乗せたお客様を常連客にしても大丈夫?

公開日:2024/09/19 00:29


タクシー運転手がどうやって営業しているのか、未経験の方はなかなかイメージが湧かないと思います。私の場合も、タクシードライバーは、ずっと駅前で並んでいるものだと思っていました。もちろん、そういった営業方法もありますが、あくまでも選択肢の一つです。あるいは常連客をたくさん抱えているドライバーがいるのではないかと考えるかもしれません。実際にそういうドライバーもいますが、全員ではありません。むしろ少数派というほうが正確です。


では、タクシードライバーはどうやってお客さまを見つけているのかというところをまずご説明した上で、常連客を作っていくスタイルのメリット、デメリットをお伝えしようと思います。安易に常連客を増やそうとすると、やり方によっては法に触れてしまうところもあり、グレーゾーンを歩くようなことも生じます。なので、著者としてはあまり強くはお勧めできませんが、法や規則に違反しないように常連客をもつことは可能です。



 王道のスタイルは着け待ちと流し

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まずはタクシーの営業方法を分類していきましょう。一番わかりやすいのが「着け待ち」です。駅や空港などのタクシー乗り場に並んで、順番が来たらお客さまを乗せる営業方法です。小さな駅でもタクシー乗り場があり、電車から降りてきた方がお客さまに変わります。遠方に行く方は多くないのですが、並んでいるだけで少しずつ売上が増えていく手堅い営業方法といえます。変則的な方法としてタクシー乗り場以外の場所で、停車禁止になっていないところでの着け待ちというものがあります。


タクシーによる客待ち行為は、駐車ではなく停車なので、駐停車禁止のところはアウトですが、駐車禁止だけならば着け待ちができます。もちろん交差点の中や横断歩道の上などは言語道断で、取り締まりにあうこともあります。とはいってもグレーゾーンのところは多い。問題は管轄の警察がどこまで取り締まっているかどうかです。このあたりは経験しながら身につけていくしかありませんが、先輩から情報を集めていくことも大切です。


乗り場や路上にタクシーを止めてお客さんを待つ着け待ちに対して、車を止めることなく走らせ続ける営業方法を流しと言います。流し営業する場合には、繁華街やオフィス街へと向かい、常に左側を注意深く見ながら走り、信号ではなるだけ一番前に止まるようにします。一番左のレーンの先頭は鼻番といいます。交差点を渡っている歩行者がお客さまになる場合、選ばれるのはこの位置だからです。


逆に2台目のタクシーになってしまった場合には選ばれる確率は下がります。よく言うのは右折してはいけないということです。右折レーンにいる間はお客さまが乗ってくる可能性は低い。なので、右折はせずになるだけ左折だけで処理する方がお客さまを見つけられる確率が上がります。ただ、これもケースバイケースで、左折、直進した先に進んでいくタクシーがいて、かつ、そこに追随しても勝算がない場合には右折していくこともあります。


いずれにせよ、流し営業の場合には常に考えながら走って行くことが大切で、この腕前によって売上の差が出やすい。また、乗り場にずっと並んでいるよりも疲れやすい。もっとも、タクシー営業になれていると流しをしているうちに時間が経って、トイレに行こうと思ったときには6時間経過していたということもよくあります。


流しだけ、着け待ちだけと限定する必要はなく、この2つをミックスさせて営業しているドライバーも多い。時間帯によって、エリアによって、あるいは気まぐれで2つの営業方法をうまく組み合わせます。このあたりのセンスでも営業成績は変わってきます。着け待ちだけではあまり稼げない、流しだけだと疲れるということで、2つを組み合わせるのが王道といえます。そこに第3局として入ってくるのが固定客を中心にした営業です。


 固定客をつけるメリット、デメリット

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常連客、固定客を作って営業していくというスタイルのドライバーもいますが、割合で言うと30人に1人もやっていないと思います。ただ、個人タクシーの場合にはもう少し増えてくるかもしれません。普段は流しや着け待ちの営業をしておいて、連絡があったときだけ固定客のために営業するという方法もあります。固定客のための営業に特化しているドライバーもいて、空き時間に営業するというスタイルのドライバーもいるはずです。


まず、常連客を作るメリットについてお話しします。それは営業が安定することです。わざわざタクシードライバーに連絡して迎えに来てもらうお客さまは、ある程度の距離を移動することが多いです。運賃にすると5000円から1万円でしょうか。タクシードライバーは1乗務あたりの売上を計算しながら動いているので、ある程度計算が立つのはありがたい話です。ただ、いくつか問題もあります。


まず、常連客を見つけるのが難しいと言うことです。お客さまに対して手当たり次第に「常連になってもらえませんか」とお声がけを続けていると、きっとどこかでクレームになってしまうと思います。それに、常連客は誰でもいいというわけではありません。中長距離の移動を定期的にするお客さまであることが必須です。もちろん、稼ぎは度外視で常連客を作るというスタイルもありますが、そこには一つ落とし穴があります。


常連客のお客さまから電話がかかってきたとします。その時新宿にタクシーがいるのに、品川までと言われたら、品川まで車を走らせる必要があります。時間にすると30分から40分でしょうか。その間お客さまをお待たせしてしまうことになります。では少し早めに連絡してもらうようにお願いしたらどうかなのですが、2時間後に品川と言われた場合に、その前の組み立てが非常に難しい。


品川方向に頭を向けて営業して、品川へと段々と近づいていって、ちょうど5分前に品川に着くというのが理想ですが、そうはいきません。タクシーはお客さまの行きたいところに移動する乗り物なので、色んな方向へと飛ばされてしまいます。品川の手前まできたのに、最後の最後で埼玉県の大宮までと言われたら、約束の時間にお客さまのところへ行けなくなってしまいます。ご予約いただいた場合には1時間くらいは余裕を見て回送にして、ピックアップ地点の近くまで移動して時間を潰していくべきでしょう。となると時間のロスが大きく発生してしまいます。


そのため、運賃が最低でも5000円。できれば1万円以上いただけないとあまり積極的には行きたくないというのが本音です。もちろん、この基準はドライバーによって違いますが、1万円以上ならみんな行きたがると思います。ただし、タクシードライバーはお客さまを選ぶ行為を禁じられています。価格によって行くか行かないかを決めるのは職業倫理上問題になりますし、発覚した場合には罰せられることもあります。


常連客を極限まで増やすという方法はどうでしょうか。ほとんど常連客のためにしか営業しないというスタイルです。実際にこれをやっている人がいて非常に高収入であることも知られています。ならみんなやればいいではないかという話なのですが、そうともいきません。前述したとおり、常連客を探すのが大変だからです。


そこを苦労して見つけて積み重ねていった結果が、常連客のみの営業です。問題は管理コストが高いことです。常連客を10人、20人と増やしていき、一回の乗務で3人、4人と常連客を乗せることになるわけです。となると、携帯電話は鳴りっぱなし、メール対応にも追われるということが生じます。せっかく予約の電話をいただいても、その時間帯が予約で埋まっているということもあります。このときに予約が一杯だといって断ってはいけないのだそうです。一度断ってしまうと、もう一度予約の電話をいただけるかどうかはわかりません。その場合には、信頼できる仲間のタクシーに連絡して代わりにいってもらうことになります。仮にそのタクシーがすっぽかしてしまうと、その常連客からは二度と連絡をもらえないと思ったほうがよさそうです。


なので、確実に行ってくれる仲間を複数用意しておく必要があります。また自分が休みの日に予約が入るということもあります。個人タクシーであれば、自由に出勤日時を決められるので問題はありませんが、法人タクシーの場合は勤務日が決まっているのでなかなか大変です。


私が聞いたことがあるのが、段々と常連客を増やしていって、個人として独立するという方法です。ただ、個人タクシーをとるために10年間はタクシーの仕事を続ける必要があるので、簡単ではありません。


常連客への営業はあまり効率がいいとはいえませんし、24時間電話がかかってくるのに対応するのもぞっとするので個人的にはあまりやりたくありません。ただ、これも好き好きなので、常連客を増やしたい方はネームカードを作るなどして工夫するといいかもしれません。


 常連客営業する上で絶対にやってはいけないこと

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常連のお客様から電話やメールで配車依頼を受けて、そこに向かうことは法律上問題ありませんし、知る限りでは業務規則として禁止している会社もありません。しかし、いくつか注意点があります。まずはお客さまを選んではいけないということです。最近はさまざまなSNSを通じてネット営業するタクシードライバーも出てきており、そういった行為は禁止ではないという声明が発表されていました。


しかし、その際に運賃によって行くかどうかを決めるのは、お客さまを選ぶ行為となるため禁止されています。つまり、原理的にはワンメーターの距離の予約で、20km離れたところであっても行かなければなりません。実際にどう運用するかはさておき、価格によってお客さまを選ぶ行為は禁止されているので注意が必要です。


もう一点、タクシーは値引きをしてはいけません。タクシーの運賃は厳密に決められているため、勝手に値上げをしたり、値下げをしたりすることはできません。下げる分にはいいのではないかとお思いになるかもしれませんが、ドライバーが勝手に価格競争をはじめてしまうと、運賃の水準が低下し、サービスの質が維持できなくなります。タクシーの料金は下がったけど、メンテナンスの頻度が落ちるので死亡事故の頻度が増える……、などということになってはいけないからです。


かつて居酒屋タクシーが一斉に取り締まりにあったことがあります。これは、官公庁などに着け待ちしている個人タクシーが常連客を作り、そのためのサービスとして冷えたビールを提供していたというものです。ビールは運転手の持ち出しとなるため実質的には値引きとなります。2008年に一斉に摘発された事案では、公務員の倫理として不適切であったという批判から33人の職員に懲戒処分があり、また、サービスを提供していた事業者にも行政処分が下りました。


もっともこのケースはかなり極端で、17省庁1402人が、ビールだけではなく金券などを受け取ることもあり、その見返りとして遠回りをするなど運賃が高額になるような便宜をはかっていたということが発覚しました。これが国会で強く追求されたために大規模な処分となりました。こういった居酒屋タクシーという営業方法は東京だけではなく、京都、大阪、他の地方でもあったことがわかっています。


常連客を作った場合には「少し割引してよ」と言われることもあるでしょう。その際にどうするべきか。実際のところ、こっそり割引しているドライバーもいるかもしれません。しかし、それはルール違反であるし、割引分は自分の身銭を切ることになります。割引は、グレーゾーンの営業となるし、売上も減ってしまうので絶対にお勧めできません。ルールの範囲内で常連客が作れるように、自分なりにできるサービスを工夫することが重要になってくることでしょう。


 まとめ


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  • タクシーの営業は着け待ち流しを組み合わせるのが王道!
  • 常連客を見つける営業はメリットとデメリットがある
  • 常連客に対して割引などの優遇をするとルール違反なので要注意


常連客を見つける営業方法について見てきました。メリットとデメリットがありますし、単に効率だけを求めるなら常連客は見つけない方がいいという考え方もできます。一方で、稼ぐドライバーは長距離のお客さまが少ない昼の時間帯に、固定客をもっていることもあります。色々な考え方ができますが、大事なのは自分がどういう営業をしていきたいか、何が快適で、何が快適ではないかを考えた上で、常連客を探すかどうかを決めることです。


タクシー営業は自由です。法に触れさえしなければ、どんな営業スタイルでも文句を言われることはありません。もちろん、最低限の売上さえあればですが。そんな中で、常連客と仲良くしながらやっていきたいドライバーもいると思いますし、まったく知らないお客さんに乗っていただくほうが気楽だというドライバーもいます。どういった営業スタイルがいいのかを自分で考えてみることが大切です。

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