を書くことになります。ほとんど休まずに営業して、長距離のお客さんをどんどん乗せられるエース級のドライバーは「距離が足りない」などとぼやくことはありますが、普通のドライバーは上限に達することは滅多にありません。なので、未経験者がいきなり350km走るというのはほとんど不可能といっていい水準です。
一応、首都高などにのって、環状線をずっとぐるぐる回っていれば距離は稼げますが、そうすると売り上げがあがらなくなり、おそらくサボり行為とみなされて注意されることになるでしょう。仮にお祝い金が100万円に設定されていたとしても、このように条件が達成不能なほど厳しいということがあるかもしれません。一方で、100万円の設定であっても、3〜5年間勤務することが条件などであれば、会社としても十分に元は取れることでしょう。なので、最低でもその設定期間はしっかり務め上げることと、そのあともずっと在籍したいと思える会社だと思えることが大切です。
お祝い金は、どうしても金額に目がくらんでしまいます。求職者に魅力的だと思わせるのが目的のお金なので、そうなるようにできています。お祝い金が10万円の会社と30万円の会社があった場合、どうしても高額なほうがよく見えてきます。一般社会の常識でいうと、良い条件をつけて求人している会社には裏があるのではないかと勘繰ってしまうところですが、タクシー業界に関してはどの会社も人材不足なのであまり不自然なことではありません。なので、その点については怪しく思う必要はありません。一人を採用するのに100万円ちかくかかるというのが採用市場といわれています。そのため、10〜30万円のお祝い金であれば無理のない額面なのだろうと思います。50万円以上であっても、広告費と考えればそれほど高額ではないといえるかもしれません。
ともかく、お祝い金は怪しいものではないのですが、お祝い金だけで会社を決めるのはやめましょう。というのも、タクシードライバーにとって重要なのは入社時にもらえる額面ではなく、働きやすい会社でしっかりと収入が得られることです。10万円くらいの差は、気持ちよく働ければ、すぐに取り返せます。細かい話ですが、タクシー会社ではあまり交通費が発生しないことが多い。
そのため、往復の交通費が0円なのか、500円なのかで年単位では随分と支出が変わってきます。出勤日数が年間で144回あるとしたら72000円になります。10年勤めれば72万円です。車で通勤できる会社もありますし、原付きバイクや自転車のみということもあります。こういった諸条件によって、長期的な収入は変わってくるので、お祝い金に目がくらみながらも、中長期的に考えて、もっとも稼げそうな会社を検討する必要があります。
そもそも、どうしてお祝い金というシステムがあるのかというと、タクシードライバーが売り手市場であることがあげられます。つまり、どの会社もドライバーが足りず、経験者はもちろん、未経験者であっても常に探している状態だからです。
一般の会社では、従業員が不足していて、競業他社がある場合には、給与額などの待遇を良くすることで人材を確保しようとします。しかしタクシードライバーの給料は、売り上げに依存した歩合性となっているため、給与額はドライバーの努力次第となります。結果、稼げるドライバーはどの会社に行っても稼げますし、稼げないドライバーはどの会社であっても稼げません。これが原則です。
もちろん、歩率を上げることによって、ある程度給与を確保することはできますが、実はこれも「稼ぐドライバー専用の措置」となっています。どういうことかというと、タクシーの車両には維持費がかかります。車両税などの各種税金やメンテナンス費用、燃料代や保険代などです。このタクシーの維持費とドライバーの給料を払うとタクシー会社にはほとんどもうけがなくなってしまいます。というのも、売上額の半分以上がドライバーへの給料になってしまうからです。
したがって、1回の乗務で8万円稼いでくるドライバーは、会社に4万円残すことになります。3万円を稼いでくるドライバーは1万5千円です。この会社に残ったお金で、車両の維持費や、内勤の給料、家賃や光熱費を賄う必要があります。3万円のドライバーの場合は、もろもろの経費を考えると赤字か、よくてトントンくらいになるといわれています。4万円なら少し黒字で、5万円、6万円と売り上げがあがるごとに会社に残るお金が増えていきます。
そうなった場合に、ドライバーにも還元するのが歩率の基本的なシステムです。つまり、しっかり稼ぐ人は歩率がよく、稼がない人は歩率が低くなります。会社によって上がり方は異なるはずですが、稼がない人のほうが歩率はいいということはまずありません。こういった事情なので給与面での差をつけるのが難しくなっています。
稼ぎやすい会社はありますし、稼ぎづらい会社もあります。しかし、稼ぎづらい会社のトップは、稼げる会社の乗務員と比べても遜色ない給与額になっているはずです。タクシードライバーは自分の実力で稼ぐ仕事なのです。
こういった事情から給与面で差をつけることが難しく、その代わりにタクシー会社がPRするのは「働きやすさ」と「お祝い金」です。タクシーの仕事は決して楽とはいえません。いや、むしろ過酷な仕事というほうがいいでしょう。だからこそ働きやすい環境を作ることは非常に重要なのです。働きづらさを感じるとドライバーが退職してしまうからです。こういった背景から、働きやすさをPRするタクシー会社がとても増えています。
ただ、転職する際には、収入面について心配する人がほとんどです。そのため、収入面でのPRをしたいのですが、タクシードライバーの給与形態は複雑で、未経験者には暗号のようにしか見えません。例えば「隔日11〜13回、歩率50~55%から」などと書いてあります。未経験者には何のことやらですが、経験者であっても同じです。詳細な条件は電話するなり面談に行くなりして確かめる必要があります。
世の中おいしいだけの話はないもので、どんな魅力的な求人であっても、その中に大変なことは含まれています。会社目線でいうと、どこに魅力を作って、どこにネガティブな条件を入れるかを考えて、他社との差を出します。そんな魅力の一つであり、最大級の破壊力があるのがお祝い金という名の現金支給です。