コロナ禍で日本全国が苦しむ中、UberEatsをはじめとする食品配達サービスが一世を風靡しました。それ以前にはUberという名前を聞いたことがない方もいたと思いますが、今は知らない人のほうが珍しいサービスになっているのではないかと思います。飲食店のほうも20時までに閉店することを強いられる中で、宅配サービスでなら売上が作れたことから、飲食店が開いておらずに苦労する客、配達業者、飲食店の三方よしで一気にサービスが広がりました。
同時に、誰でも簡単に参加できてしまうという都合上、配達する作業者が交通ルールを守らないという問題も生じました。この問題については私たちタクシードライバーも非常に苦労しました。何せ配達作業者たちは信号を守らないこともよくありましたし、左折仕様としているところに高速で飛び込んできたり、あるときは車の右側から突然前に割り込んできたりすることもありました。
もしも、ぶつけてしまうと、こちらは自動車なのでより重い責任が生じる可能性が高いのです。実際に何度かタクシーとUberEatsの自転車が接触する事故も発生していました。コロナ禍も収束し、そういった混乱も随分と収まってきた昨今ですが同じUberでも、食品配達ではなく、タクシーのように利用できるUberというサービスがあるのはご存じでしょうか。
Uber Eatsを運営するのは日本法人のUber社なのですが、もともとはタクシーを始めとしたモビリティ配車サービスの会社です。日本国内では訳あって上陸後に保留になっているUberのプロジェクトもあるのですが、このほどタクシー配車アプリ「Uber Taxi」に大きな動きがありましたので、紹介しようと思います。
Uber Taxiとは、本来的な意味では普通のタクシーとはまったく違うものです。海外でのUberはフルタイムのプロドライバーではなく、一般の人が空き時間などを利用して、自家用車でお客さまを迎えに行きます。安く移動したいお客さまと、空き時間を利用して運賃を稼ぎたいドライバーをマッチングさせるサービスがUberなのです。これはUberEatsのシステムを考えて頂けると容易に理解できると思います。UberEatsでは、サイトに登録すると、研修などを受けることなくすぐに働き始められます。専用の宅配用の容器を購入する必要はあるようですが、それだけあれば誰でも、いつでも仕事ができます。このフットワークの軽さがあったからこそ、コロナ禍の不況の時に一気に広まりました。海外では、UberEatsと同じように、自家用車があって運転免許証があれば、気軽に仕事を始められました。
しかし日本では法律の縛りが厳しく、誰でもいつでもタクシー業務ができるというようにはなっていません。どういう縛りがあるのかというと「旅客を乗せて運賃を取って運転する」場合には、第二種普通免許が必要だからです。つまり、二種免許を持っていないとUberに登録しても営業ができないため、実質的にやれる人がいないということです。では、二種免許があればいいのかというとそうもいきません。というのも、旅客運送に利用する車は1ヶ月に1回の検査が義務づけられるなど、非常に厳密に管理されています。
そのため、自家用車で手軽に始めることはできません。唯一可能なのが、二種免許と、整備された車両を持っている個人タクシー事業車です。本当に条件をクリアしているかどうかの審査はあるようですが、アプリへの登録はできるようです。従って、日本でUberを利用してタクシーを呼ぶと、個人タクシーが現れることがあります。逆に一般人の一般車は来ません。なので、安全性はプロのドライバーが運転するタクシーとまったく同じです。
個人タクシー以外の車では何が来るのかというと、普通のタクシー会社のタクシーやハイヤーが来ることがあります。というのも、個人タクシーの登録を待っているだけでは、車両数が確保できないことから、Uber Taxiがタクシー会社と契約しているからです。そのため、Uberで車を呼ぶと普通のタクシーが来ることもあります。また、高級車を指定するUberプレミアムというサービスの場合には、ハイヤーが来ることもあるようです。
ちなみに海外の場合はというと、日本とは異なり、かなり便利に利用できるところも多いようです。国によってどのサービスが使いやすいかは異なるようですが、アメリカの場合には、相乗りができるPOOL、お手頃な価格で乗れるuberX、ちょっと贅沢な車に乗れるuberSELECT、大人数でお手軽な価格で利用するuberXL、スタンダードなサービスはBlackというそうです。また大人数で乗るためのSUB、介助を必要とするお客さまのためのASSIST、車椅子対応のWAVというサービスもあります。言うまでもなく、サービスのグレードが上がるほど料金も高くなっていきます。
Uber Taxiの料金は通常のタクシーを利用するのと基本的に同じ値段です。つまり、タクシー会社の料金とまったく同じシステムで料金が請求されることになります。タクシーで1500円かかる運賃ならば、おおむね1500円くらいです。ぴったり一致しないのは、タクシーの料金は、距離と時間によって決まるため、同じタクシーを利用してもタイミング次第で若干の差は出るからです。
一方で通常のUber Taxiと異なるサービスもあります。こちらはUber Premiumと言います。現在は東京と京都で展開されています。料金設定が、通常のタクシーとは異なるので注意が必要です。最低料金は823円ですので、823円は絶対に必要になるということです。ただ、料金は103円から開始され、1分ごとに67円、1kmごとに329円かかることになります。これは東京エリアの料金で、京都エリアだと、最低料金も開始料金も2000円です。1分ごと54円で1kmごと329円なので、よほど遠くに移動するのでなければ2000円ポッキリの乗り物なのかなと思います。また、迎車料金については、6名乗りのミニバンを配車したときだけ1080円の車種指定量がかかります。
さらにピーク料金というシステムがあります。これについては、実際にその時になってみないとわからないところがあるのですが、需要が多く、ドライバーの数が不足している場合には料金が上がるシステムのようです。下がることは調べた限りではなさそうです。現在はタクシーの場合、料金は一律ですが、需要の多いときは料金が高くなるダイナミックプライシングを導入しようという議論もありますし、かなり実現に近いところで話し合われているようなので近いうちに導入されるかもしれません。その場合には、金曜日の夜や、土日の午後、あるいは雨天時などに需要が増え、さらに料金も高くなるという現象が起こる可能性があります。
日本ではUberTaxiを一般の人が営業することはできないと話しましたが、もしもそれをやってしまうと法律に反するのでしょうか。まず二種免許を持っていなければ、お客さんを乗せて運賃を取ることはできません。たとえばホテルへの送迎のようなサービスを受けられることがありますが、そのドライバーは二種免許を持っているのかというと、無料の場合は免許がなくても問題ありません。
しかし、もしも送迎の料金を10円でも取るようならば旅客運送事業となるため、二種免許とともに適正な期間での車両の整備も義務づけられます。もしも違反した場合には、3年以下の懲役、若しくは300万円以下の罰金となり、場合によってはこれらが併科されます。罰則を受けるのは運転手のみで、乗客は違法行為だと知っていた場合でも罰則を受けることはありません。こういったタクシーは黒ナンバーではなく、白ナンバーで営業していることから、白タクと言われています。
日本では白タク行為が横行していて、どことは言えませんがそれらしいものを見かけたことは何度もあります。摘発も行われていると思いますが、お客さまを乗せるまでは普通の車なのでなかなか難しいところがあるようです。高単価が出るような乗り場には、たまにダフ屋のような男が立っています。その男が、「チケットあるよー、チケットあるよー」というような口上を述べています。聞いてみると、普通のタクシーよりも安く乗れますよというようなことを言っています。
もちろん非合法の白タクなので乗るのはおすすめできません。乗るだけなら罪に問われないとはいえ、犯罪に巻き込まれる可能性もありますし、素人に命を預けて家まで送ってもらうのはリスクが高いからです。非合法だと知って敢えて乗るのは、個人の自由となってしまうのかもしれませんが、どういうタクシーが非合法なのかわからないというのは問題です。ですが、基本的に客の呼び込みをしている、つまり、営業行為しているタクシーは白タクの可能性が高い。どのくらい安くなるのかは把握していませんが、反社会的勢力の資金源になっていると思いますし、リスクが高いことを考えると安い買い物にはならないと思います。少し待つことになっても法を守って運転しているタクシーを利用してください。
そういえば、どうやって営業しているのかよくわからないのですが、存在しない会社のタクシーを偽装した車両もみたことがあります。こちらは普通に走って営業するのかもしれません。外装費がかなりかかるはずなのですが、これで果たして元が取れるのでしょうか。あまり効率が良いとは言えないように思いますが、そういったものもあるようです。ただこれは、撮影などに使う特別な車両であったのかもしれません。
白タクが多いのは成田空港だという話を聞いたことがあります。著者は東京のドライバーなのであまり行ったことがないのですが、外国人観光客が多い時期にはタクシーが枯渇する傾向にあることから、白タクも営業に来るとのことです。外国人相手に英語で話しかけてそのまま乗せてしまうという手口のようで、これも摘発がなかなか難しいようです。そういえば、海外の空港に行くと怪しい人が声かけてくることがありますよね。あれの日本バージョンが存在するということのようです。
このようなことを書くと怒られてしまうかもしれませんが、UberTaxiを効率よく使う方法は存在しています。これはあくまでも、まだ一度も使ったことがない人に限られるのですが、初回登録特典が存在しています。時によって金額は違いますし、もしかしたらないこともあるかもしれませんが、配車アプリの競合が多いことを考えるとしばらくの間は続くと思います。配車アプリについては、統一したいというユーザーが多いと思いますが、実は複数を使い分けるほうが賢く使えます。
混雑時の利用についても、あるアプリではタクシーが捕まらないという場合には、別のアプリを試してみるという使い方ができます。もちろん登録するときの手間はあるので面倒ではありますが、賢く、安く使う場合には複数登録がおすすめです。
また、安く使うという利用方法以外に、UberPremiumの場合には車種を指定するサービスを使えます。高級車が指定の場所まで迎えに来ることから、デートや記念日などの特別な日に使うのがおすすめです。あくまでも距離と時間によって料金が決まることから、遠くまで移動するのでなければ料金はそれほど高くなりません。逆に時間で料金が決まるハイヤーを頼む場合には、アプリから気軽に頼むということもしづらいことから、こういった場合にはUberを使うのが賢い利用方法といえます。
食品配送の方面ばかりが有名になってしまったUberについて解説してきました。現状では他の配車サービスとの大きな差はありません。しかし、日本でもこのようなサービスが解禁されていく方向にあるのではないかと言われています。どうしてかというと、タクシードライバーのなり手が減っていて、需要を満たせない状態が続いているからです。
ハイヤー・タクシー業界からの反発は強いようですが、需要が満たせない状態が続くと、いずれ規制緩和となるかもしれません。そうなったときには、副業でタクシー営業するのが当たり前になるかもしれません。ただ、東京などの大都市でタクシー営業するのは決して簡単ではなく、事故と違反のリスクが非常に高い。もしもそういう生活がしてみたいと思う方がいたら一度、タクシードライバーとして乗務してみることをおすすめします。