
前科があって困っている、という人に会うことはあまり多くありませんが、それは、あまり人に打ち明けられないからという理由もあると思います。強盗や殺人などの極めて罪が重い犯罪を犯した人は多くはないでしょう。ただ、自転車泥棒、万引きなどの比較的罪の軽い犯罪を繰り返してしまったり、痴漢やその冤罪で前科がついてしまったりする人はいるのではないかと思います。前科がついている人は日本中にどのくらいいるのかというと、およそ7~8万人程度とのことです。これがどのくらいの数なのかというと、試しに大林という名字の人を数えてみたら全国に2万2000人でした。
7~8万人の範囲おさまる名字というと、谷さん、堀内さん、荒川さん、今野さん、落合さん、岩井さんなどです。人生で出会ったことがある谷さんを思い浮かべると、それが前科を持つ人と出会った頻度と同じくらいといえるかもしれません。もっとも、どういう場所で交友関係を築くかで、前科のある人と遭遇する確率は変わってきます。なので、一概にはいえませんが、大まかな目安としてはわかりやすいと思います。筆者が出会ったことがある谷さんは、スポーツ選手以外だと、友人には1人だけでした。
さておき、前科があって就職しづらいという状況は起こりえるのでしょうか。またタクシー業界は前科があった場合には雇用されるのでしょうか。雇用されるとして、働きやすい職場なのでしょうか。
そもそも前科・前歴とは何かについてですが、前科とは有罪判決を受けた経歴のことをいいます。懲役刑や禁固刑、要するに刑務所に収監される判決を受けた経験に加えて、罰金刑で有罪になった場合も含まれます。一方で、前歴とは、捜査機関に犯罪を疑われ捜査されたことがある経歴をさします。逮捕されて有罪判決を受けなかった場合や、微罪として処理された、不起訴処分になった場合、前科はつきません。しかし、この場合にも前歴は残ることになります。
一般に、企業が前科・前歴がある人を歓迎することは少ないと思われます。というのも、企業の信用や秩序が維持されない可能性があるからです。この場合には、前科・前歴があることをいわずに就職するか、前科・前歴がある人を受け容れている企業を探すなどすることになります。
さらに前科があると就けない職業があります。これを欠格といいます。具体的には、弁護士、弁理士、教員、医師、国家公務員、地方公務員、自衛隊員、保育士、警備会社、警備員です。ここにはタクシー会社は含まれていないので、法的にはタクシードライバーになることはできるということです。従って、問題なくタクシー会社には入社できるはずです。
前科を調べることは企業側としてはできないはずですが、賞罰欄を記入するようにいわれることはあると思います。この場合、前科があるときは書かないと経歴詐称を問われる可能性があります。また面接時に犯罪歴を聞かれたときには、正直に申告する義務があるそうです。一方で、面接官から聞かれない場合には申告する必要はありません。
結論からいうと前科・前歴を調べることはできません。検察官または検察事務官しか前科の照会はできないからです。また、ここで調べられた前科の情報は、検察裁判に利用されるのみであり、他の目的には使えません。つまり、会社に就職する際に照会されたり、それによって就職できなくなったり、ということはありません。ただし、公的な機関を照会しないでも前科を調べる方法はあります。
まずは逮捕時や起訴時などに実名報道された場合です。テレビや新聞の場合には後から見直すことはあまりないと思いますが、名前と顔を覚えている人がいる可能性があります。全国的なニュースになった場合や、ローカルであっても話題になるような事件であった場合には注意が必要です。
次にインターネット検索です。最近は、採用担当者が名前で検索するケースは多いと思います。場合によってはSNSアカウントを確認したり、裏アカウントまで特定したりするケースもあるそうです。もっともタクシー業界の場合には、年齢層は高めですし、ITリテラシーが高くない会社が多いので、そこまでしないことがほとんどだと思います。
Yahoo!や新聞社のサイトに実名入りの記事が掲載されている場合もあると思いますが、数カ月から長くても数年で削除されることが多い。しかしながら、5chなどの匿名掲示板に引用された場合にはさらに長く残ることがあります。実名入りの記事が出てしまった場合には、簡単には消えません。もしも、すべて削除したいと思った場合には、弁護士を通じて申請するなどの手続きが必要になると思います。一度調べたことがあるのですが、詳しい弁護士に相談すると検索してもサイトに辿り着かなくなるなどの処置をとることもできるようです。もしも悩んでいる方は、一度相談してみるといいかもしれません。
最後に前科・前歴があるものとして、そういう人がタクシー会社で働きやすいかどうかを考えたいと思います。結論からいうと、まったく問題なく働けると思います。
まず、タクシードライバーは同僚と一緒にいる時間が極端に少ない。出庫前や出庫後の喫煙所などで雑談しているドライバーはいますが、まったく雑談に参加しない人もいます。かくいう私も、たばこは吸わないですし、雑談に参加することもほとんどありません。たまにつかまりそうになっても、適当にやり過ごしています。なので、ひょんなところから前科があることがわかってしまうリスクは極めて低いといえます。お客さまと接することもありますし「運転手さんって前科、あるのですか?」と聞かれることもあるかもしれません。
しかし、そういうときは嘘をついても大丈夫ではないでしょうか。「いやいや、前科なんかありませんよ。真っ当にタクシードライバーをやっていますよ」とニコニコしながら答えればいいと思います。私の知りうる限りではありますが、もっとも過去を詮索されない職場なのではないかと思います。そして、タクシードライバーの間でも、お互いの前職については聞かないことが多いように思います。暗黙のルールとまではいかないのですが、聞いてもろくな話が出てこないので、最初から聞かないことが多い。
タクシードライバーになる人は、何らかの失敗を経験してきた人が多いかもしれません。かくいう私の場合は、前職と自分が合わずに逃げるように辞めてきました。だから、前職で何をしていたとか、どういうことがあったのかはあまり聞かれたくはありませんでした。今思ってみると、同僚に聞かれたことはあまりない気がします。いや、あまりないどころか、もしかしたら1回も聞かれなかったかもしれません。同僚と飲み会に行って、とんでもない下ネタを質問されたことはありましたが、ドライバーになる以前の話はあまり聞かれませんでした。
タクシードライバーは、子どもの頃から憧れて目指すタイプの仕事ではありません。また、40歳からでも目指せる仕事なので、新卒で選ぶ人も増えてきてはいるものの、それはけして多数派とはいえません。なので、前職があまりうまくいかなかったり、しっくりこなかったりした人が多い業界ではあると思います。だから、あまり前職のことを聞かないというのは、ちょっとしたマナーになっています。
そもそもタクシードライバーになるのはどんな人でしょうか。前述した通り、前の職業をあまり詳しく聞いたことがないので、サンプル数は多くないのですが、いくつかケースをご紹介したいと思います。まず聞いたことがあるのがリストラされてしまったケースです。会社都合の退職となるため、その期間に失業保険をもらいながら仕事を探すことになります。ハローワークなどで運転が得意という話をした場合にタクシー会社を勧められるケースがあります。リストラではなくても、何らかのトラブルを起こして会社にはいられなくなったという人もいます。そのドライバーはタクシー会社でも同僚との摩擦を繰り返していました。同僚と接することがあまり多くないタクシーの仕事でもそうなってしまうくらいなので、前職の時はさぞ苦労したことだろうと感じたものです。私もその人から何度か嫌なことをいわれたことがあったため、疎遠になってしまいました。
しばらく引きこもりだったという人をみたことがあります。いわゆるニートという存在です。職歴がなくても運転と接客に適正があれば、タクシードライバーには問題ありません。多少接客が苦手でも、運転が苦手でも、とりあえずなることはできます。規則正しく暮らす必要が出るので、社会生活への復帰にはいい仕事なのかもしれません。
比較的多かったのは、トラックやバスなどの他のドライバー職をしていた人です。運転を得意としているため、すぐに仕事に入れます。タクシードライバーには難しい運転の技術は求められません。しかしながら、長時間運転席に座っていても疲れない、眠くならないという持久力は強く求められます。他の運転を必要とする職種をしていた人は、この点について一日の長があります。なので、すぐに仕事に慣れて稼ぎ始める傾向があります。
もう1点忘れてはいけないのが、職業としてハンドルを握ってきたドライバーは、交通法規を遵守できることです。当たり前と思うかもしれませんが、事故や違反は、どうしても起こってしまうことがあります。免許を失ってしまうと仕事にならないため、職業としてハンドルを握るためには、いかに免許を守るかが必要となります。しかし、やりはじめはブービートラップのような違反ポイントに引っかかってしまうものです。このあたりを回避できるのも経験者の強みです。
元経営者も時折見かけます。飲食店をやっていたり、清掃業をやっていたりと業種は様々で、事業がたちいかなくなってしまい借金だけが残ってしまった場合、借金を整理して、タクシードライバーの給料から払うようにするというケースがあります。タクシードライバーは比較的給料が高いため、借金を返すには最適です。借金を返済したあと、しっかりとお金を貯めて、再び事業を始めることを目指しているドライバーもいます。
面白いのが、ゲーマーとしてタクシーの営業を楽しんでいる人もいるということです。どういうことかというと、タクシーの営業は、非常にゲーム的です。毎回の乗務には制限時間があり、その中でどれだけの営業収入を上げられるかを競うわけです。これは非常に楽しいゲームのようで、趣味と実益を兼ねて、グループを作ってハイスコアアタックをやっている人をよく見かけます。会社によっては成績が張り出され、競い合うようにしているところもあるようです。こういった人たちは、腕がいいことが多く、毎月の売上は100万円を超えてきます。
ということは、月収も60万円から70万円という水準になります。人によっては80万円を超えることもあるそうです。個人的にはあんまり稼ぎすぎると税金が高くなるのでお勧めできないのですが、ハイスコアアタックする人にとっては、それが一番大切なことなので、税金によって腰が引けることはありません。
前科・前歴があってもタクシー会社に入れるかどうかについて書いてきました。このあたりの対応は会社にもよると思います。私の場合、前科は聞かれませんでしたが、あまりにも、いかつくて迫力がある人の場合には、面接で聞かれることもあるかもしれません。ただ、だからといって、タクシー会社に入れないかというとそういうものではなくて、しっかりと運転ができて、体力があって、柔らかい物腰で接客ができるようであれば、仕事に就ける可能性が高い。
タクシーの仕事は人生の再出発に最適ではないかと思います。私もタクシーにとても助けられ、おかげで人生が再生できました。どんな会社でも入れるという保証はできませんが、前科について正直に話したとしても、受けいれてくれる会社は必ずあると思います。