
タクシー業界には入社祝い金というシステムがあります。というのも、タクシー業界はドライバー不足に悩んでいます。特に、経験豊富な即戦力のタクシードライバーは、どの会社も喉から手が出るほど欲しいというのが現状です。
そういった状況であるため、入社祝い金が設定されていることがあります。つまり、その会社に入るだけで、10万円から、高額なケースでは100万円近くが、最初に支払われるのです。こう聞くと入社祝い金が欲しくて仕方がなくなるのが悲しきかな、人間の性というものです。
しかしながら、この世の中では、いい話には裏があるものです。裏があるといっても、しっかりとした会社がやっていることなので、犯罪に巻き込まれるようなことは絶対にないと断言します。それでも、入社祝い金を狙う場合には注意点があります。また、入社祝い金がない会社もあります。こういう場合、入社金の有無や、その金額で会社を決めてしまいたくなりますが、その前に入社祝い金のシステムと、会社側の目線に立ってどういう意図で金額が設定されているのかを考えてみましょう。

まず入社祝い金とは何かについてご説明します。これは、入社を決めた際にもらえるお金のことで、直接応募している場合でも、求人サイトを経由する必要があることがあります。前述の通り、10万円から、100万円近いケースまでありますが、標準的な金額は10〜20万円です。40万円くらいまでなら、時折見かけるという程度で、それ以上の高額なものはめったにありません。
入社祝い金の注意点としては、場合によっては返還しないといけないことがあることです。どういうことかというと、会社側の立場に立ってみるとわかりやすいです。まず、会社側としてはドライバーの人員が欲しいです。だからこそ、高額な入社祝い金を設定します。しかし、一番怖いのは、せっかく祝い金を払ったのに、そのドライバーがすぐに退職してしまうことです。そうなってしまうと祝い金として払ったお金が無駄になってしまいます。それどころか、祝い金目当ての求職者がたくさん入ってきて、すぐにやめてしまうことが想定できます。そうすると、何百万円も損してしまい回収ができなくなってしまいます。
こういった会社側の都合を考えると答えが見えてきます。祝い金をそのままもらうためには条件が付くことになります。よく聞くのは、一定の売上を確保しながら、2年から3年勤続するというものです。例えば、月の売上額が消費税抜きで60万円以上、乗務回数が12回以上という条件を3年続けるというものです。未経験の場合、初月から達成するのは難しいかもしれないので、そういうことを考慮して、売上の目標は4ヶ月目からなどの条件が設定されていることもあります。
ちょっと複雑なのでしっかり説明します。未経験の場合には、給与保証というシステムを導入している会社があります。タクシーは歩合制なので、売上をあげればあげるほど収入が大きくなります。しかしながら、未経験ではじめたときは十分に売上が作れない可能性があります。なので、半年後には月収40万円以上にできるとしても、最初の数カ月は月収20万円ということがありえます。こういったケースを防ぐために、最初の数ヶ月間、長いと1年近くの間、給与保証をするケースがあります。ただ、これも条件付きであることがほとんどです。つまり、会社に入ったら何もしなくても給与が保証されるというわけではありません。一定以上の乗務時間が必要であったり、ある程度の売上が必要であったりすることがほとんどです。
祝い金や給与保証の詳細な条件は、タクシー会社の担当者に直接聞いてみないとわかりません。ということはつまり、金額が同じ20万円であっても、好条件の場合と、そうではない場合があるということです。この点も含めて見極める必要があるのが難しいところです。タクシー会社の目線でいうと、そこは問い合わせてもらうしかありません。ちなみにここでドライバーの志願者との接点ができることになります。

入社祝い金を設定している会社の意図としては、ドライバーが不足していて雇用を増やしたいということが想定できます。現在はドライバー不足に悩まされている会社が多いため、祝い金が設定されていることが多いです。
そう聞くとブラックな会社で大量にドライバーが離脱してしまったというような事態を想像する方もいるかもしれません。実際にそういうこともあるのかもしれませんが、レアケースだと考えられるでしょう。そもそも、根本的にタクシードライバーのなり手が少ない状況であるため、ほとんどの会社がドライバー不足です。そのため、祝い金を設定してドライバーを募集するのは不自然なことではありません。また、よく聞く問題が、高齢のドライバーを多数抱えているため、同時に退職してしまう可能性があるということです。
まず、タクシードライバーの定年を65歳に設定している会社があるとします。定年後は、定時制といわれる嘱託職員として会社に残る場合があります。定時制は乗務回数が3分の2程度になります。具体的にいうと、月12回、24日相当の乗務をしていたドライバーが月8回、16日相当になります。ということは、65歳のドライバーが15人いて、同時期に定年を迎えた場合には、5人分の仕事の空きができることになります。そのため、単純計算ではありますが、5人のドライバーを増員しないと、タクシーが空いてしまうことになります。
タクシーが空くというのはどういうことかというと、タクシー会社は、法令の規定などを踏まえて一定の台数のタクシーを所有しています。このタクシーにコストがかかります。一般家庭における乗用車の維持費は年間50万円程度といわれています。自動車税、重量税、保険料、車検費用などです。駐車場代もかかります。タクシー会社の場合、自社で駐車場を持っていることもありますが、借りていることもあります。
そして、一般家庭との相違点としては、旅客運送業に利用する車両は1ヶ月に1回の定期点検が義務づけられていることです。タクシーが営業に使えなくても、この費用が容赦なくかかることになります。そのため、タクシー会社は、運転手を確保し、タクシーを常に働いている状態にすることが必要です。
そのため、一度ドライバーが不足してしまうと補充しないことには仕事にならないわけです。1人のドライバーが乗務できる時間や日数は法律で厳しく規制されています。一昔前ならある程度の不正な残業をするような会社もあったようです。なので、多少タクシードライバーが足りなくても1.5人分働いてもらうことで何とかしていたということもあったようです。しかし、現在は厳しくなっているので、そういうことはまずできません。もしかしたら地方などにはある可能性もありますが、聞いたことがありません。
今説明したのは常勤から嘱託(定時)への移行のケースですが、70代のドライバーは引退することもあります。そうすると月12回、もしくは8回の乗務がゼロになるわけですから新規のドライバーを募集する必要があります。

タクシー会社には祝い金の設定がある場合と、設定がない場合があります。どちらの会社を選ぶほうが得なのかというと、祝い金があるほうが特だと思う方がほとんどだと思います。実際に祝い金は非常においしいです。前述の通り、条件が付いていることはあります。その業界未経験者で条件がよくわからない場合には、経験者に聞いてみる必要があります。そういった注意点はあります。
例えばどういう条件か。よくあるのが乗務回数です。例えば、月12回乗る場合には、祝い金の条件を満たすことができるが、乗車回数が11回までですと条件を満たしません。その場合にどうなるのかは会社側が設定したルール次第となります。12回の乗務を2年続けるという条件であると、1回風邪を引くだけで達成が難しくなります。そこを見越してなのかはわかりませんが、少し厳しめの条件が設定されていることがあります。
というわけで、祝い金のある会社のほうがお勧めとは一概にはいえません。逆に祝い金がない会社にもお勧めといえる理由があります。
祝い金を出さない、あるいは低額に設定するというケースではどういうことが想定できるか考えてみましょう。最初に想定できるのは単純にお金がなくてケチというケースですが、私のみている限りではそういうケースはあまりありません。お金がない会社には、優秀なドライバーがいません。そのため、少しでも条件を良くして優秀なドライバーを獲得する必要があります。給与面の待遇を良くするのには限界があるため、営業所の設備を整えたり、部活を作ったりします。例えばですが、営業所でサウナに入ることができるタクシー会社であれば、サウナが好きなドライバーにとっては、優先度が高くなることでしょう。
次に考えられるのは、その会社がドライバー不足になっていないというものです。若干名の募集はしているものの、基本的にはドライバーは足りている状態の場合には、高額の祝い金を設定する必要はありません。そういった会社は、待遇が良かったり、稼ぐためのノウハウがあったり、社内の雰囲気が良かったりします。なので、口コミや、ドライバーによる紹介によっても人が集まってきます。
最後に、一番重視するべきポイントについてご説明します。それは、研修がしっかりしているかどうかです。祝い金や営業補償というものは、あくまでも外面的なものです。金額や条件をみて、おいしいかどうかを見極めるわけですが、それ以上に大事なのは、研修がしっかりしているかどうかです。もちろん、既に一級のドライバーになっていて、何も教わらなくても問題ないという方は、自分に合った条件と祝い金の額面だけみていればいいと思います。具体的な条件というのは、歩率、タクシーの車種、営業所の位置、自宅からの通勤時間などです。
経験豊富ではない未経験者や初中級者にとっては、研修が充実しているかどうかは大事です。未経験者とはこれから2種免許をとるドライバーのことで、初中級者は東京武3地区の水準でいうと1乗務の売上が4〜5万円程度のドライバーのことを指します。より具体的にいうと、月収30万円前後のドライバーです。東京のタクシードライバーは月収換算でいうと40〜50万円は十分に狙えます。
しかし、そこに届かないのは、何らかの理由があります。色々なことが想定できますが、よくあるのは、稼げる場所と、稼げる時間を知らないということです。なので、見当違いなところで営業してしまっているため売上が伸びないということがありえます。次に、稼げる場所はわかっていても営業方法が非効率的ということです。例えば夜の銀座に行けば稼げるとはわかっていても、空車だらけの路地に並ぶだけでお客さまを全然見つけられないということがあります。
こういった状況を改善する特効薬のようなものはなくて、どこでスローダウンするかとか、どのあたりの路地に注意するかとか、そういった細かいノウハウの問題を解決していく必要があります。昼のビジネス街や、夜の繁華街を避けてしまうドライバーもいます。というのも、稼げる場所であるのと同時に、激戦区でもあり、お客さまも厳しい傾向にあるからです。ただ激戦区でしっかり営業をして売上を作れるようにならないと、どうしても収入も増えません。
会社によっては、グループを作ってお互いに話し合ったり、専門の指導員によるセミナーを行ったりすることもあります。長い目でみると自分でしっかり売上を作れるようになることが一番金銭的に得をするので、祝い金だけで会社を決めることなく、よく検討することが大切です。
入社祝い金について説明してきましたが、思ったよりも複雑だと感じた方も多いかと思います。これは私の考えですが、入社祝い金は、求職者に興味をもってもらうきっかけに過ぎないと思っています。「お、20万円もらえるのか、話を聞いてみよう」と思えることが大事で、そこから担当者と話していくことが大切です。「入社祝い金がなぜ20万円に設定されているのか」の事情を聞いてみてもいいと思います。
それによって、入社できないということが生じづらい業界だからです。むしろ、お金のことはしっかりと確認するドライバーのほうが、安心感があると考えてくれる会社もあると思います。入社祝い金をうまく使って、タクシードライバーライフを満喫してください。