タクシードライバー 報酬

公開日:2024/09/18 00:08


一般的なドライバーの様子を考えていきましょう。



 儲からないタクシードライバーの日常

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朝9時半に出勤して10時には出庫します。そして、営業所の近くにある駅のタクシー乗り場に並びます。武三地区における主戦場は、都心です。なので、周縁部の駅にいてもお客さんはあまりいません。さらに朝の出勤時間を終えた後に需要はほとんどありません。


あくびをしたり、タバコを吸ったりしながら1時間並び、地元の駅から自宅まで帰るお客さんを乗せます。1時間に1回、420円のお客さんを乗せた場合には、歩率が60%であったとしても時給換算すると252円です。会社によってはある程度の給与が保証されることもありますが、どれだけよくても最低時給分しか稼げません。月に200時間常務していたとしても、月収は最低時給分なので20万円程度になるでしょうか。


近所の駅で暇そうにしているドライバーの収入はそのくらいいけばいい方です。月収10万円を切る場合もあります。


さて、地元の駅で待ち続けているドライバーにもチャンスタイムは訪れます。夕方の帰宅ラッシュがまず一つ目。お客さんの数が多いので、さすがに時給252円ということはなくなります。とはいっても、長い距離を乗るお客さんはあまり多くありません。朝の通勤時間も同じようにチャンスがありますが、このドライバーの場合には朝のチャンスを逃してしまっています。勤務形態にもよるのですが、朝の営業ができる早番の仕事の場合には、なるだけ早く出庫する方が稼げるのは間違いありません。もっとも、ゆっくり出庫して夕方から夜を狙うドライバーの場合にはこの限りではありません。


天候が悪い日はタクシードライバーにとっては当たりです。短い距離であっても歩くのを億劫に思うお客さんが多いため、駅のタクシー乗り場には待機列ができます。長距離のお客さんこそ多くはありませんが、回転率が高まります。平均単価が500円であったとしても、1時間に5回乗せられれば売上は2500円、時給換算で1500円稼げていることになります。天候以外でも、電車の遅延や運行休止があったときもタクシーの稼ぎ時になります。


タクシードライバーにとっての一番のチャンスタイムは、終電の後です。公共交通機関であるバスと電車が止まったあとは、自力で移動するかタクシーで移動するかの二択になります。酔っ払って終電を逃してしまい、1万円を払ってタクシーで家まで帰るという経験は、多くの酒飲みに覚えがあることでしょう。


家まで帰るだけなのに1万円を払うのは高いと思う人もいるでしょうし、若い人ならばネットカフェなどで一晩を過ごすことも選択肢に入るでしょう。一方で、家庭持ちの男性などは浮気を疑われるリスクや、翌日の仕事に影響しないよう早く休みたいため、多少高くても早く帰宅したいと考えることもあります。


もっとも、この儲からないドライバーの場合は、地元の駅のタクシー乗り場に並んでいるため、終電後のロング客にはなかなか出会えません。たとえば東京メトロ東西線の東陽町駅のように、終電が車庫近くの駅で止まるケースの場合はチャンスが見込めます。東西線の終電は東陽町止まりなので、東陽町よりも先に住んでいる人はそこからタクシーを使う必要があるからです。東西線から接続される東葉高速鉄道の終点、東葉勝田台まで帰るお客さんにご乗車いただけた場合には、15000〜20000円の運賃となります。つまり、ドライバーとしても1発で9000〜12000円を稼げます。


とはいえ、需要が必ず発生するところには供給も多くあります。つまり、稼げる場所には他のタクシードライバーも集まっています。東陽町駅の場合には、終電後のお客さんを狙うタクシーと、そうではない通常のお客さんを狙うタクシーでは、列に並び方が異なるなどのローカルルールがあると聞いたことあります。非常にややこしいので、普段から東陽町でやっている人に詳しく聞かないとトラブルになる可能性があるそうです。駅によっては、古参の常連に追い出されることもあると聞いています。追い出すだけの根拠はないのですが、そういう面倒なドライバーがいる駅には近づいてもいいことはありません。


こうして儲からないタクシードライバーの一日は終わります。稼いだ売上は25000円。収入に換算すると15000円です。日給15000円ならいいのですが、このタクシードライバーは隔日勤務といって2日分まとめて働いて1日休むという勤務スタイルなので、日給換算だと7500円です。月収18万円、年収216万円です。


 タクシードライバーの二大ストレス

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タクシードライバーのストレスは、接客運転の2つに大別できます。


まずは接客に関することです。酔ったお客さまの相手をするのがすごく苦手で、さらに1分1秒を争うビジネスマンも苦手、というドライバーは営業する場所がなくなっていきます。なぜなら、タクシーを一番よく使うお客さまは、ビジネスマンと終電が終わったあとまで飲んでいた方だからです。従って、そこを避けてしまうと売上が伸びず、収入も低くなってしまうのです。


売上にこだわらず、気楽な仕事だからと続ける人もいます。住宅街のタクシー乗り場に延々と並び続けるタイプのドライバーにはこういうタイプが多く、このような営業スタイルを「ローカル営業」と呼びます。反対語としては、あまり使いませんが「都心営業」でしょうか。中央区、千代田区、港区という主戦場に挑み、その周辺部もうまく使っていく営業スタイルです。


もう一つのストレスが運転です。これは当たり前といえば当たり前なのですが、長時間運転することに適性がない方には、タクシー運転手は決してお勧めできない仕事です。できる限りこまめに休憩を入れながら運転するのですが、それでも勤務時間が20時間を超えることもあり、そのうち17時間は運転している、ということもあります。そのロングドライブに耐えられるかがとても重要です。


もっとも、これについては慣れが大切です。慣れると、あっという間に終わってしまう日もあります。逆に、全然時間が過ぎないように感じてつらい日もあるのですが。何らかの理由でお客さまが少ない日は、本当につらいです。


 コロナ禍の営業と給与額の推移

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少し複雑な話でしたが、ノルマと歩率の話を交えて、タクシードライバーの収入について話してきました。次はもう少し視点を変えて、ミクロな話とマクロな話をしたいと思います。


タクシードライバーの収入は、当人の売上に左右されます。極端なことをいうと、月の売上が100万円を超えれば60万円以上になりますし、売上が0ならば収入も理論上は0になります。これがミクロな話です。


マクロな話をすると、タクシードライバーの収入は景気や情勢に大きく左右されると言えます。お客さまの「移動したい」という需要が存在しなければ、タクシーの売上げをあげていくことも難しくなります。コロナ禍である昨今、タクシー業界は深刻な影響を受けました。


タクシーのお客さまは、ビジネスマンと終電後まで飲んでいる酔客なのですが、コロナ禍では両者とも街からいなくなってしまいました。飲食業界が大打撃を受けたことは、皆さんご存じと思いますが、タクシー業界も大きなダメージを受けていたのです。もっとも、タクシードライバーの給与は歩合制なので、会社よりもドライバー一人一人のダメージが大きいということになります。タクシー会社も大きく減収となったはずですが、それにともなって、自動的にドライバーの給与も下がるわけです。


コロナ禍、リーマンショック、震災不況など、情勢が悪くなった際には、タクシードライバーも打撃を受けることになります。そういう状況でもお客さまを確実にみつけてしっかりと売上を作れるドライバーも、もちろんいます。しかしながら、平均値としては大きく低下します。


もう少し、具体的に見ていきましょう。コロナ禍以前の令和元年については、東京都の平均給与額は約484万円です。北海道は約281万円、福岡県は約304万円で、全国平均は約357万円となっています。この数値が、コロナ禍になるとどうなったでしょうか。


東京都が約338万円、北海道は約231万円、福岡県は、約246万円です。全国平均だと約299万円と、50万円以上も落ち込んでいます。特に東京のダメージは大きく、150万円近くも落ちてしまっています。毎月の収入が10万円近く落ちてしまうと考えれば、この恐怖がわかると思います。著者もコロナ禍の東京を営業していましたが、文字通り悪夢でした。どこへいってもお客さまの姿はなく、タクシー乗り場は着け待ちのタクシーで長蛇の列です。需要自体が落ち込んでしまっているので、打開策もほとんどありません。


ちなみに、令和3年になってもほとんど同じ水準です。不況によって収入が落ち込んでしまうのは、タクシードライバーの大きなリスクと言えます。


逆に考えると、不況時でなければ、かなり稼げる仕事なのも事実です。50歳オーバーでも問題なく転職できて、経験不問でありながら、平均年収が480万円という業界は、他にはなかなかないと思います。その分大変なことがあるのも事実ですが、運転さえ苦にならなければ、それほど大きな負担ではありません。


たとえば、同じような転職条件の警備員であれば、暑い日も、寒い日も、雨の日もずっと立っていることが求められることがあります。一方でタクシーの場合は、勤務時間が長くても、冷暖房が完備された車内でずっと過ごせます。確かに不況のときはつらいのですが、そういうときに解雇されるリスクが低いのもタクシー業界の強みです。他の業界の場合には、需要が落ちた場合には人員整理されることがほとんどですが、タクシーの場合にはそういうことはあまりありません。というのも、タクシー会社の営業戦略は、タクシードライバーの数をそろえるところから始まるからです。ドライバーがいなければ売上を伸ばせません。ドライバーが多く、一人一人の売上も高く、事故が少ないことがタクシー会社にとって理想的な状態です。不況だからといってドライバーを解雇したところで、タクシーが車庫で休んでいるだけになってしまって、売上を伸ばすことはできないのですから。


 タクシードライバーは歩合制

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タクシードライバーの勤務時間は法律で厳しく定められています。少し前の時代は、超過勤務を行うことが常態化していたようですが、今では勤務時間を1分延長しただけでも会社から大目玉をくらい、始末書を書かされることもあります。こうした違反が続くと、会社の方も罰せられることがあります。


そして、タクシードライバーは歩合制です。つまり、お客さんをたくさん乗せて、多額の運賃を払ってもらうことによって収入が増えていきます。詳細な給与形態は会社によるのですが、武三地区(東京特別区、武蔵野市及び三鷹市)においては、50〜60%が一般的です。


つまり運賃が1000円であれば600円がタクシードライバーの収入となります。1万円であれば6000円です。東京から大阪などの極めて遠くまでお客様を乗せる「スーパーロング」の場合には、運賃は20万円以上になります。そうなると、ドライバーの収入も12万円程度になります。日給12万円と考えると、タクシードライバーがどれだけ儲かる仕事なのかがわかります。仮にこれが毎日続くと、20日勤務とした場合には、月収240万円、年収は2880万円です。


スーパーロングのお客様には一生に一回出会えるかどうかなので、毎日会うことは不可能です。しかしながら、毎回長距離を移動する固定客をつかんでいるドライバーはいます。2万円の運賃を払ってくれる固定客が月に10回乗ってくれた場合には、売上は20万円、月収も12万円保証されます。こういったお客さんを多数抱えるのが、稼ぐドライバーの一つの終着点です。


年収800万円を越えて1000万円以上稼いでいるタクシードライバーは、太い顧客を多数抱えている可能性が高い。こういった営業方法は、誰にでもできるものではなく、固定客を捕まえるトークスキルや特殊なコネクションが必要となります。具体的にいうと、芸能関係にもともと務めていたドライバーが、芸能人の送迎や、ロケによる長距離移動などの仕事で指名されるというケースは聞いたことがあります。非常に景気の良い話ですが、真似しようと思ってもなかなかできません。


最後は少し極端な例になりましたが、お客さんを乗せて走れば、それだけ儲かる仕事だということはわかっていただけたと思います。


タクシードライバーで年収1000万円を越えることは不可能ではありません。もっとも1000万円のハードルはかなり高いのですが、700〜800万円のドライバーはゴロゴロいます。従って、儲かる仕事であると言えるでしょう。


年収800万円ということは、月収に換算すると66万円程度です。これだけの所得が得られるのであれば、家族を養うこともできますし、マイホームを購入することも視野に入ってきます。


また、タクシードライバーになるためには、学歴は一切求められません。職歴も不要です。40歳までまったく仕事をしたことがない人が、突然タクシードライバーになりたいと思ったとしても、運転に適性さえあれば就職することは可能です。


誰でもなれるのに年収800万円といううまい話なんかあるわけないと思うかもしれませんが、実際にあります。事業に失敗した元社長、社内で問題を起こして会社にいられなくなった人、肉体労働者。場合によっては、刑務所から釈放された後にタクシードライバーになる人もいるでしょう。本当に収監しているかを確認したことはありませんが、タクシードライバーをしているとそれらしい人には会うことがあります。


誰にでもなれて年収800万円。これは事実です。ただ誤解を招く表現でもあります。誰もが年収800万円を稼げる訳ではないからです。やってもやっても収入が増えないドライバーもいます。このあたりのメカニズムを知るためには、タクシードライバーの特殊な給与形態を理解する必要があります。


 まとめ


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タクシードライバーの報酬はドライバーの気力、体力、努力に大きく左右されます。ここがタクシーの仕事の難しいところであり、面白いところでもあります。ドライバーによって得意なエリアや時間帯が違っていますし、どの程度の収入を得たいのかも違っています。今度タクシーに乗ることがあったら、運転手に得意なエリアなどを聞いてみて下さい。駅着けをしているタクシーは、その駅周辺のことをよく知っていますし、流しのタクシーは町の変化に敏感です。報酬についても夢がありますが、それ以上にとても刺激的な仕事です。

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